![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2c/6b/e7b4176f601c436fb616415a7513d42e_s.jpg)
つぶれた万年筆
ある有名な作家がドイツを旅行した時でした。彼は公園で自分を知っている人たちに会いサインをしてあげました。
「先生、遅くなりました。急いで下さい。」
少年の順番が来た時、待機していた自動車が来て彼に催促しました。そのため急いで行こうとした作家は万年筆を落としてしまいました。
「あら、万年筆を落としたみたい。」
少年は万年筆を拾って作家のほうにかけていきました。
「先生、万年筆。」
作家は少年を見ましたが、このまま行きなさいというように手を振り、行ってしまいました。
それから何ヶ月か後、作家はドイツから来た小包を受け取りました。
つぶれた万年筆と手紙が入っている箱でした。
「私は公園で偶然に先生の万年筆を拾った子供の父親です。子供は万年筆を拾った日から先生の住所を調べようと努力しました。」
それはまだ13歳にしかならない少年には簡単な事ではなかったのですが、少年は万年筆を持ち主に返してやらなければとあきらめませんでした。そんなある日、少年は作家の文章の載った新聞を見て新聞社をたずねて住所を知りました。
「その時の喜んでいた息子の姿が目にありありと浮かびます。ですが、先生、郵便局に行って万年筆を送ってくると行った息子は、もう帰ってくることはできませんでした。
あまりにもうれしい気持ちで走って行き、近づいてくる自動車に気がつかなかったのです。息子の手にしっかりと握り締めていた万年筆だけが私のところに帰って来ました。私は、たとえつぶれてしまいましたが、この万年筆は先生に返そうと思いました。何よりも私の息子がそれを切実に願ったからです。」