その後で息苦しくなり、眼の前が心許なく揺れて、直ぐには言葉が出てこない。
自分でも驚くほどに動揺していた。
追いかけるように怒りが湧いてきた。
「何か特別なお話しでもあるのでしょうか」
桐山は困った顔で笑った。
「誘い方が悪かったかな。どうもびっくりさせたみたいだね。構えなくても大丈夫、仕事の話し
ではないから。ただ君と二人でゆっくり食事をしたいだけなんだ」
「ありがとうございます。でも私お断りします」
「おやおや即答ですか、それもまあ実に明解だ。一撃で粉砕ですか、でも私もそれほどやわじゃ
ないし、初(うぶ)でもありません。
今日は突然で驚かしてしまったようなので引きますが、次回は是非おつき合い下さい。
でなければ私、何度でも誘います」
「何度声をかけていただいても駄目です。私お断りしますから」
今度は呼吸を整えて、きっぱりと言った。
その表情を見て桐山は楽し気に笑った。
「やっぱりあやさんは私の思った通りの人だ。気持ちが真っ直ぐで一層惹かれる。でも今日のこ
とは取り合えず二人だけの秘密にして下さい」
「誰れにも言いません。誘ってくれてありがとうございます」
「それでは振られた男は、取り合えず退散します」
桐山はさして失望した様子も困った顔も見せずに7階に戻って行った。