ここは火星、地球防衛軍の秘密基地。
地球防衛軍は、その戦いの途中で、ポリド
ンをふくむ惑星エックスの勇士たちと合流す
ることに成功し、共同で作戦を実施している
のだった。
通常兵器を積載した宇宙船が、基地の大半
をおおい尽くしている。
だが、しかし……。
今まさに、最新鋭の武器が搭載された宇宙
船が一台一台、大型のエレベーターに乗せら
れ、地下深くの工場から上がってくるところ
である。
ポリドンと将軍たちが、一番さきに上がっ
てきた宇宙船のわきに寄り集まり、何やら話
し込みはじめた。
時折、ふいに野太い声があがる。
いざ出陣となってまで、見解の相違が尾を
引いているようだ。
敵の戦意を失くしてしまい、冷静さをとり
もどさせる。
今までの武器とはまったく違った性質を持
つ宇宙船だけに、保守的な将軍のなかには、
「とんでもない。敵意に満ちた敵のこころ
など、和らげられるわけがない。爆弾で体を
ばらばらにしてしまうのが、いちばんだ」
「そうだ、そうだ。心なんてものは見えも
しないし。そんな頼りないものを信じるわけ
にはいかないぞ。あくまでも完全殲滅だ」
鼻息荒く、将軍たちのなかには、憤慨する
ものが続出した。
「まあ、待ってください。それじゃ、結局
血で血を洗う修羅場になってしまうじゃあり
ませんか。子々孫々までその害がおよぶのは
賢明なあなたたちだ。よくご存じのはずじゃ
ありませんか。とにかく、この武器は老いた
るヒヒの切なる願いが込められているのです。
メイの住む森をはじめ、全世界のもろもろの
動物たちの希望によって、作られたものです。
われわれは彼らの意見を尊重したい。そうす
ることで、むるん幾多の困難が待ち受けてい
るでしょうが、この際、敵と味方のこころを
ひとつにしたい」
ポりドンがそこまでいったところで、あご
ひげをうんと伸ばした将軍が、いくぶん腰を
曲げ加減にして、進みでた。
「何をしゃらくさいこといってる。この若
造が。おまえにはまだ無理だ。あやつらがよ
くわかってない。どんなに非情か」
彼は、ポりドンの肩を突っついた。
ここで、ニッキが口をはさんだ。
意見を言おうとするのを、警備員にとめら
れながらも、
「ポリドン将軍の娘さんのことを、みなさ
んはよくご存じでしょう。彼女が赤子の時に
娘さんのご両親は、彼女を地球に向けて脱出
させた。地球に、そこに住む人のなかに、何
か、我々にとって、有意義なものが存在して
いるらしい。それをさぐるために、かわいい
わが子をひとり、旅立たせた。敵の攻撃に耐
えきれず、火星の地下深くに、我々が避難し
ている祭だってそう。わたしは地球で生まれ
ましたから、彼女や彼女のまわりのことはよ
くわかります。森で道に迷い、深い窪地には
まりこんでいるところを、ポリドンさんに助
けられて……」
当時の災難を思い出したのか、ふいにニッ
キは涙を流した。
「モンクおじさんに拾われ、大切に育てら
れた子は、メイと名付けられ、今まで懸命に
森を侵略する黒い円盤と向かい合っていたの
です。形勢が不利になり、我々が火星の奥深
くにシェルターを造り、住み始めて以来ずっ
とです。敵に拉致された娘ケイを、彼女はな
んとかして、敵の魔の手から取り戻そうと今
まで努力してきました。神隠しだとうわささ
れた事件。ありとあらゆる国の子どもたちを、
敵の手から取り戻すのにも彼女は大きな役割
を果たしました」
いつの間にか、いならぶ将軍たちの威勢は
どこへやら。口をつぐみ、肩を落とし、涙さ
えこぼす者さえいる。
「メイには大いなる力がありました。それ
は何だとお思いになりますか」
将軍たちは、互いに、顔を寄せ合い、ぶつ
ぶついい始めた。
「いくら考えてもわからん。わたしはもう、
年老いたかもしれんて」
先ほど大口をたたいた老将軍が、ぽつりと
いった。
「見えないものを大切し、偉大にする力」
「なんじゃそれは」
「わたしたちは、原初より、見えるものに
大きな価値を置き、暮らしてきました。金や、
さまざまな種類のモノです」
「当たり前だろ。生活するのに便利じゃか
らな」
「でも、それに価値を置くあまり、精神が
軽んずる傾向が強まってしまいました」
将軍たちが、がやがやと騒ぎ始めた。
「何を言っとるのかさっぱりわからん。お
まえはソクラテスか。哲学の教練所か。おれ
たちがソフィストだというのか」
ポリドンがニッキの前に進み出ていった。
「とにかく、若い者の意見を、この際、聞
こうじゃありませんか。彼らに将来が託され
るべきです」
ポリドンが、反対する種軍たちひとりひと
りとていねいに話しこんだ。
地球防衛軍は、その戦いの途中で、ポリド
ンをふくむ惑星エックスの勇士たちと合流す
ることに成功し、共同で作戦を実施している
のだった。
通常兵器を積載した宇宙船が、基地の大半
をおおい尽くしている。
だが、しかし……。
今まさに、最新鋭の武器が搭載された宇宙
船が一台一台、大型のエレベーターに乗せら
れ、地下深くの工場から上がってくるところ
である。
ポリドンと将軍たちが、一番さきに上がっ
てきた宇宙船のわきに寄り集まり、何やら話
し込みはじめた。
時折、ふいに野太い声があがる。
いざ出陣となってまで、見解の相違が尾を
引いているようだ。
敵の戦意を失くしてしまい、冷静さをとり
もどさせる。
今までの武器とはまったく違った性質を持
つ宇宙船だけに、保守的な将軍のなかには、
「とんでもない。敵意に満ちた敵のこころ
など、和らげられるわけがない。爆弾で体を
ばらばらにしてしまうのが、いちばんだ」
「そうだ、そうだ。心なんてものは見えも
しないし。そんな頼りないものを信じるわけ
にはいかないぞ。あくまでも完全殲滅だ」
鼻息荒く、将軍たちのなかには、憤慨する
ものが続出した。
「まあ、待ってください。それじゃ、結局
血で血を洗う修羅場になってしまうじゃあり
ませんか。子々孫々までその害がおよぶのは
賢明なあなたたちだ。よくご存じのはずじゃ
ありませんか。とにかく、この武器は老いた
るヒヒの切なる願いが込められているのです。
メイの住む森をはじめ、全世界のもろもろの
動物たちの希望によって、作られたものです。
われわれは彼らの意見を尊重したい。そうす
ることで、むるん幾多の困難が待ち受けてい
るでしょうが、この際、敵と味方のこころを
ひとつにしたい」
ポりドンがそこまでいったところで、あご
ひげをうんと伸ばした将軍が、いくぶん腰を
曲げ加減にして、進みでた。
「何をしゃらくさいこといってる。この若
造が。おまえにはまだ無理だ。あやつらがよ
くわかってない。どんなに非情か」
彼は、ポりドンの肩を突っついた。
ここで、ニッキが口をはさんだ。
意見を言おうとするのを、警備員にとめら
れながらも、
「ポリドン将軍の娘さんのことを、みなさ
んはよくご存じでしょう。彼女が赤子の時に
娘さんのご両親は、彼女を地球に向けて脱出
させた。地球に、そこに住む人のなかに、何
か、我々にとって、有意義なものが存在して
いるらしい。それをさぐるために、かわいい
わが子をひとり、旅立たせた。敵の攻撃に耐
えきれず、火星の地下深くに、我々が避難し
ている祭だってそう。わたしは地球で生まれ
ましたから、彼女や彼女のまわりのことはよ
くわかります。森で道に迷い、深い窪地には
まりこんでいるところを、ポリドンさんに助
けられて……」
当時の災難を思い出したのか、ふいにニッ
キは涙を流した。
「モンクおじさんに拾われ、大切に育てら
れた子は、メイと名付けられ、今まで懸命に
森を侵略する黒い円盤と向かい合っていたの
です。形勢が不利になり、我々が火星の奥深
くにシェルターを造り、住み始めて以来ずっ
とです。敵に拉致された娘ケイを、彼女はな
んとかして、敵の魔の手から取り戻そうと今
まで努力してきました。神隠しだとうわささ
れた事件。ありとあらゆる国の子どもたちを、
敵の手から取り戻すのにも彼女は大きな役割
を果たしました」
いつの間にか、いならぶ将軍たちの威勢は
どこへやら。口をつぐみ、肩を落とし、涙さ
えこぼす者さえいる。
「メイには大いなる力がありました。それ
は何だとお思いになりますか」
将軍たちは、互いに、顔を寄せ合い、ぶつ
ぶついい始めた。
「いくら考えてもわからん。わたしはもう、
年老いたかもしれんて」
先ほど大口をたたいた老将軍が、ぽつりと
いった。
「見えないものを大切し、偉大にする力」
「なんじゃそれは」
「わたしたちは、原初より、見えるものに
大きな価値を置き、暮らしてきました。金や、
さまざまな種類のモノです」
「当たり前だろ。生活するのに便利じゃか
らな」
「でも、それに価値を置くあまり、精神が
軽んずる傾向が強まってしまいました」
将軍たちが、がやがやと騒ぎ始めた。
「何を言っとるのかさっぱりわからん。お
まえはソクラテスか。哲学の教練所か。おれ
たちがソフィストだというのか」
ポリドンがニッキの前に進み出ていった。
「とにかく、若い者の意見を、この際、聞
こうじゃありませんか。彼らに将来が託され
るべきです」
ポリドンが、反対する種軍たちひとりひと
りとていねいに話しこんだ。