「仮に何も考えない人の場合、その人の人生にはどんな意味があるのだろう。それと、どんな未
来が待っているのだろう」
「意味については私には解らないの。ただ未来については、あまりいいことは考えにくいわね。
どちらかと言えば野たれ死に、でもまあ運のいい人っているのだから、案外いい暮らしをしていた
り、大金持ちに成っているなんてことだってあるかも知れない。
いずれにしても真っ当な生き方だとは思わないわ。
私達の人生って、好むと好まざるとに拘わらず、一日一日の努力の積み重ねでしょう。
それを否定したら何も残らない。
私はそう考える」、
言い切った言葉に、自分でも意外なほどの力が入っているのに気付いた清子は、思わず千恵の反
応を見た。
その時妹は、どこか途方に暮れた眼差しを窓の外に向けていた。
「ところでお前、今日はいつもと違わないかい」
残ったコーヒーを傾け、カップを唇から離さないままに、姉は妹を見詰めた。
やがてゆっくりとコーヒーを置いてから言った。
「お前もしかして、高志さんのことを考えていないかい」
千恵は窓の外に向けた視線を戻さないままで言った。
「少こしね」
「あの時の言葉ね」