





兄のサム・ケイヒル(トビー・マグワイア)は優等生タイプで、米軍の大尉として数日後にアフガンへの再派遣が決まっている。サムの送別会の日に、弟のトミー(ジェイク・ギレンホール)は刑務所から仮釈放されシャバに復帰してくる。対照的な兄弟で、元軍人の父親ハンク(サム・シェパード)は、サムを誇りに思い、トミーに対し辛く当たる。
派遣後数日たって、サムが死亡したとの知らせが妻グレース(ナタリー・ポートマン)と2人の娘の下にもたらされる。哀しみにくれるケイヒル一家だったが、葬儀も終え、現実を生きて行かなければならない。トミーは、グレースたちを助け、2人の娘もトミーにすっかり懐いて、それなりにどうにか日常を取り戻しつつあった。トミーとグレースも互いに心の支えとなって行く。
そんなある日、グレースは電話を受ける。それは、死んだはずのサムが、現地のゲリラに捕えられていて生きていた、無事解放された、という内容であった。晴れて生還するサムであったが、それはグレースの知るサムではなくなっていた、、、。
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◆リメイクだったとは……
ゼンゼン知らなかったのですが、本作は、スザンネ・ビア監督のデンマーク映画『ある愛の風景』のリメイクだそうで、、、。見終わってから知って良かった。私、彼女の監督映画2作品しか見ていませんが、どっちもダメだったので。
どうダメだったのかは、2作(『しあわせな孤独』『アフター・ウェディング』)ともみんシネに書きましたので、よろしければそちらをご覧ください。
本作は、監督がジム・シェリダンで、私の愛するDDL作品を何本も監督している人なので、まあ、見てみようかなぁ、と思ったのでした。……と言っても、DDL主演のシェリダン作品でもの凄く好きな作品があるわけでもないんですが、、、。
◆復員したら、嫁さんが弟の嫁さんになっていた、、、
……という話は、日本の戦後でも枚挙に遑がなかったそうです。まあ、国に「死んだ」と聞かされれば、家族は死んだと思いますよね、普通は。何かの間違いであって欲しいと願いはしますけれども、そこで、「死んだはずはない、絶対生きている!!」と信じられる人の方が少数派だと思います。私も、信じたくないと思いつつ、受け入れて行くでしょうねぇ、こういう場合。
しかし、肝心の戻って来た本人にしてみれば、死線を彷徨って、それこそ“必死の思い”で愛する妻の下に戻って来たら、こともあろうに弟の妻になっていようとは……!! その衝撃たるや、想像を絶します。いっそ他人であればまだしも、、、。
本作の、サムの心境もいかばかりか、、、。しかも、明らかに家族の顔には戸惑いの色が浮かんでいるわけです。もっと言っちゃうと「死んでくれていれば良かったのに」という彼らの心の声が聞こえる心境だったのではないでしょうか。グレースは、トミーと再婚なんてしていませんし、別に何もなかったのですが、互いの心の穴を埋め合うように、少しずつ精神的な距離を縮めていたのは確かで、それを、サムが敏感に察知しないはずはありません。グレースには「弟と寝たんだろ」と言い、トミーには「グレースと寝たんだろ」と言い、自分で自分をどんどん追い詰めるサムが痛々しい、、、。
◆兄弟&姉妹
サムとトミーが対照して描かれているのと同様に、グレースの2人の娘たちイザベルとマギーの姉妹も、微妙に対照して描かれています。
親から見て自慢の兄と不出来な弟。父親は、とにかくトミーにやたらと突っ掛る。サムより劣っていると思うことをあげつらい、罵る。元軍人の父親は、やはり軍人になった兄が可愛かったんだろうねぇ。しかし、私は、この父親の姿に非常に嫌悪感を抱きました。あなたがトミーを歪めたんじゃない? と言いたくなるし、それは多分、当たらずとも遠からじだと思う。トミーは根っからの悪人じゃないのに、親が欠点ばかりをあげつらっていたら、そら歪むって。
でも、サムは、あの父親の割にイイ兄貴で、トミーとも決して険悪な仲ではないみたいなのが救いです。恐らく、亡くなった彼らの実母が良い親だったのでしょう。偏屈親父でも、兄弟の仲を歪めることをしないよう、母親がきちんととりなしていたのだと思われます。本作で出てくるのは継母ですが、この人も、あの父親には不似合いなほど優しい寛容そうな継母でした。
一方、姉妹の物語は……。姉イザベルは、容姿にコンプレックスがある。妹マギーは可愛くて天真爛漫、誰からも愛される、、、と思い込んでいる。「マギーは人気者。可愛いから……」と、イザベルがトミーにこぼすとトミーが「君はパパにそっくりだ。自分を好きになれ」と言うシーンが、結構グッときます。兄と何かと較べられて来たトミーには、イザベルの気持ちがよく理解できたのです。だから、そっと肩を抱いて「自分を好きになれ」と言ったんでしょうなぁ。このシチュエーションで、これ以上のセリフはないでしょう。コンプレックスを植え付けられた者と、勝手に抱いている者の、心温まるシーンです。
でも、イザベルは、終盤に、トミーのこの珠玉の言葉を忘れてしまったかのような暴挙に出てしまうのですが、、、。
◆サム、遂に発狂す。
サムは、部下と2人、アフガンで敵のゲリラに捕えられて、そこでの出来事で人格が変貌してしまうのですね。サムは、ゲリラに命じられて、ともに捕えられた部下を殺してしまうのです。そうしないと自分が殺される、そうしたらもうグレースや娘たちに二度と会えない、、、。
しかし、サムはそれを生還してからも、誰にも話せないのです。そりゃ話せないですよね、、、。
これは、戦争がなした罪なのだ、、、。そう思えたらサムも少しは楽だったろうけど、サムはまともに向き合ってしまう。仲間を殺した卑劣な人間である自分、、、。これを一生背負って生きて行くのは辛すぎる。帰還兵に自殺者が多いとは周知の事実ですが、内容は違えど、こんな究極の追い詰められた経験をしてしまったら、発狂するか死ぬしかないでしょう。精神的にとても持ちません。
サムが遂に暴れて警察沙汰になったのは、イザベルの言葉が引き金でした。マギーの誕生会で、イザベルは彼女なりの理由があって拗ねて機嫌が悪いにもかかわらず、誰もイザベルの心情を汲んでくれない。一番イザベルがイヤだったのは、もしかすると、トミーが新しいガールフレンドを連れて来たことかも知れない。とにかく、イザベルは誕生会を妨害する行動をとり続け、サムがキレて強く諌めたことで、遂にブチ切れます。
「(パパなんか)死んでくればよかった! ママはおじさんと寝たいのよ。いつも2人は寝てたんだから!」
これで、サムは疑いが確信に変わり、自分のアフガンでの行動とが相まって、発狂してしまいます。イザベルも可哀想。サムも可哀想。このシーンは、辛い。
私がグレースだったら、サムがキレる前に、イザベルを連れ出してなだめるけどなぁ、、、。と思っちゃいましたけど、まあ、ここは映画だし、このシーンは非常にカギになるのでああいう各自の動きにしたんでしょうけど。グレースが全体にとても賢く冷静な母親なのに、ここだけちょっと違和感ありますよね、やっぱし。
◆夫婦愛、、、?
結局サムは(恐らく)リハビリセンターみたいな所に入院して療養することになるのですが、そこへ訪ねてきたグレースに「何があったのか本当のことを言って。16の時からあなたを愛してきた。言ってくれなきゃもう二度と来ない」と言われ、ようやく、部下を殺したことを告白します。ここで本作は終わりです。
私がグレースだったら、サムの告白をどう受け止めるだろうか、、、。
そうまでして還って来てくれたのだと、やはり思うだろうな。部下を殺したことを卑劣だなんて、到底思えない。勝手かも知れないけれど、愛する夫が今こうして戻って来てくれたその事実の重さの方が大事。よくぞ還って来てくれた、、、と思うんじゃないかな。
グレースの心情が分からないのですよねぇ。告白を聞いて、2人で涙ながらに抱き合う姿でジ・エンドだったので、、、。でも多分、グレースも、夫を責める気持ちはないと思います。
ただ、先のことを考えると、正直、その気持ちが持続するかは大いに疑問です。サムの心の傷は、おいそれと回復するとは思えない。きっと長引くでしょう。経済的には、国から手厚く保護されるとしても、精神的に夫を支え切れるか、、、。サムが、グレースとトミーの仲を完全にシロだと信じられるか、また疑い始めて2人を責めることも十分あり得る。
そんなふうに、3歩進んで2歩下がり、あるいは5歩下がり、なんてことが続いたら、いくら最愛の夫でも、グレースにも限界が来る日は訪れるでしょう。早く回復すれば、夫婦愛は維持されるでしょうけれど。
健やかなるときも、病める時も、、、が理想だけれどねぇ、、、。
◆豪華キャストとかその他モロモロ
サム・シェパード、、、『ライトスタッフ』のイエーガーはしびれるほどカッコ良かったんですけれども、さすがに歳とりましたね。『8月の家族たち』でも感じましたけど。ううむ、複雑。
トビー・マグワイアは、派遣前と生還後のルックスが別人のようで、相当減量したんでしょうなぁ、、、。役者さんは大変じゃ。ジェイクは、まあ、相変わらずジェイクでしたが、彼はやはりイイ役者さんですね。屈折したイイ奴という難しい役を、素晴らしく演じておられました。ナタリー・ポートマンも良かったですし。
でも何といっても、私的には、イザベルを演じたベイリー・マディソンにMVPです。
まあ、地味に良い作品で、結構泣かせてもらいましたけれども、なんというか、、、さほどグッと来なかったのですよね。シェリダン作品はいつもそうかも、、、。イイ映画だなぁ~、とは思うけど、心に迫るものが今一つ足りない、、、みたいな。本作もそうでした。なので

オリジナル映画、、、食わず嫌いしていないで見てみようかな。
これからがケイヒル一家の正念場。
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