「やあ鉄さん、こんな日に良く漁に出たね」
「なあに昨日揚げていたのを、今朝の凪(なぎ)の内にと思って持って来たのさ」
鉄さんと呼ばれた、60歳年輩のいかにも漁師らしく日焼けした男が、分厚い防寒着とトックリ
のセーターからのぞかせた表情をわずかに弛めた。
太い首と、厳(いか)つい肩、少し腫れぼったい眼に顎の張った面長の顔が、高志に鉱山の工事現場の飯
場生活を思い出させた。
赤間は鉄さんの向かいに腰を下ろすと、毛糸の手袋のままの両手をストーブにかざした。
「今日は何を揚げたかね、こんな天気続きじゃたいした漁にはならんじゃろう」
「冬はいつもこんなもんだ。それでもスケソウにソイ、アブラコは縄でボチボチ獲れる。おかげ
で食うには困らん」
鉄さんはぼそぼそとした声で返す。
「鉄さんの前浜はこの辺りじゃ一番の漁場だ。おかげでわし等は一年中旨い魚にありつける。あ
りがたいことだ。
ところで、この若い衆とはもう会っているね」
「うん、今朝魚を揚げるのを手伝ってもらった」
「それは良かった。話がし易い。実は彼は昨日、吹雪の峠でわしが馬橇で拾った。その話は?」
「聞いた。母さん達から、昨夜猛さんがここに泊らせたらしいね」
「行きがかり上でね。それでまた行きがかり上の話なんだが」
猛さんはここで言葉を切って、ぐりぐりと眼をむいて高志と鉄さんを交互に見た。
さすがに一瞬のためらいを見せたが、意を決したように続けた。
「なあに昨日揚げていたのを、今朝の凪(なぎ)の内にと思って持って来たのさ」
鉄さんと呼ばれた、60歳年輩のいかにも漁師らしく日焼けした男が、分厚い防寒着とトックリ
のセーターからのぞかせた表情をわずかに弛めた。
太い首と、厳(いか)つい肩、少し腫れぼったい眼に顎の張った面長の顔が、高志に鉱山の工事現場の飯
場生活を思い出させた。
赤間は鉄さんの向かいに腰を下ろすと、毛糸の手袋のままの両手をストーブにかざした。
「今日は何を揚げたかね、こんな天気続きじゃたいした漁にはならんじゃろう」
「冬はいつもこんなもんだ。それでもスケソウにソイ、アブラコは縄でボチボチ獲れる。おかげ
で食うには困らん」
鉄さんはぼそぼそとした声で返す。
「鉄さんの前浜はこの辺りじゃ一番の漁場だ。おかげでわし等は一年中旨い魚にありつける。あ
りがたいことだ。
ところで、この若い衆とはもう会っているね」
「うん、今朝魚を揚げるのを手伝ってもらった」
「それは良かった。話がし易い。実は彼は昨日、吹雪の峠でわしが馬橇で拾った。その話は?」
「聞いた。母さん達から、昨夜猛さんがここに泊らせたらしいね」
「行きがかり上でね。それでまた行きがかり上の話なんだが」
猛さんはここで言葉を切って、ぐりぐりと眼をむいて高志と鉄さんを交互に見た。
さすがに一瞬のためらいを見せたが、意を決したように続けた。