明らかに手紙は彼女に強い印象を与えていた。
話しはあやにとっても驚きであった。
「聞いていないわ。誰からかしら」
あやは早くも胸の内がざわざわと波立つのを覚えた。
彼女は改めて清子を見て言った。
「差し出し人の名は覚えているかしら」
清子は身を乗り出した。
「私も実は余り不思議というかびっくりしたので、差し出し人の名を見たの。それで、その名を
見て一層不思議な気がしたので良く覚えているの」
清子はそこで口をつぐみ、その先を言い淀んだ。
「何て言う人」
あやの声に緊張感がにじむ。
そんな彼女の反応を見て、清子はたじろいだ。
「でも、鉄さんが何も言っていないのなら私、言えないわ」
「そんなこと言わないで。何も中身について聞いている訳じゃないのだし。それに秘密にするよ
うな手紙でないかも知れないでしょう。話しが途中までだと、気になってしかたがない。お願い言
って」
清子はそれでもなお躊躇したが、やがて少こし声を落として言った。
「野木和美さん」
「住所は」
「東京、それ以上のことは覚えていないの。あやさんに心当たりがあるんですか」