それまではいつまでここに留まるのだと、何か焦りのようなものが募ってきていたのに、あの日
からはここにいなくてはならないと、強く思い始めた。
あやのためだとは言わない。そんなことは決してない。私は根っからの自分のことしか考えない
人間なんだから。
だがらここに留まれ、ここを出て行くなと命じた声は、それがわし自身のためだとも聞こえたの
だ。
体の弱い妻を捨て、幼い我が子に僅かの愛情をかけることすらできなかったわしが、ここで他人
の子のために、生来の欲求を抑えて留まるなんてことはできるはずがないんだ。
それなのにわしはここにいなくてはならないと思ってしまった。
いや、ここにいてもいいんだと思ってしまった。
そんな風に自分がどんどん変わって行くなら、慌てて死ぬこともないか、なんて思ったりし
て・・・・。
まったく、何かを待っている分けでもないのに考えてしまう。何故かって、でもそんな時は決し
て答えなんか見つからからないんだ。
特に、とりつかれたみたいに考えている時は、ますます分からなくなる。
そしてある時、突然何かが起こるんだ。
妻にも何かが襲い、和美にも何かが起きた。
二人ともただ生きていくしかない。
今度の手紙でそのことが良く分かった。
わしは二人に対して罪深いことをした。
どうしょうもない、自分のことしか考えられない、無責任な人間なんだ。