習近平政権、グローバル経済依存脱却を宣言【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2020.09.29(liverty web)
《本記事のポイント》
- 習近平政権、「外需依存」脱却を掲げるも……
- 貧困ゆえに「消費」が育たない
- 6億人は月収1万円、習近平は資産100兆円
周知の如く、中国は「改革・開放」以来、海外貿易をテコに経済発展した。トウ小平路線である。近年では、主に米国との貿易で大幅な貿易黒字を出してきた。
ところが最近、その米政府が中国に対し、制裁を含む強硬な通商政策を取るようになった。トランプ政権は、米国経済と中国経済とのデカップリング(切り離し)を狙っている。
習近平政権、「外需依存」脱却を掲げるも……
そうした事態に対応するため5月23日、習近平・中国国家主席は政治協商会議と経済界の連合会で、「国内の大循環を主体とし、国内と国際双循環相互促進の新発展パターンを次第に形成し、新しい情勢の下、中国が国際協力・競争に参与するための新たな優位性を育成する」と明言した(5月24日付「人民日報」)。
「内循環」とは、原材料から製造に至るまで、中国の消費に必要なすべての商品を国内セクターが提供すること。北京政府はグローバル経済依存から脱却を図るべく「(国)内循環」経済(以下、「内循環」)を打ち出したのである。
具体的には、輸出や投資への依存を減らすため、消費強化をベースに成長を促進する考えだろう。この動きは政府の「14次5ヶ年計画」(2021~25年)の焦点となる。
もしそれが成功すれば、中国は真に豊かになるだろう。内需が育てば経済は安定し、米国等の先進技術を盗むことなく自力開発するというなら、結構な話だ。
しかし現実問題として、簡単な話ではない。習近平政権が「内循環」を主体とすれば、当然、「輸出」が大幅に減る。成長の3エンジンの一つが縮小して、中国経済は耐えられるのか。疑問符が付く。
貧困ゆえに「消費」が育たない
中国の「消費」は、「輸出」にとって代わるにはあまりにもお寒い状況だ。
9月12日付「大紀元」は「習近平は『内循環』を高く挙げているが、官界や民間では誰も信じていない」という記事を掲載している。その中で、武漢の民間中小企業のオーナー、周引仁は、次のように語っている。
「民間の消費力についてだが、お金がないのに、どう消費するというのか。豚肉は高いし、食べ物なども高い。病院での診察や薬代は高額である。子供の塾代も高い。庶民はお金がないので、節約するしかない」
「農村はもっと哀れだ。子供は都会に出てアルバイトをしながら、飲まず食わず節約して家を買う。他方、農民は苦労して耕作をし、住宅ローンを返済する。また、一部の高齢者は年金がなく、医療費も出せないので、農薬を飲んで自殺する人もいる」
「中国共産党の官僚制度は人民を裕福にすることはできない。金持ちになった中国の役人は、村の幹部から最上層部まで、すべて腐敗した役人であり、彼らは利益の支配者である。政府は自分達の利益のために人民と争う。そして、法の支配を行わず、公平・公正性に欠ける社会を構築した。警察や公安は腐敗した役人の利益を守るために存在している」
中国の「弱い消費」は単なる経済構造の問題ではなく、「腐敗した政治と困窮する人々」という社会構造の問題なのである。簡単には変わらないだろう。
6億人は月収1万円、習近平は資産100兆円
李克強首相が5月に暴露したように、およそ14億人の人口のうち、月約1000元(約1万5000円)で暮らす人々が6億人もいる。彼らは「絶対的貧困」(1日1.9米ドル、1ヶ月57米ドル所得=約6000円)という訳ではないが、ほとんど購買力を持たない。
また一線都市(北京市、上海市、広州市、深セン市等)や二線都市(青島市、廈門市、西安市、寧波市等)に行けば、「中間層」と呼ばれる人達が暮らす。彼らの生活は大半の下層の中国人と比べて"マシ"な方だと言われている。しかしそれでも、月収3000元(約4万5000円)~4000元(約6万円)程度。通常の日本人よりはるかに貧しい。
しかし習近平主席一族の資産は、日本の国家予算に相当する100兆円と言われている(香港「成報」グループ取締役会元会長、谷卓恒がツイッターで暴露)。王岐山副国家主席一族の資産は、約30兆円と言われる(ただし、真偽のほどは定かではない)。
このように、社会的に富が極端に偏在するため、下層や「中間層」に属する人々は購買力に欠ける。そして、消費経済は育たず、中国はグローバル経済に依存せざるをえない。社会主義とは名ばかりであることが、中国経済の徹底的弱点となっているとは、皮肉である。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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