伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ213

2023-07-05 23:27:07 | ジャコシカ・・・小説

 だから結婚した。

 

 だから子供をもうけた。

 

 めでたしめでたしの、順調な出だしだったはずなのに、日が重なるにつれて、何かがおかしくな

 

ってきた。

 

 そしてあの幼い我が子に、ビール瓶を振り上げた瞬間から、違う自分に成ってしまった。

 

 いや違うんだ。成ってしまったのではない、ただ単に気付いてしまったのだ。

 

 あの時から、もう元へは戻れなくなってしまった。

 

 一度そんな世界に踏みこんでしまうと、何でもかんでもが、今までとは違って見え出し感じ始め

 

てしまう。

 

 すっかりはまりこみ、いつの間にか自分のことしか考えられなくなり、そのことを守るためなら

 

何だって許される、それ以外に価値のあることなんて何もないと考え始めた。

 

 そんな風になると、妻や子の所に帰るどころか、一カ所に長く留まることすら、できなくなって

 

しまった。

 

 大工という特定の仕事を続けることにも、意味がなくなってしまった。

 

 周りの人間がわしのことを、ちゃんとしたつまり常識をわきまえた、善良な人間だと思い始める

 

と、そわそわと落ち着かなくなり、気が付くとまた、知らぬ土地に流れている。

 

 そんな暮らしを長く続けていると、仕舞いには自分が何故そんな暮らしをしているのか、まるで

 

解らなくなる。

 

 自分が誰なのか、何で今そこにいるのかもぼやけてくる。

 

 ただ流れるままに生きていると、時折、自分が静かに死につつあるのだと思うことがある。

 

 


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