プーチン提案の「日露平和条約」で中露を引き剥がせ
2018.09.29(liverty web)
《本記事のポイント》
- 領土問題はなぜ長引いたのか:日露関係改善を阻まれた歴史的経緯とは
- 中露接近という現実を直視せよ
- 日本は米露の「かすがい」を目指せ
日本は、対中包囲網を完成させるための、千載一遇のチャンスを逃してはならない。
ロシアのプーチン大統領が9月12日、同国のウラジオストクで行われていた「東方経済フォーラム」の全体会合で、安倍晋三首相に「前提条件なしの日露平和条約を年内に締結しよう」と提案し、波紋を呼んでいる。
この言葉を巡って、日本では「北方四島の返還なしに平和条約はないと明確に反論すべきだ」といった意見が大勢を占める。普段は右と左とで意見が分かれるマスコミも、この問題となるととたんに一枚岩だ。
国民世論としても北方四島の返還が悲願なのは確かだ。しかし、北方領土の返還を全面的に押し出してロシアを疎遠にすることが、今の日本にとって本当に得策なのか。
まず北方領土問題の歴史的経緯を振り返ってみたい。
日露関係改善を阻んできたアメリカ
1951年、日本はサンフランシスコ講和条約において、千島列島及び南樺太を放棄した。しかし「北方四島はこの千島列島に含まれていない」というのが日本の立場だ。四島は未解決の紛争地として残されることになった。
その直後である1953年、スターリンが死去し、日ソ間の関係を根本的に見直す機運が生まれる。日本政府は、「歯舞・色丹の二島返還」によってソ連と手を打とうとしていた。
ここに水を差したのはアメリカだった。当時のジョン・ダレス米国務長官は、日本がソ連に譲歩して、国後・択捉を諦めるなら、サンフランシスコ講和条約第26条に基づいて、「沖縄を永久に返還しない」と迫った。つまり、沖縄を人質に取って日本を脅したのである。
そもそもサンフランシスコ講和条約は、日本の独立を真に認めるものではなく、事実上の「属国化」につながるものだった。
それはダレス国務長官が、イギリス政府高官に語った言葉に表れている。講和条約の真の意味は、「アメリカの実質的な対日占領が続く」ことであり、「日本の真の独立を認めるつもりはない」と述べられているのだ。
つまり日本は、サンフランシスコ講和条約というアメリカが敷いた"占領政策"の中で、四島返還を"主張させられる"ようになったのだ。これはソ連にとって到底受け入れられない選択肢であった。アメリカの狙いは何か。日ソ間に「領土問題」を残すことで、両国の和解を阻止しようとしたのである。
このアメリカの"日ソ離間政策"が領土問題の交渉が長引いている一つの理由である。
北方領土に米軍が駐留すればロシアにとって脅威
そのことは、当然ロシアも知っている。だから北方領土交渉においても、日本の背後にどうしてもアメリカの影を感じるのだ。
この問題でロシアが最も恐れているのが、返還後の北方領土に米軍が駐留することだ。仮に安倍首相とプーチン大統領との間で「米軍の駐留はない」と約束されても、安倍氏の後の首相がその約束を守るのか確証はない。ロシアにとって北方領土の返還は、裏庭が米軍に占領される脅威を意味するのである。
またロシアは、他の国との間にも領土問題をかかえている。北方領土の返還によって、他の国も「うちも返してくれ」と主張してくることは容易に予想される。
ロシアが北方領土で譲らないのは、単なる意地ではないのだ。それでも日本に返還するとなれば、国民を説得するだけの強い理由が必要となる。これが極東におけるインフラなどの巨大な投資計画への参加が求められるゆえんでもある。
中露接近の脅威とは
それに比べ、国際情勢を見れば「日露関係の強化」こそ、待ったなしだ。
中国は溜めこんだ貿易黒字を軍事力へと転化し、軍事的拡張を続けている。このような状況で、「中国の脅威をどう封じ込めるか」が西側にとって最大の懸念事項となりつつある。
そんな中で、中露の蜜月関係が強固になりつつある。9月の東方経済フォーラムの開催に合わせ、ロシアは大規模軍事演習「ボストーク」を実施した。その際に、中国人民解放軍も参加させた。両国の関係は明らかに深化している。
もしそのまま中露の核戦力が合体すれば、世界にとって大きな脅威となる。それを踏まえ、アメリカは今年の2月、核の役割と能力を拡大する「核戦略見直し」(NPR)を公表した。
つまり世界にとっては中露離間策こそが重要なのだ。
しかしアメリカでは議会に対露強硬派も多く、「ロシア疑惑」も長引いている。トランプ政権がロシアを西側に入れて味方につけることが難しい状況が続いている。となると、頼みの綱は日本だ。
にもかかわらず日本は、欧米の対露経済制裁に共同歩調をとるなど、中露離間よりも、中露を接近させるような政策を取りつづけてきた。
日本は主体的に外交戦略を策定すべき
この世界情勢の中で日本がどう振る舞うべきか、もう一度考える必要がある。日本の国益を考えるなら、国内で激しい人権弾圧を行う無神論国家の中国の軍事的台頭こそが危惧すべき課題だ。となれば北方領土問題をいったん脇に置いてでも、ロシアとの関係改善を優先させるべきなのである。
このことを考える際に範となるのは、イギリスの例だ。
イギリスは第一次大戦時に、英露協商を結んでドイツと戦った。そして第二次大戦時には、連合国にソ連を取り込むことでナチスに勝利した。あらゆる犠牲を払ってでも、仮想敵に勝つための外交戦略を取ったことで、イギリスは存続できたのである。
日本も自国を存続させるべく、急ぎ日露平和条約、そして日露協商まで結ぶべきだろう。
先に述べたように、日本の四島返還論は自主的な主張ではない。アメリカに押し付けられ、いつのまにか国民が疑わなくなったものに過ぎない。
そもそも国家主権とは、自主的な判断で国家政策を決めて行動がとれることを意味する。日本も、イギリスの例に見習って、脅威のレベルを自主的に判断し、国益を実現する政策を取るべき時に来ている。
幸いにもトランプ大統領自身は、中国の方を脅威と見ており、ロシアも敵視していない。さらに、各国の主権を尊重する立場だ。米国依存的な親米保守を蔑視することはあっても、日本を属国に置く意志は感じられない。日本の対露協調路線を邪魔立てすることもないだろうし、むしろ日本が米露のかすがいになることを歓迎するはずだ。
無条件でも平和条約を結ぶべき
こうした路線を大川隆法・幸福の科学総裁は、1994年の法話「異次元旅行」でこう予言していた。
「アメリカは中国と北朝鮮とを分断し、北朝鮮をまず結論づけたのち、中国への包囲網をつくるでしょう。おそらくは、日本やドイツ、インド等を国連の常任理事国に巻き込み、ロシアも仲間にして、中国包囲網をつくることになると思います」(『ユートピア創造論』所収)
また、2016年の法話「真理への道」でもこう述べている。
「しかしながら、北方四島の問題をいったん棚上げしてでも、平和条約を結ぶべきだと、私は考えています。そうしたほうがよいのです。実際のところ、日本が『返してほしい』と言っている北方四島のうちの二島は、ロシアにとって大したものではありません。本当に大切なものは、『国家戦略』です。国家戦略として、『日本がロシアとどう組むか』『アメリカとどう組むか』『世界をどうするか』といったことを決めることが大事なのです。(中略)日本が、ロシアとの関係を強化し、アメリカとの関係を強化することが、次の『対中国戦略』につながるのです」(『繁栄への決断』所収)
対中包囲網のために中露離間は欠かせない。その機会を失うほうがはるかに恐ろしい未来が待っている。世界の繁栄と平和を護るために、「無条件でも平和条約を結ぶ」という勇断が求められている。
(長華子)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『繁栄への決断』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1785
幸福の科学出版 『ユートピア創造論』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=158
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