徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

短刀拵のバランス

2018-12-19 00:24:48 | 拵工作
日本刀は、硬軟多様な鉄からなる鋭利な刀身と、刀身を保護し使用に耐えうる外装(刀装)とからなる総合芸術品です。

刀剣の美意識は、長い時間をかけて確立した独特の湾曲と、刀身を研ぎ磨くことによって鑑賞を可能にする研磨技術、そして使用感の改善と刀身保護の役割だけでは収まりきらない刀装の意匠性とが相まって「実用の美」を醸し出しているところに魅力があるのだと思います。

事実!実用品であるからこそ美術品としての立ち位置に収まりきらず、今日でも世界中の愛刀家を引き付ける引力を保ち続けているのです。私は、「実用の美」を内包していない刀剣には存在の価値すらないと思っていますが、戦後の日本刀は美術刀剣として取り扱うことが法律で定められているため、現代の定義に引っ張られるように工芸家も美術品として刀身及び刀装を制作しているというのが現実です。

結果的に実用性のない不実な美があふれ、本来の刀身や刀装の性能が軽視されていると感じています。当工房では、日本刀を実用品として使用感や性能を最大化する技術を継承し発展させる努力を続けているため、刀剣に対する考え方も極力実用品として捉えるようにしています。

この度の短刀は10年ちかく前にお作りした作品で、制作当時に操作性を意識して使用感の改善とバランスの調整を施しています。過去記事はこちら


納品当時の写真

長い間ご依頼者様にご愛用頂き、擦れや経年のキズなどは見られるもののほぼ制作当時のままに機能してくれています。


修繕前の状態

ところで、ヤフーさんのウェブサイト提供サービス終了に伴い、ホームページを一時的に閉鎖させて頂いたのですが、画像類の保管場所に使っていたため古いブログ記事の写真が読み込めなくなってしまいました。折を見て再度更新していきたいと思いますが、何分古い写真なので見つからない可能性もございます。ご来訪くださった方々には大変申し訳ございませんが、精一杯修復に努めますので、その旨ご了承の程お願い申し上げます。



目に見えない箇所の状態も確認するため、一度柄前をバラバラに分解して、再度組み上げました。



今回は、大刀の柄糸に合わせて同じ柄糸で柄巻を施し、大小として御刀を佩びて武道の稽古に用いて頂きます。



この拵えは、復古調の外装様式を取り入れてお作りしましたので、柄成にも気を配りました。



柄成が、鍔元からグッと折れ曲がる様に湾曲しているのがわかるかと存じます。古作の短刀などに見られる振袖茎の刀身に着せた外装様式は、このような形状であったと考えられます。



柄頭を地面に垂直に立てると、より腰反り感が理解しやすいです。例えるならば、蕨手刀の様な形状に仕上がっています。



柄を外すと、実は茎はまっすぐの形状で、茎反りなどはありません(新々刀刀身)。意図的に、刀身とは違った形状を外装で作り出しています。
日本刀のバランス感は、刀身の形状・使用用途・時代考証など、狙った様式によって著しく左右されます。今回の拵えは幕末に流行した復古調の外装(腰刀や鍔刀の写し)を狙ったため、このような形状に仕上がっています。ようは、何を意図するか?誰がどのように使用するか?によってバランス感は大きく変わりますので、ご参考までに!



鞘の形状にもこだわっています。通常の鞘の半分ほどの重ねに仕上げてあります。長時間身に佩びていても疲れにくいカタチに仕上がっています。今回は、鞘には一切手を加えていません。

次の10年も、遜色なく機能を続けてくれることでしょう!

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