退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界

2015-03-04 06:29:18 | 韓で遊ぶ


感謝を描く

私は学校を卒業して小さな洋服店を始めました。
世の中に向かって踏み出す第一歩でした。他の誰よりもうまくやりたいという欲で、いつも早く店を開け、そして遅くまで仕事をしました。
その日も夜が明けるなり出て、店を開こうとしたら店の前に財布が落ちていました。
見た目にも分厚い財布には、たくさんのお金が入っていました。
「あれまあ、、」
これ幸いとそのまま持っているのも良心が許さず、私は持ち主を探すことにしました。
しばらくして、一人の女子学生が蒼白な顔をして訪ねてきました。
「あの、財布を捜しに来ましたが。」
「お、あなたのだったの。でも、またどうして、、、」
財布を受け取った女学生は、経緯を聞く間もなく、ありがとうと言う言葉一言だけを残して走るように行ってしまいました。お返しを期待した訳ではないのですが、寂しい気持ちがしました。
そのことがあって一ヶ月ぐらいたった頃でしょうか。私はびっくり驚きました。
どんよりとしてうす暗いシャッターに華やかな春の風景が描かれていたのです。すごく驚いてあたりを見回して見ると、戸の隙間に紙がはさんでありました。
「ありがたい方に、一ヶ月前に財布を拾ったでしょう。私はその財布の持ち主の弟です。姉は、その時、お金をなくしてしまってすごく泣いて、失神するぐらいの心境でした。そのお金は姉がアルバイトをし、苦労をして貯めた大学の入学金だったのです。財布を見つけてくれた人に、ありがとうという挨拶もちゃんとできなかったと心配した姉のために、そして、ありがたい人のために、私ができることはこれぐらいしかありません。」
ですが、それだけではありませんでした。ある日には粗雑なセールの広告が洗練された文字に変わっていましたし、夏が来れば涼しげな夏の風景が、秋が来れば秋の風景が、まるで魔術のように店の前を彩りました。
私はその優しい弟に一度会ってみたいと思いました。どうか一度来てくれというメモを張って、夜遅くまで待ってみたりもしましたが、彼は現れませんでした。
そうやって3年という歳月が流れ、私は店を知っている後輩に譲り結婚をしました。
ですが、ある日その後輩が大騒ぎで電話をかけてきました。
今年も変わることなく店の前に夏が来たということでした。
コメント
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