
婚礼蒲団
今日は引越しの日です。
我が家には引越しの度に心を悩ませるものがひとつあります。20年近く使うこともない綿蒲団一組。
夫はベッドの暮らしに必要ないから捨ててしまえと言いますが、私はどうしても捨てることができません。火に燃えた跡までついている蒲団ですが、私には心を悩ませるものではなく、位牌のように蒲団の包みに仕えて来ました。
そこには綿よりもふわふわしていて暖かい私の母の愛がしみているからです。
私が結婚する前、母は3年間、綿花を植えて真心をこめて綿を集めました。それも初なりのものを選んで、蒲団を1組作りながら、綿を打つのを見物している私に言い聞かせました。
「この次に綿がへたって打ち直しに出す時は、しっかりと見守らないとならない。他の綿と代わったらもったいない。」
私は母の言葉に考えもなく、うなずきはしました。
ですが、結婚式を何日か前にして、意外な事件が起きてしまいました。
末の妹が蚊帳の中に灯火を灯して勉強していて火を出してしまいました。
幸いにもすぐに発見して火は消しましたが、その渦中に婚礼蒲団に火が移って燃え始めました。
その瞬間、母はとっさに飛びついて、手のひらでその火を消そうとしました。家族たちが止めても、火を消そうとして手に火傷を負った母。
母は火のついたビニールの繊維が手について、手のひらに火傷を負っても綿が燃えるのを防げてよろこびました。
母が亡くなった今も、母の傷ついた手のひらの跡が残っている綿のこげ跡を見ると、いつも涙が流れる私は、いつも心を悩ますものではなく位牌のように抱きしめて引越しをするのです。