徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

模造刀の鞘

2011-06-15 22:55:09 | 拵工作
前回の名刀の拵工作に着工しました。
今回のご依頼では、柄前一式と鞘尻の加工なので、当然鞘は現状のものを流用することになります。現状というのは、言うまでも無く模造刀の鞘です。

ここで本音を言ってしまうと、この手の工作はあまり気が進みません。

というのは、拵えは柄頭から鐺までの全体のバランスで成り立っているため、一部に模造刀のパーツを用いると、それだけで不恰好な拵えになってしまうからです。
時々、「真剣同様の作り込みの摸造刀」といったフレーズをネット上で拝見しますが、やはり摸造刀は摸造刀、あくまで業者さんの宣伝文句です。

以前にもたびたび登場しているDIY鞘の場合は、まだ刀身への配慮が感じられると言うか、刀身のために作られています。
そのため、DIY鞘を生かした拵え全体のバランスを考える余地があるわけですが、模造刀の鞘になると全くの論外になってしまいます。
理由は、柄前を作るときの基点が鞘だからです。

特に、今回の鞘は、鯉口にプラスチックが用いられており、塗りはウレタン塗装。
強めのデコピンを食らわすだけで塗装面が凹んでしまいます。
鐺を加工すべく、鞘尻に手を加えてわかったことは、材質もホウの木ではなく、バルサ材?ラワン材?で出来ています。
下地がホウの木なら、塗料はどのようなものでもさほど気にならないのですが、下地が弱すぎるのでしょう、結果、塗装も凹み易いです。

よく鞘が割れて、刃先が鞘のあらぬ所から顔を出して怪我をした…という話を聞きますが、この手の形ばかりの鞘に入れていれば、当然怪我もすると思います。

正直、真剣に模造刀の鞘は危険です!絶対に真似しないで欲しいと切実に感じます。

居合の高段者の中には、意識的に鞘が痛まない様に抜刀・納刀を行う名人がいます。
実際にそういう先生の愛刀は、何年たっても鞘の痛みどころかカス一切れも出てきません。そういう剣術家こそ、しっかりした鞘に納めていたりします。

真剣用の規格鞘の中には、雑な作りの物もありますが、私の知っている限りホウの木で出来ています。規格鞘に関しては、私はさほど悪いとは思いません。
問題は、模造刀の鞘に真剣を用いることの是非です。

何といっても、鎌倉時代(もっと以前からとは思いますが)から、拵えにホウの木が用いられている理由は、刀身への負担が最も少ないからなのです。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
勉強になります。 (さザキヤマ)
2011-07-22 19:26:31
居合初心者です。今は模造刀ですが、いつか真剣を・・・。と夢見ています。昔から使われている材料にはやはり意味があるのですね。勉強になりました。
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刀剣外装の材料 (拵師)
2011-07-23 17:44:36
さザキヤマ様、コメントありがとうございます。

居合をなさっているとか!
私も武道が好きで、10年以上居合を練習しています。腕の方は、いまいちですが…(笑)。
拵職人の世界では、観賞用は見た目のみ、武術用は使用感のみに重きを置く傾向がありますが、私が武道をたしなむ関係上、実用と美を兼ね揃えた拵を探求しています。

拵の材料には、ホウの木を用いますが、その理由は、上記の通りそれが一番刀身に影響がないためです。
例えば、樹液が溶け出すような材木を用いますと、刀身の肌に浸透し数十年後の刀身にどの様な影響があるか予測できません。
また、ホウの木以外の木の特性が分かりませんので、伐採後何年経った木材なのか、工作後どの様な経年変化が起きるのか不明です。
ホウの木であれば、各職人が経験上情報を蓄積しています。

また、硬い物を斬った時に、刀身の負荷をホウの木がクッションになって逃がしています。
必要以上に力が加われば、柄は壊れて刀身から力を逃がす働きもあります。
硬い素材を使えば、刀身への負担も大きいでしょうから、刀身が曲ったり折れたりする危険も増大します。
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