伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ212

2023-07-04 23:04:59 | ジャコシカ・・・小説

妻との争いも増え、やがて子供の泣き声に我慢ができなくなり始めた。わしは生来子供が苦手

 

だったが、自分の子供が出来てからは、はっきりと嫌いになった。

 

何よりも我慢がならなかったのは、あの泣き声。赤子が泣き出すと、神経が狂い出す。

 

世の中でこれほど腹立たしいものはないと思った。

 

妻との争いの大概は、次の仕事に出かける話しが始まった時なんだが、その時のは場所も遠く

 

だったし、期間も一年以上にわたるものだったので、妻の反発も強かった。

 

 和美が泣き始め、これが妻の怒りがそっくり、乗り移ったかと思うほど激しかった。

 

 とうとうわしは逆上して完全に自制を失い、気がついたら妻がわしの胸倉に飛びこみ、振り上げ

 

た右手に武者ぶり付いていた。 

 

 わしの右手には今まで飲んでいた、ビール瓶が握られ、その下では和美が泣き叫んでいた。

 

 我に返ったわしは、自分が何をしょうとしていたかを知り、次の瞬間思わず外に飛び出した。

 

 その夜は一晩中街中をうろつき、翌日には家を離れた。

 

行先は予定されていた現場のある街とは逆の、未だ一度も出向いたことのない所だった。

 

その時のわしの頭の中は、もうここにはいられない、いてはいけないとの考えだけが渦巻いてい

 

た。

 

なあに魂胆は、ただ単に妻子のめんどうをみるのが、いやになったのさ。

 

気ままに自分のことだけを考えて、生きていきたかったのさ。

 

それまでは自分はごく普通の、言わば善良な人間だと思っていた。

 

まっとうに仕事をして、経済的にも自立して、年相応に結婚して家庭を持って、穏やかに暮らし

 

ていく人間だと思っていた。

 

 そのことに対して何の疑いも迷いもなく、改めてそんな生き方について、考えることすらなかっ

 

た。

 


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