油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

ちょっと、前橋まで。  (1)

2020-03-29 18:29:33 | 日記
 きのうは、せがれとかみさんのお供
でちょっと遠出のドライブ。
 わたしの役どころは、車の運転。
 若い頃からわたしが車の運転が好き
なところを買われたらしい。
 目的地は利根川沿いにある、かみさ
んの知人の家。
 スマホのナビシステムで検索すると、
所要時間はおよそ三時間である。
 車のナビシステムはとっくの昔に故
障していたため、わたしは大きな不安
をかかえての出発となった。
 だが、予想に反して、スマホのナビ
はきっちり仕事をこなしてくれた。
 難をいえば、なにがなんでも、高速
に乗せたいらしい。
 一般道でいいのに、といやがるわた
しを、ナビは伊勢崎あたりで北関東道
に引きずり込んでしまった。
 「おいおい、どうする?高速料金っ
てのは?これは想定外だったよな、そ
れにさ・・・」
 一般道から高速道にいたる曲がり道
で、かみさんとわたしとのやりとり。
 「そんなこといいわよ。ここからそ
んなに遠くないんだし。大したお金が
かからないわよ。このまま突っ走って
ちょうだい」
 「ええっ、ほんまに。そんなの困る
んだよなあ」
 「なっなんで困るのよ。男らしくな
いわね。しゃんとして、しゃんと」
 大きな不安がわたしのこころにのし
かかってくる。
 高速を走る準備をしていなかったか
らである。
 頭の中で、瞬時に、車を点検する。
 四本ともスタッドレスタイヤのうえ、
高速用の空気圧に調節していない。
 わるくすると、パンク、なんてこと
になったら、大事故につながりかねな
かった。
 わたしは是が非でも一般道にもどり
たいと思った。
 その時の車の位置はというと、運転
席から見て右側に、まっすぐな黄色の
実線がずっと描かれている。
 もはや後戻りするために、車線変更
することがかなわない。
 わたしはこころを決め、ええい、ま
まよとばかりにインターに突き進むこ
とにした。
 あとは自分の運転技術を信じるしか
なかった。
 ぐるっとまわりこんで行くとようや
くゲートが見えてきた。
 だが不慣れなため、どこのゲートを
くぐったらいいか、わからない。
 赤や緑のランプが点灯した、いくつ
かのゲートの約十メートル手前で、の
ろのろ運転になった。
 「父ちゃん、どこへ行くんだよ、そっ
ちじゃない、あっち。一般って書いて
あるだろ」
 せがれが悲鳴に近い声をあげる。
 わが車の後ろについていた貨物トラッ
クが大きく警笛を鳴らした。
 いつもなら気が動転し、頭がまっし
ろになり、どうしていいかわからなく
なってしまう。
 だがどうしたことか、わたしはわり
とおっとりしていた。
 きっと年老いたせいだろう。
 はいよ、とばかりにわたしはゆっく
りハンドルを切ると、遮断機の下りた
通路にむかった。
 器械がぺろりと、舌ならぬ紙切れを
出している。
 わたしはそれを、えいっとばかりに
右手で抜き取った。
 よし、行くぞ、とこころの中で言い、
ひとつため息をつくと、いざ鎌倉といっ
たこころ持ちになった。
 スピードアップを図るためのレーン
で、それなりにアクセルを踏み込んで
いく。
 走行車線で、70キロ。
 「なにやってんの。もっと出して」
 かみさんが後部座席で金切り声をだ
した。
 後ろから走ってきた車が、どんどん
前に出ていく。
 なに言ってんだい。おれはこの車の
ことを考えて、運転してんのっ。
 のどまで出かかった言葉を、わたし
はぐっとのみこんだ。
 
 

 
 
 
コメント
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