米バイデン政権は中間選挙で"大敗"を免れたとされるが、外交の見通しはどうか。日本政界にも高い洞察力を持つ国際政治学者に聞いた。

 

 

HSU未来創造学部
プロフェッサー

川上 高司

川上高司
(かわかみ・たかし)1955年、熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、拓殖大学教授などを経て現職。著書に『「無極化」時代の日米同盟』(ミネルヴァ書房)など。

川上高司氏:バイデン政権の外交は、見ていて不思議に思うほど、不必要な脅威を高めています。

 

そもそも私はウクライナ戦争を、アメリカ側がロシアを罠に誘い込んで引き起こした、代理戦争だと考えています。「アメリカおよび北大西洋条約機構(NATO) 対 ロシア」という構図ですね。プーチン政権を転覆させて、ロシアの体制を崩すというところまで、最初から戦略として考えていたと見ています。

 

アメリカはウクライナに武器を投入し続け、今に至るまで戦争が継続しているわけです。

 

バイデン政権以降、世界は「体制間紛争」に向かって動いているように見えます。アメリカとNATOを中心とする「自由民主主義体制」と、中国やロシアをはじめとする「非自由民主主義体制」との戦いです。

 

本来であれば、世界にとって最大の脅威となっている中国に対し、ロシアと協力して包囲網を張るべきでした。しかし、バイデン政権がロシアを敵に回してしまったため、世界全体がギシギシとした「戦争の時代」に入っています。

 

一方でトランプ前大統領は就任当時、プーチン大統領と手を取り合って、世界を平和にしていこうとしていたのだと思います。しかし、多方面から邪魔が入り、ロシアとの協力体制を築くことは叶わなかった。それでも、侵略的意図を隠さない中国に対して関税をかけるなど、勢いを削いできました。

 

これは、バイデン政権が進める「体制間紛争」ではなく、「アメリカ 対 中国」の「大国間紛争」だったと言えるでしょう。

 

 

日本が「戦場」になる危機に目を向けるべき

私としては、2024年にトランプ大統領が復活することを期待しています。ただ、少なくともそれまでの2年間は、世界にとっても、日本にとっても非常に厳しいものになることが予想されます。

 

バイデン政権の「体制間紛争」という構図が続き、いよいよアメリカと中国が切迫した状態になった場合、日本が「戦場」になる可能性が非常に高いと、切実な危機感を持っています。つまり、バイデン政権が進める「体制間紛争」に巻き込まれる形で、日本が戦場となり、日本国民が甚大な被害を受けるのではないか、ということです。

 

台湾をめぐって中国と軍事衝突があった場合、バイデン政権は直接的な介入を避けるでしょうから、ヨーロッパのポーランドのように、武器や食料物資の「供給地」になることを日本に要請するのは間違いないと予想されます。

 

日本がそれを承諾すれば、中国の攻撃対象は日本になります。つまり、日本と中国が事を構え、アメリカはそれを後ろで"見ている"という、非常に危ない構図になります。その時に、果たして本当にアメリカが守ってくれるのか、というのが大きなポイントです。

 

現状、自衛隊はほとんど米軍の指揮下に入っています。バイデン政権のシナリオに基づいて戦いが展開した際、どのような事態が起きるのかを具体的にシミュレーションし、その上で、被害を限定するにはどのような備えが要るのか、真剣に議論する必要があります。

 

 

トランプ政権の外交は賢かった

バイデン政権は、「自由民主主義体制 対 非自由民主主義体制」という構図の「体制間紛争」を進めてきたと、前述しました。

 

もし、2024年にトランプ大統領が復活すれば、ロシアとの関係を回復し、中国に焦点を絞って勢力を削ぐはずです。つまり、中国とロシアを相手取る「二正面」作戦から、対中国に集中する「一正面」作戦に戻すと予想されます。

 

「敵を減らし、味方を増やす」というのが、外交の原則ですから。バイデン政権よりトランプ政権の方がずっと賢いと言えますね。

 

トランプ氏は対中国を含め、「二国間」で外交を展開したわけですが、日本も同じように二国間外交を進めてゆくべきです。

 

残念ながら現状としては、基本的に日本はアメリカの枠組みに入る形で外交を行っており、そのために、諸外国から「一つの国」として扱ってもらえないという課題があります。日本に交渉するのではなく、アメリカに交渉すればいいという具合に思われ始めている。

 

特にここ何年間かは、アメリカの戦略に引きずられ、「日本外交」が少し手薄になっているように思います。自民党内でも、アメリカありきで政策を動かすというのが前提となっており、そうした議論は禁句になっています。

 

ですが、世界がどうなるか分からない中、迫り来る危機を直視し、自分の国は自分で護れる国に変わっていく必要があります。

 

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