伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

小説を発信中

  
  
  
  

  

ジャコシカ21、22

2018-04-05 17:40:57 | ジャコシカ・・・小説
 山は崖のような急斜面だが、欝蒼(うっそう)とした広葉樹の巨木で覆われ、今は葉を落とし黒く尖った枝の

影を根雪に落としている。

 駅までの道は完全に雪に隠されていて痕跡も見えない。

 高志は仰ぎ見て、ぐるりと視線を海に廻し、改めてここに人が住んでいることの不思議を感じた。

前も後ろもここは完全に閉ざされた場所だ。

 しかし不安は感じなかった。むしろ逆に心は次第に、わくわくと子供のように踊り始めている。


 突き出た玄関には、腰高にガラスの入った引き戸がある。入ると直ぐまた同じような引き戸だ。

戸と戸の間は1間しかない。つまりこの玄関は1間突き出して造られている。

 引き戸の敷居はどちらも20センチほどと高い。

 二重の引き戸も高い敷居も、どちらも雪と寒さの厳しい北国特有の造りだ。

 2枚目の引き戸の内側は三和土(たたき)の土間だ。土間は間口1間、奥行きはこの建物の幅一杯の3間ほ

どある。

 壁には漁に使うさまざまな道具や、ロープなどが架けられている。

 入ると直ぐに上がり框(あがりかまち)があり、1間の膝高の磨硝子の入った引き戸を開けると、中央に薪ストー

ブを据えた、10畳ほどの板敷の居間だ。

 居間には海側に1間の出窓、向かい合った壁側は流し場。

 流し場は板敷の間から直接、わずかに半間ほどの突き出しで出来ている。右手から水甕(かめ)、井戸ポ

ンプ、洗台、調理台と並び、左手の壁には鍋釜を置く棚、そして茶箪笥と並んでいる。

 いずれもきちんと整頓され、手入れが行き届いていて清潔だ。

 隣の部屋との仕切りは1間の襖で、開けると6畳の和室、窓があり押入れがあり、小さな仏壇が

置かれている。

 さらに次の部屋も襖で仕切られた和室で、造りは同じだが、襖と向かい合った壁には和箪笥があ

る。箪笥の海側隣には半間のドアが付いている。開けると幅1間、奥行き2間の納戸になってい

た。

 広さは建屋の外見と同じく小さなものだが、無駄がなく使い易そうな造りだ。

 鉄さんは一通り案内すると「高志さんはこの部屋を使ってくれ」と、真ん中の部屋を指示した。

 「蒲団はわしのと合わせて、その押入れに入っている。わしは居間で寝ている。こっちの方が温

まっているから凌(しの)ぎいい。高志さんもこっちがいいだろう。夜はストーブの周りに金網の柵を立て

るから、火の心配はない。冬はストーブの傍で寝るのに越したことはない。朝まで火は絶やさない

から。隣の部屋は枕元の水も凍る」

 高志はそれを聞いて、自分も是非居間で寝かせて欲しいと言った。

 「便所は土間の奥だ」

 ストーブの火を入れ終わってから、思い出したように鉄さんが言った。

 ストーブには大きな鉄瓶が載っていて、銅の湯沸し器も付いている。

 湯がわくと鉄さんは茶を入れ、卓袱台の上にどんぶりに盛った、白菜の漬け物を出した。

 「わしの手作りだ」と言った後は、静かに茶を飲み白菜の漬け物で音を立てた。

 鉄さんは寡黙だ。

 そう思った時、高志は船着場に着いてからずっと自分が「はい」とか「分かりました」としか言

ってないのに気付いた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 野性の証明 | トップ | 鉢植え・・・植えたとたん淡... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ジャコシカ・・・小説」カテゴリの最新記事