油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

MAY  その79 

2021-01-23 13:15:09 | 小説
 赤茶けた火星の深い深い谷間から、地球防
衛軍の宇宙船がつぎつぎに飛び立っていく。
 それをいち早く察知したのは、火星の周回
軌道をまわる敵の宇宙ステーションである。
 ふいに現れた敵の宇宙船の群れに、いった
んはあわてふためいたが、そこは敵もさるも
の。報告すべき相手に即座に連絡を入れたり、
一番乗りをせんとするニッキの宇宙船に、大
型光線銃の照準をあわせたりした。
 その頃、敵のいちばんのリーダーであるバッ
カロス将軍は、月の周回軌道にいた。
 地球と火星の距離は7528万キロ。光の速さ
は一秒間でおよそ30万キロメートルであるか
らその速度で火星に向かっても、四分はかか
る計算となる。
 現在のわれわれのロケットならうまくいっ
ても260日は要する。

 「なんだって敵の別動隊が火星にいたって?
そ、そんなばかな。あそこはずっと前に調べ
たところだったのに。責任者は?ベル将軍を
呼べ」
 ポリドンと対峙していたバッカロス将軍。
 眉間にしわを寄せ、興奮した口調で部下に
命じた。
 「閣下、さっきから連絡を入れております
が、意外なことに、なっ、なにも返答があり
ません。それに敵に対する攻撃を続行してい
ません。どうやら白旗を上げたようです」
 「なに、負けたって。そっ、そんなばかな。
ベルがそんなざまになるわけがない。わたし
が見込んだ兵隊だぞ。ポリドンがなにやらわ
けのわからぬことを言っていたが……」
 話はもどって、こちらは火星近くの宇宙空
間。つい先ほど宇宙ステーションから発射さ
れたまばゆい光が、闇をつんざいたばかりだっ
た。
 「くっ、あぶないところだった。うまく手
動に切り替え、よけられたから良かったもの
の……」
 連戦錬磨のニッキは、ほっとして、ため息
をついた。
 「ようし、今度はこちらの番だ。反撃開始。
ファイア」
 ニッキが言うと、地球防衛軍の上層部によっ
て許可された光線が放たれた。
 それは、敵の宇宙ステーションにぶつかる
寸前に、いくつもの光線に枝分かれした。
 大小のいくつもの紫のリングを形成しはじ
め、ふわりふわりとステーションを包んだ。
 「へえ、おどろいた。こんなふうになるな
んて。まるで魔法を使っているようだ」
 「ニッキ、指揮官がそんな口をきいていて
はだめだ。効果はすでに実験済みなんだから、
自信をもって行動しろ」
 ポリドンが、オンラインでしゃべる。
 「あっ、はい」
 ニッキは、敵の宇宙ステーションの動向を
見つめつづけた。
 大型光線銃は、もはや火を噴かない。 
 どれくらい時間が経っただろう。
 敵意なし、を表す緑色の光を点滅させなが
ら、ゆっくり遠ざかっていく。
 「よし、今だ。波動エンジン全開。地球に
向けて進撃開始」
 ほんの数秒の後に、エンジンの出力が最大
になった。
 ニッキがゴーと声をかけると、またたく間
に船は宇宙空間に消えた。
 ニッキたちを迎え撃つためだろう。
  惑星エックス軍の円盤が、三々五々、地球
から遠ざかりはじめた。
 
コメント
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