あやがちゃかす。
「私は深く静かに、ヒラメを待ちましょう」清子が淡淡という。
「お姉ちゃんが言うと、本当にそうなりそうだから不思議だわ」
港が見えた突端、皆が有終の美を目指して張り切り出した。
そんな皆のやる気が海の底に伝わったのか、早速千恵の指先に反応があった。
「やったね、トゲトゲお嬢さん」
あやが楽しそうに声をかけて覗きこんだ。
青く澄んだ水底からは、あやの期待を裏切って、白く滲(にじ)んだハンカチが、ひらひらと舞いながら上がって来た。
「残念でした。イシガレイお先に。私何でもイケますから」
千恵が勝ち誇った声を上げた。
「がっかりさせるわね」
清子までのり始める。
それからの船上は、たて続けのアタリで、喚声と跳ねる魚の音で、第二陣のお祭り騒ぎになった。
高志はまた自分の仕掛けは放っておいて、アンカーを打つ間ももどかし気に、皆の世話係に追わ
れ始めた。
今度のポイントは根から離れた、完全な砂場とみえて、カレイ類一色になった。
イシガレイ、マガレイ、スナガレイ、クロガレイ、北の海のカレイ類は実に豊富だ。
特に春先は産卵のため、これ等のカレイは岸の浅場に寄ってくる。
それも型が良く、卵を抱えて膨れ上がっている。春先は岸からの投げ釣りでも狙える、絶好の釣
りシーズンなのだ。