退屈しないように シニアの暮らし

ブログ巡り、パン作り、テニス、犬と遊ぶ、リコーダー、韓国、温泉、俳句、麻雀、木工、家庭菜園、散歩
さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-04-20 06:41:16 | 韓で遊ぶ


窓がある部屋

ヨンスの家族は、突然、不渡りに遇いました。
それで住んでいた家を出て、町外れの急坂にある町内に引越しすることになりました。庭のある広い家で、人をうらやむことなく暮らしていたヨンスは、新しく引っ越して来た町が全く気に入りませんでした。
「く、、、この匂い、、、」
ここそこから変なにおいがしてヨンスは鼻をつまみました。それに、窓一つない地下の一間の家、、、解くほどの荷物もなく、置く場所もほとんどない引越しは2時間もかからないで終わりました。
その日以後、父さんは事業に失敗したことを罪だとでも思うように家族に対してすまないく思い、母さんは大丈夫といいながらも、昼にも灯りをつけなければ、目の前の物も見えない穴ぐらのような家を、いつも息苦しく思っていました。
とても暗くて息苦しい時だけつける白熱灯をつけながら、母さんがため息のように言いました。
「あ、、、窓がひとつでもあれば、生きた心地がするのに、、、」
そんなある日、母さんが外出した時に、ヨンスと父さんは事を企てました。
壁に窓を描くことにしたのです。
背の小さいヨンスは台の上にのって、一生懸命、窓枠を描いて、父さんはその窓枠が木でできているようにペンキを塗って、軍隊でやったことのある縫い物の腕を生かして古い布でカーテンを作って吊るしました。
「さあ、どうだ。」
「わぁ。本物みたい。へへ、、、」
父娘は見つめあって久しぶりに明るく笑いました。掌ほどの壁に窓ができたのです。夕方頃、母さんが帰ってきて部屋の戸を開けました。
「あら、いったい何。あれまあ、、、」
壁にかかったカーテンが目に入った母の顔に明るい微笑が浮かんだのでした。
何事も無いように本と新聞を読んでいたヨンスと父さんは、すぐに立ち上がって近寄りました。ヨンスはカーテンを両側に開いて紐で結びました。窓が現れ、木と花も見えました。母さんの目元に涙が浮かび、そのままツーとこぼれました。
「あなた、、、」
「ヨンス、、、」
3人は互いにしっかりと抱き合いました。
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幸福な世界 2

2015-04-19 06:31:40 | 韓で遊ぶ


4000ウォンの背広

末っ子が何日か前からしきりにカレンダーを見ていました。
「12月21日。」
子供の指の行くところはいつも同じ、パパの誕生日です。一日に何回か、かわいい手で日数を数えては、また数えるのでした。
「家の、チビちゃんはパパに何を買ってあげるのかしら。」
 ママがにっこり笑って訊きました。10個、20個といいながら日数を数える姿がかわいくて、私たちがわざと訊く度に、末っ子は答える代わりにただ笑うだけでした。7歳の末っ子が果たしてどんなプレゼントを準備しているのか気になりました。
カレンダーの×印が増えていって末っ子の待っている日が近づいてきました。やがて、家族みんなが父の周りに集まった誕生日の夕方でした。父は誕生日のケーキのろうそくの火を吹き消しました。
「パパ、誕生日おめでとう。」
「おめでとう。プレゼントよ。」
長女と次女が差し出したプレゼントを受け取ったパパは、その中に入っているカードを取り出して、一つ一つ大きな声で読みました。
私の手紙をはじめとして、二番目、三番目の手紙、、そして末っ子の番になりました。末っ子が差し出した白い封筒の中からは、白い硬貨、黄色い硬貨と一緒に手紙が一枚出てきました。
「背広4000ウォンなのに3800ウォンしか貯まりまちぇん。パパごめんなちゃい。」
父は末っ子のまねをして子供のような声で手紙を読みました。訛り、誤字、間違った尊敬語が混じった手紙。吹き出る笑いをこらえた私たちは、末っ子の子持ちを知ると皆、静かになりました。
何ヶ月か前のことです。
「パパ、行ってらっしゃい。」
家族がパパを見送っった後、ママが寂しい顔で独り言を言いました。
「背広を一着買わないとならないのに、、、。」
その日、末っ子は家の前のクリーニング店のガラス戸に張ってある「背広4000ウォン」という紙を見てパパを思い浮かべました。
1着4000ウォン。町内のおばさんがクリーニング代4000ウォンを払って背広を持って行くと、それを見た末っ子は、背広1着の値段を間違えてそう思ったのです。その後からお菓子ひとつ減らして、飴ひとつ惜しんで貯金箱に10ウォン、50ウォン、100ウォン硬貨を集めた末っ子。
「いや、家のチビちゃんのおかげで、パパが世界で一番金持ちになった気分だ。」
父は手の上の硬貨を眺めながら明るく笑いました。
末っ子は、いまだに背広の値段の4000ウォンに満たなかった事が悔しくて涙を浮かべていて、お金では買うことのできない貴重なプレゼントをもらった父は、我が家のかわいくて健気な末っ子を力いっぱい抱しめました。
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幸福な世界 2

2015-04-18 07:18:49 | 韓で遊ぶ


奇跡

田舎の小さな村、3人家族が暮らす粗末な家に心配事が生じました。
5歳の末っ子が病気になって寝込んでから何ヶ月か経ち、子供は十分な治療を受けることもできないまま弱っていきました。
「う、、、ぅん、、、痛いよぅ、、、」
母は、なすすべもなく痛がる子供の頭をなでるだけでした。
そんなある日、少年は奇跡だけが弟を助けてくれるという母の切実な祈りの言葉を聞きました。
「奇跡があれば、、どうか。」
ドアの隙間から聞いた少年は気になりました。
「奇跡?奇跡って何だろう。」
次の日の朝、少年は母に隠れて豚の貯金箱を開けました。
「1000ウォン、2000ウォン、5000ウォン」
豚の貯金箱にはお金が全部で7600ウォン。少年はそのお金を持って10里の道を走って町の薬局に行きました。
「ハァ、ハァ、ハァ、、、」
「あれまあ、息を切らして。どうした。何の薬がほしいんだ。」
息苦しくて言葉もできず、ハァハァしている少年に近づいて行き、薬剤師は聞きました。
「あ、、、あの、、、弟が病気で、奇跡があれば、治るって。」
「奇跡?いや、奇跡だって。」
「ここには、奇跡、売っていませんか。」
「これはどうしたもんか。ここでは奇跡を売っていないが。」
横でずっとその光景を見ていた紳士が尋ねました。
「オチビちゃん、君の弟はどんな奇跡が必要なんだ。」
「あ、ボクもわかりません。手術をしなければならないけど、お金がなくて、奇跡があれば助かるって。だから奇跡を買わなければならないのに、、」
「はは、それは、お金はどれぐらいあるの。」
「これ、、これ、、これぐらい。」
子供はお金を両手にのせて見せました。
紳士は、7600ウォンで奇跡を買おうとする少年に案内させて、その子の家に行きました。そして、少年の弟を診察した後、病院に移し直接手術までしてくれました。薬剤師の弟であるその人は、大きな病院の有名な外科医師だったのでした。
手術は無事に終わり、少年の母が手術費用を尋ねると、その医者は言いました。
「手術費は7600ウォンです。」
弟を助けたいと思った少年の愛が、たった7600ウォンで夢のような奇跡を買ったのです。
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幸福な世界 2

2015-04-17 06:03:41 | 韓で遊ぶ


ユリの貯金箱

ユリは今年6歳になる子供です。
人をうらやむことなく仲良く幸福だったユリの家に不幸が訪れました。パパの仕事がうまくいかなくなって、暮らしも苦しくなったのです。
「ふぅ、、、。」
一日中ため息をついているママがある日、化粧台の後ろの隙間に500ウォン硬貨を投げ入れて言いました。
「ユリはパパの誕生日に何を買ってあげたいの。」
「うぅん、、、パパの靴。」
「靴、そしたら私たち、それまでここにお金をためましょう。」
貯金箱の代わりに化粧台の後ろの小さな隙間にお金を貯めることにしたのです。
ユリは小さな顔に力をこめてうなずきました。そしてママはそのことをすっかり忘れてしまいました。
黄色のレンギョウが咲いたある春の日、パパの誕生日の前日、ママは、逆さにしても小銭ばかりがこぼれ落ちる中身のない財布を手に持って、心が痛くてどうすることもできませんでした。
その時、ユリが化粧台の後ろを指差して言いました。
「ママ、あそこ、パパの靴、、、。」
「靴?」
けげんな顔をしたママは、ユリのまじめな顔をのぞきこみました。その時、かすかな記憶が浮かびました。ママは化粧台を前に引っ張ってみました。埃が白く積もった隙間には、いつの間にか小銭がたくさん積もっていました。
「あらまあ、いつの間に、こんなに。」
ユリが自分のお小遣いを一銭も使わないで化粧台の隙間の秘密貯金箱に入れておいたのでした。
ユリとママは手をしっかりと握って、そのまま市場へ行き、パパの足にぴったりのしっかりした靴を買いました。元気の出たパパは、ユリの買ってくれた新しい靴を履いて、新しい職場を探しに行くことになりました。ユリがパパに駆け寄って行き抱っこされながらパパの耳元でささやきました。
「パパ、パパ、今度はママの靴を買ってあげなきゃ。」
「そうだ、そしてその次はユリの靴を買おう。」
パパは500ウォン硬貨をひとつユリにあげました。ユリはその硬貨を秘密でない秘密の貯金箱に入れたのでした。
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幸福な世界 2

2015-04-16 06:36:36 | 韓で遊ぶ


父の窓

トンミは町の賃貸アパート街に暮らす少女です。
トンミのお父さんは“ルゲリック (ALS)”という病気と7年間、闘っています。
粗末な部屋のベッドに横たわっている父。精神ははっきりしているけれど、、、とても、しっかりしているけれど身体がこわばってしまい言葉も発することができない恐ろしい病気でした。言葉はもちろん、一人では息をすることさえも大変で、いつも呼吸器をつけて生きなければなりません。父の意思表示の手段は、唯一動くことができる足の指ひとつで、ベッドの足元のベルを押すことです。
「ピルル。」
父の足元のベルを押すと、ベッドの横でご飯を食べさせてあげている母に何かを言おうとしているのです。
「なあに。もう食べないって?」
父は違うと言うように、顔をしかめてもう一度ベルを押しました。
母は7年の看病のおかげで、いまや父の目を見ても、その気持ちをわかるようになりましたが、時には間違う時もあり、互いに苛々しました。父との意思疎通をもっと自由にしたいと思ったトンミがある日とんでもないことを思いつきました。
「へ、、、へ、、できた。」
トンミは紙に大きく文字版を作りました。
「父さん、父さん、、今からこうしましょう。言いたい言葉があったならば、私が文字を一つ一つ指差すからベルを押して。」
トンミが“50音”が大きく書かれた文字盤を持って指差していきながら、該当する文字で父が足の指でベルを押すのを並べて、気持ちを読むということでした。父の顔を見て書いていくトンミ、文字を指差すなり父はベルを押します。それは言葉で言うほど簡単なことではないけれど、父娘はやってみようと思いました。
「い、い、ほ、う、、」
父の顔を見てトンミは「いい方法」と書いた紙をあげます。
「あ、いい方法ですって?」
父は涙を流して反応しました。文字盤の対話は成功しました。ある日の夜、母がしばし背中を丸めて眠っている間、トンミと父は事を企てました。1日2時間ぐらい寝るか寝ないかの苦労をしている母に手紙を書くことにしたのです。手紙は一晩かかって完成しました。次の日の朝、目をさました母が手紙を見つけました。
「かあさん、私が悪くなってから長いな。悪い家長のために苦労するお前と子供たちにすまない。だけど、私は絶対にあきらめないできっと良くなるから。」
母を見つめる父の目に涙が浮かびました。
「あなた、、、」
父のまぶたで書いた手紙には、この間、千回、一万回よりももっと言いたかった言葉が入っていました。トンミは言葉を失った父の心に大きく澄んだ窓をひとつ開けたのです。

※ 本文では“母音子音”
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幸福な世界 2

2015-04-15 05:47:03 | 韓で遊ぶ


父の手紙

木の枝ごとに小さな花のつぼみがついた春の日です。
山奥の小さな村から上京し大学に通う私は、一月に一回、父からの手紙を受け取りました。
黄色い紙を半分に切って、鉛筆でこつこつと押し書いた手紙の書き始めは、いつもこのように始まりました。
「タロへ。」
ですが、その日は何か変でした。
タロではなく「ヨンスクへ。」で始まる手紙は、父が妹のヨンスクに送るものだったのです。
もしやと封筒を見ると、「チェダロ宛」と書かれていました。
「父さんも、まったく、、、。」
ふと笑いがでました。封筒が入れ替わったと思われる手紙を元通りに入れようとした私は、その内容が気になりました。
「ヨンスクヘ。お前がくれたお金は、兄さんの入学金として送った。兄さんもありがたく思うだろう。」
小学校をやっと卒業して、そのまま工場へ就職し苦労して働いている妹のヨンスク。
次の日、私は入れ替わった手紙を持って妹が仕事をする工場に訪ねていきました。
うれしそうに走ってきたヨンスクも手紙を持って来ました。
「兄さん、このせいで来たのでしょ。」
「やっぱりそうだったのか。これ、、、。」
私たち兄妹は入れ代わった手紙を交換しました。妹が受け取った手紙は「タロへ」で始まっていました。
「成績が上がったんだな。この父よりもヨンスクがもっと喜ぶだろう。お前はお金の心配をしないで勉強を一生懸命しなさい。」
「兄さん、大変でしょう。」
手紙を全部読んだ妹が、断る私の手に無理やり小遣いを握らせて走って行きました。
少し行ってヨンスクが私に大きく叫びました。
「おいしいものを買って食べて行って勉強して。兄さん。じゃあね。」
その日以後、父はいつも半分に切った紙に「ヨンスクヘ」で始まる手紙を私に送って、その度に私たち兄妹は会って手紙を交換したのでした。
半分に切った紙に書いた手紙は、私たち兄妹が互いに理解できるようにするために、父がわざと取り替えていたのでした。
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幸福な世界

2015-04-14 06:52:56 | 韓で遊ぶ


私の弟

授業が終わった頃でした。
急に空が暗くなって雲から音が聞こえたと思ったらすぐに雨が降り始めました。
私は門の前に立って打ち降る雨をぼんやり見ていました。以前は母が傘を持って迎えに来てくれたでしょうが、1年前、突然の事故で父母が一緒に亡くなった後は、私には傘を持ってきてくれる人は誰もいませんでした。
その時、友達が近づいてきて傘を差し出しました。
「傘がないのね。一緒に行こう。」
私たちはバスの停留所まで仲良く傘をさして歩いて行きました。
「ありがとう、じゃあね。」
友達のおかげでバスに乗るところまでは問題なかったのですが、バスから降りた後が心配でした。ですが、バスの停留所には弟が傘を持って来ていました。
授業が早く終わった弟は、びしょびしょに雨に濡れて帰って来て、ひとつだけしかない傘を持って私を迎えに来ていたのでした。
肩を並べて家に向かった私たちは小川の前で立ち止まりました。雨のせいで水が増えて飛び石が隠れてしまったのでした。制服を着ている上に、ひとつしかない靴が気にかかり困っている私の前に、弟がすぐに背中を向けました。
「さあ、姉さん。」
「お、おお、、、」
私はとても驚いて、ただ弟の背中を見て立っていました。
「姉さん、早く乗って。」
「何、お前が、私を。」
「姉さん、靴が濡れたらダメじゃない。僕が姉さんぐらい背負えるよ。」
あまりにも弟が自信ありげに言い張るので、私はうっかり弟の背中に乗りました。時々立ち止まっては笑って見せて、また行っては笑ってみせながら、自分よりも体格のいい姉を背負って小川を渡った弟。すまないと思いながらも、いつの間にか大きくなったようで頼もしい気持ちでした。
その日の晩、弟はかなり早く寝てしまいました。
弟は、疲れていたのか蒲団はみな蹴飛ばし、靴下も脱がないままぐっすり眠ていました。その姿がとても不憫でした。
「この子ったら、、いくら疲れたからって、、、まったく、力自慢をした割には、、、」
靴下を脱がせてあげようとした瞬間、私はその場に凍りついてしまいました。皮膚が裂けて血のアザまである傷だらけの足、考えてみると、弟は今日サンダルを履いていました。小川を渡る時、立ち止まって笑って見せたのは、我慢して痛みを隠すために、そうしていたのでした。自分の足に血のアザができるかもしれないのに、姉さんの靴を心配してくれる優しい弟。私は寝ている弟の傷に薬を塗ってやりながら、どんなことがあっても弟の面倒は、お前が見てやってくれという母の最期の言葉が、浮かんできて胸が押し付けられました。
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幸福な世界 2

2015-04-07 06:26:13 | 韓で遊ぶ


夫の菊の花

秋が深まってきたある日のことでした。
仕事から帰ってきた夫が、出し抜けに黄色い菊の花束を差し出しました。
「何で、花かしら。誕生日でもないのに。」
「おまえにやる秋の便りだ。」
夫は、大したことでもないように言いましたが、私は胸がドキッとしました。なんでもない日に花をプレゼントされたことは、生まれては初めてだからです。私が花瓶に花を挿して置いたら夫も満足気でした。
「そんなにうれしいか。たった1000ウォンで奥さんを幸せにできるとは思わなかったな。」
次の日、仕事から帰った夫は、また花を差し出しました。問題はその後に起こりました。次の日も、その次の日も、仕事から帰った夫の手には菊の花束が抱えられていました。
家の中は菊の花畑に変り、花を置く適当な場所を探すのに、だんだん時間がかかるようになりました。
水差しに生けて下駄箱の上にも置きましたが、もう家の中が菊の花でいっぱいになりました。
「もう、遠慮するわ。花が多すぎて置く場所もないじゃないの。」
もしや私のためではなくて自分が好きで買ってくるのか、でなければ花屋の娘さんが気に入って毎日立ち寄っているのではないか、などという疑いまで生じるほどでした。
今日も花を買って来たら絶対に問いただしてみようと心に決めていた日、幸いにも夫は花を持ってきませんでした。
ですが今度はポケットから安全ピンを取り出したのでした。
「さあ、これ。」
あれまあ、花の代わりに下着に入れるゴムひもと安全ピン、防虫剤をいっぱい買って来たのでした。私はあきれて言葉も出ませんでした。
次の日も、その次の日も夫のおかしな買い物は続きました。
私は、もうこれ以上我慢できなくて聞きました。
「あなた、いったいなんなの。何でしょっちゅうこんなものを買ってくるの。」
ちょっとためらった夫が頭を掻きながら一部始終を打ち明けました。
「それがだね。」
少し前から会社の前の路地におばあさんが孫娘をつれて来て商売を始めたということでした。
はじめは菊の花を売っていたら3日前からはゴムひも、安全ピンのようなものを並べて売っているということでした。
「あんまり気の毒で黙って通り過ぎる事ができなくて。」
私は言葉もなく夫の手を握りました。がさがさしていて、しわがよっているけれどまだ暖かい手。
「ごめんね。お前は1ウォンでも大事に使うのに。」
「いいえ、あなた。そのおばあさんが商売をしている間、毎日ひとつずつ買ってきて。」
「そうしたら家の中で古物商をするようになるな、ほほ。」
夫のその言葉に私は笑いながらいいました。
「みんな使いましょう。安全ピンもゴムひもも使える時まで使って、みんな使い切れない時には売りましょう。そしたらあなたのようなやさしい人がまた買ってくれるんじゃないの。」
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幸福な世界 2

2015-04-06 06:55:03 | 韓で遊ぶ


気持ちを整える美容院

混みあっている市場の真ん中に小さな美容院がありました。
客足がとだえた時間、美容室の主人はけだるい気分でしばしの余裕を楽しんでいました。その時、ドアを開いて一人の男が入って来ました。
すごく怒ったような表情でつかつかと入ってきた男は、主人が席を勧める前に勝手に椅子に座りました。
「さっぱりと丸坊主にしてください。」
「えっ。」
「丸坊主にしてください。」
男は怒りをあらわにして言い放しました。その時、やっと女主人は、この怒っている男性が近所の人だということが分かりました。
おそらく何か面白くないことがあったようです。
「どうしたのかしら。」
意のままに事が運ばないので髪の毛に八つ当たりをしているのだと、女主人は長年の経験で分かりました。
だから、はさみを持つ前に、コーヒーを入れて勧めました。
そして、彼がコーヒーを飲んでいる間、言葉をかけました。コーヒーを飲んだ男は少し落ち着いたのか、一息ついて話し出しました。
「まったく、取り付く島もありゃしない。」
事情はこうでした。一ヶ月前に職場を解雇され、それまですごく良くしてくれていた妻が、話をしても無視してかんしゃくを起こしているということでした。
「ならば髪をさっぱり刈ってしまうのではなくて短く整えてはどうですか。でなければ、ちょっと、炒めてパーマでもかけるとか、、、。」
「えっ、炒める?ほほ。」
炒めるという言葉に、予想通り笑い出した男は、丸坊主にするという注文を取り消しました。
「ただ、新入社員のように短く刈ってください。いずれにしても髪の毛よりも人の気持ちをちゃんと整えてくれるのですね。」
「私が、そんなことしました?ほほ、、、」
世の中で一番素敵な褒め言葉に女主人は幸せな気持ちになり、怒りにあふれて入ってきた男はしばらくして10才は若くなった姿で美容院を出て行きました。
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幸福な世界 2

2015-04-05 05:44:41 | 韓で遊ぶ


白菜売りの良心

住宅街を通って野菜を売る移動野菜売りがいました。
「さあ、新鮮な白菜だよ。白菜、、、買ってよ。買って。」
この野菜売りは、家の前の通りで白菜、大根のような野菜を積んで来ては町内のおばさんたちを集めていました。
ある日、外出から帰ってくる途中、白菜がとても新鮮に見えて6株買った私は配達を頼みました。
「棟と号数だけ教えてください。持って行きます。心配しないで。」
「5棟415号よ。」
私は何の疑いも持たず、棟と号数を教えて白菜の代金を払って家に帰りました。ですが、持ってくるといった白菜売りが夕方頃になっても来ませんでした。
乾いた空に急に黒い雲が押し寄せてきて、夕立がひとしきり激しく降りました。雨が降って遅くなったのだろうと思って待っていた私は、雨がやんで晩になっても白菜売りが来なかったので、怒りがこみ上げてきて我慢できませんでした。
「まったく、1万ウォンぐらいのお金で良心を売るなんて、、まったく。」
「そんな物売りを信じたお前がまちがいだったのさ。ただ、なくしたと思え。」
夫は慰めとも叱責ともつかない言葉で私の気持ちを逆なでし、私は落胆した気持ちで寝ました。
次の日は天気も良くて洗濯をしました。パンパンはたいてベランダで干していたお昼頃でした。
「ピンポン。」
「どなた。」
「あの、もしや昨日白菜を買いませんでしたか。」
私はすぐに戸を開けました。玄関の前には、汗まみれのみすぼらしい身なりの男が立っていました。昨日の白菜売りでした。私はうれしい気持ちよりも叱責するほうの気持ちが先に立ち、たしなめるように言いました。
「ええ、そうよ。で、何で今頃来たの。」
白菜売りは、すまなそうに頭を掻きながら紙切れを差し出しました。
「棟、号数を書いた紙が雨に濡れて、、、みんな滲んで最後の5だけが残ったんですよ。」
彼は、すごく驚いて見つめる私の表情には心を留めませんでした。
「だから、この団地の中の5号と言う5号はみんな回ったのですが、日が暮れてしまって、、、これ、すみませんでした。」
彼は頭を下げて私に謝罪しました。彼はかくれんぼのような家探しに本当に疲れたように唇まではれていました。
「まあ、私はそんなこととも知らず、、、」
彼は、お昼でも食べていきなさいと引き止める私の手を振り切って、これからでも商売に行かなければならないと言って帰って行き、私はそんな彼を疑った自分が恥ずかしく頭を上げることができませんでした。
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