中国恒大(エバーグランデ)は7月17日、2021年と22年の財務内容をようやく公開した(*1)。過去2年間で、同社は総額8120億元(約16兆2400億円)の損失を被り、負債は1兆9600億元(39兆2000億円)から2兆4376億元(48兆7520億円)にまで増加し、史上最も負債を抱えた企業となっている。
その1ヶ月後の8月17日、中国恒大グループは、ニューヨークで「米国破産法第15章」に基づく破産法の適用を申請した(*2)。
中国恒大は7月、香港特別行政区の裁判所から、同月中にオフショア債務再編計画を採決する承認を得た。「米国破産法第15章」は、企業が他の司法管轄区で再建策を講じる際、米国にある資産への保護を与えるものである。
この一連の動きは、香港、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島に所在する同グループ3社におけるオフショア再構築プロセスの正式な発効確認となるという。
中国恒大に次いで大手の碧桂園も経営危機に
さて、中国恒大に次いで、現時点でナンバー1の不動産開発大手、碧桂園(カントリーガーデン)にも、経営破綻の危機が迫っている(*3)。8月に入り、同社は2つの債券の利子支払いを行わなかった(ただ、まだ30日間の猶予期間がある)。
1年前、碧桂園の売上高は500億米ドル(約7兆2500億円)近くあったが、最近、同社は財政がひっ迫し、当時、想像すらできなかった苦境に立たされている。
危機の最大の理由はマンション販売の減少である。不景気のため、目下、不動産購入に関心を持つ人が激減した。
同社は主に「三線」「四線」と呼ばれる地方都市での不動産開発を行ってきた。一線都市(北京・上海・広州・深セン・天津)ならば、不動産価格が何とか維持されている。だが、三線・四線都市となると、価格が暴落している地域が少なくない。
この問題について、中国の著名なエコノミストである任沢平氏も次のような主旨で記事を書いている(*4)。
「『宇宙最大の民間不動産企業』である碧桂園の破綻は、川上と川下の60以上の産業に大打撃を与え、数千万人の雇用に影響を与える。したがって、政府は同社を破綻させないよう呼びかけた」「中国最大の不動産企業が倒産すれば、市場信頼と景気回復、金融リスク、住宅購入の見通しに衝撃を与える」
碧桂園、海外での巨大プロジェクトも暗礁に乗り上げるか
ところが、碧桂園に驚くべき事実が発覚したのである。
2015年、同社は、シンガポール近郊のマレーシア南部で、1000億米ドル(約14兆5000億円)以上を投じて「グリーンでスマートな未来都市」、「森林城市(フォレスト・シティ)」プロジェクトを開始した(*5)。ただし、現在、視察に訪れたオブザーバーやメディアからは「ゴーストタウン」とまで酷評されている。
面積30平方キロメートルの4つの人工島に建設された"未来都市"は、70万人の人口を集める予定だったが、今はせいぜい1万人しか住んでいない。完成した住宅はわずか2万8000戸である。だが、2つのゴルフコース、2つの高級ホテル、インターナショナルスクール、水族館がすでにオープンしている。
なぜ「フォレスト・シティ」が"ゴーストシティ"と化したのか。その原因は不動産価格の高さにあるという。
「France2」の報道によると、「フォレスト・シティ」の1平方メートルの価格は2800ユーロ(約44万8000円)である。仮に100平方メートルのマンションを購入する場合、約4480万円の価格となるだろう。
一方、マレーシア人の平均給与は700ユーロ(約11万2000円)にも満たない。年収に換算すると、約134万4000円である。同マンションを購入するとしたら、年収の30倍以上もの資金が要ることになる。
碧桂園としては、外国人住宅購入者、特に中国人富裕層が「フォレスト・シティ」プロジェクトの当初のターゲットだった。2018年、当時のマレーシア首相が、外国人による「フォレスト・シティ」の購入を政府としては許可しないと明言するピンチはあったものの、同首相は、外国人にもマンション購入を認める方針へ舵を切り、何とかプロジェクトは動き出した。
ところが、潜在的な顧客(中国人富裕層)が「フォレスト・シティ」購入を考える前に、習近平政権が資本流出への厳格な規制を行ったのである。そのため、中国人富裕層による「フォレスト・シティ」の購入が難しくなった。
おそらく「フォレスト・シティ」プロジェクトは未完成のまま終了する公算が大きい。もしそうなれば、ひょっとして、碧桂園の命運も尽きるのではないだろうか。
(*1)2023年7月20日付「中国瞭望」
(*2)2023年8月18日付「BBCNews中文」
(*3)2023年8月10日付「紐約時報中文網」
(*4)2023年8月12日付「万維ビデオ」
(*5)2023年8月15日付「中国瞭望」