油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

MAY  その43

2020-03-19 14:12:37 | 小説
 草むらから現れたのは、小さな鳥。
 ふらつく足どりで、メイがいる方にむかっ
て来る。
 かなり年老いている。 
 羽は濡れてうす汚れ、猫にでもひっかかれ
たのだろう、あちこち羽毛が逆立っていた。
 寒いのか、時折、体をひくひく震わせる。
 ずいぶんな変わりようだが、メイは自分の
大切な友達、ピーちゃんだとわかった。
 メイはかけより、地べたにしゃがみこむと、
右手を差しだした。
 「ピーちゃんでしょ、あなた?しばらく会っ
てないけど、面影があるもの。どこかけがし
てるのね?きっとそう」
 メイの目がうるむ。
 小鳥はなにも応えず、やっとの思いでメイ
の左手のひらにのると、にわとりが卵をあた
ためる格好で、すわりこんだ。
 「ちょっと待ってね」
 メイは右手をつかい、ずぼんのポケットか
らハンカチをとりだすと、ピーちゃんのから
だを丹念にふきはじめた。
 小鳥の体を温めようと、メイはなんどもな
んどもはあはあ、熱い息をふきかけた。
 いくらか元気が出てきたのだろう。
 小鳥は閉じていたまぶたをあけ、なんとか
してさえずろうとした。
 「いいの、いいの。何もしなくて。あなた
はわたしのそばにいてくれるだけでいいのよ。
今までほんとにありがとう。わたし、ほんと
にうれしかったわ。今度はあなたの子どもに
まで、助けてもらって」
 メイはそう言って涙ぐんだ。
 ピーちゃんの体はメイのふたつの手に包ま
れ、モンクおじさんの家に向かった。
 当然のことながら、モンクの家の周辺は騒
がしかった。
 メイの帰宅に気づき、駆け寄ってくる人々
ひとりひとりに、メイは丁寧に頭を下げた。
 「すみません、すみません。わたしの不注
意で。道に迷ってしまって」
 メイはうそをつくことにした。
 (ひょっとして彼らのなかに、敵が、今回
の事件の首謀者がいるかもしれない)
 彼女はそう思った。
 「なんだい。忙しいさなかに来てやったの
にな。自分で迷子になったんだって?」
 「まあいいやね。無事に戻って来たんだか
ら。他人の子でもうちの子といっしょ。恩に
きせるんじゃねえ」
 ひとりふたりと、群衆の中から声が上がる。
 「さあ帰ろう。もう用はないやね。大事な
大事なメイちゃんがお戻りなんだから」
 木こりらしい身なりをした中年の男が、黒
い毛糸のセーターの右腕をまくってから、そ
の手でこぶしをつくった。
 彼はそのこぶしを、天に向かって無言で突
きあげるようにした。
 「そうだ、そうだ。もう用は済んだ。モン
クんちはいいな。ちょっとのことでも、こう
やってみなが来てくれるんだから」
 彼の連れが、調子を合わせる。
 メイを出迎えに家から出ていたモンクに対
して、中年男とその連れは挑むような視線を
投げかけた。
 「みなの衆、ほんとにありがとう。心配か
けてしまって、すまない」
 モンクは苦笑いをうかべ、群衆にむかって
深くこうべを垂れた。
 「へん、おらちの娘なんか、いなくなったっ
て誰ひとり心配してくれやしねえ」
 さっきの中年男が振り向きざまに、捨てぜ
りふをはいた。
 モンクは怒った。
 彼の顔がさっと赤く染まる。
 メリカはそれを見逃さず、モンクを軽く抱
いた。
 「おまえさん、ここは辛抱おしね」
 メリカは家の中に取って返すと、かごに山
盛りのサツマイモを持って出てきた。
 「さあさあ、これを持ち帰って、奥さんと
いっしょに食べておくれ」
 メリカの一言で、その場の険悪な空気がお
さまってしまった。
 
 
 

 
 
コメント
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