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浮世床 (四)

2009-10-20 22:57:49 | 落語
 半公が語ります。
 「それから、大きな声で、『音羽屋!』、『音羽屋!』、『音羽屋!』」


 「うるせえな、この野郎」


 「のべつに膝(ひざ)を突っつくんだよ。ここが忠義の見せどころだと思ったからね。夢中になって、『音羽屋!』、『音羽屋!』てんでやってると、周りの奴が笑ってやがる。女が俺の袖を引っ張って、『もう幕が閉まりました…… 』」


 「間抜けな野郎だな。幕の閉まったのも気がつかねえのか?」


 「俺もばつがわりいから、『幕!』…… 」


 「馬鹿っ、幕なんぞ褒めるなよ」


 「そのうちに、女がふたありで、何かこそこそ喋っていたが、『どうぞ、ごゆっくり…… 』ってんで、すーっと下へ降りてって、それっきり帰ってこねえ」


 「ざまあみやがれ。てめえが幕なんぞ褒めたもんだから、呆れ返(けえ)って逃げ出したんだろう?」


 「うん、俺もそうだと思ったから、帰ろうかなと思っているところへ、若え衆がやって来て、『お連れさまが、お持ちかねでございますから、どうぞ、てまえとご一緒に…… 』と、こう言うんだ」


 「へーえ」


 「『人ちげえじゃねえか?』、『いいえ、お間違いではございません。どうぞ、ご一緒に…… 』って言うんだ。若え衆の案内で茶屋の裏二階へ行くと、さっきの女がいて、上座に席ができていて、『先ほどのお礼と申すほどのことでもございませんが、一献(いっこん)差し上げたいと存じまして…… 』と、きた」


 「へーえ、一献てえと、酒だな?」


 「そうよ。水で一献てえなあねえからな…… 『婆や、お支度を…… 』と、目配せをすると、婆やが心得て階下(した)へ降りる。入れ違いに、トントンチンチロリン…… 」


 「何だい、それは」


 「どこかで三味線でも弾いてたのかい?」


 「分からねえ野郎だな。女中が酒を運んで来る音じゃあねえか」


 「女中が、梯子段(はしごだん)を上がる音だ」


 「へーえ…… チンチロリンてえのは、何だい?」


 「そりゃあ、おめえ、トントンと上がるから盃洗(はいせん)の水が動くじゃあねえか。すると、浮いている猪口(ちょこ)が盃洗のふちへ当たる音が、チンチロリンと言うんだ。
 これが、トントンと上がって来るから、トントンチンチロリン、チンチンチリトテンシャンと言うのは、猪口が盃洗の中へ沈んだ音だ」


 「こまけえんだな。で、どうしたい?」


 「酒が来て、やったり、取ったりしているうちに、女はたんといけねえから、目のふちがほんのり桜色」


 「ふーん」


 「俺も、空(すき)っ腹へ飲んだから、目のふちがほんのり桜…… 」


 「やい待て、畜生め。図々しいことを言うない。相手の女は、色の白いところへ、ぽーっとなるから桜色てんだが、おめえは、色が真っ黒じゃあねえか。おめえなんぞ、ぽーっとなったって、桜の木の皮の色よ」


 「なに言ってやんでえ。余計なことを言うない…… 飲んでいるうちに、酒は悪くなかったけれども、身体の調子だと思うんだ。頭が痛くなってきやがった」


 「うん」


 「どうにも頭が痛くてしょうがねえ。そこで、『姐(ねえ)さんご馳走になった上に、こんなことを言って申しわけございませんが、少し頭が痛くなりましたから、ご免を蒙(こうむ)って失礼させていただきます』と言って、俺が帰ろうとするとね、『とんでもないことになりました。たくさんあがらないお酒をおすすめいたしまして申しわけございません。少しお休みになったら、いかがでございますか?」と言うから、『そうでござんすね、ここへ横になったところで直りますまいから、家に帰って寝ます』と言ったら、『同じ休むなら、ここでお休みになっても、同じことじゃありませんか』と、こう言うんだ。


 言われてみれば、最もだから、『じゃあ、まあ、そういうことにお願いしましょう』、『よろしゅうございますわ』てんで、しばらく経つと、『さあ、こちらへ…… 』と言うんで、、行ってみると、隣座敷へ蒲団(ふとん)を敷いてあるんだ。それから、『失礼させていただきます。頭の直るまで…… 』ってんで、おらあ、そこへ入(へえ)って寝ちまった」


 「うん」


 「すると、女が、すーっと行っちまったから、こりゃあいけねえ。女が帰っちまっちゃあ大変(てえへん)だ。ここ勘定はどうなっているんだろうと思って…… 」


 「しみったれたことを考げえるなよ」


 「けれどもよ、そう思うじゃねえか。ところがね、しばらくすると、すーっと音がした」


 「何だい?」


 「障子が開いたんだ」


 「誰が来たんだい?」


 「誰だって、分かりそうなもんじゃあねえか。その女が入(へえ)って来たんだ」


 「ふーん、どうしたんだい?」


 「女が枕もとで、もじもじしていたが、『あのう…… わたしもお酒を戴きすぎて、大層、頭が痛んでなりませんので、休みたいとは存じますが、他の部屋がございませんので、お蒲団の端のほうへ入れさせていただいてもよろしゅうございますか?』って、こう言うんだ」


 「えっ、そいつぁ大変なことになっちゃったなあ。おーい、みんな、こっちへ寄って来いよ。ぼんやりしている場合じゃねえぞ…… で、おめえ何と言ったんだ? …… 『早くお入んなさい』か、何か言ったろう?」


 「どうもそうも言えねえから、『どうなさろうとも、あなたの胸に聞いてごらんなすっちゃあいかがでございましょう?』と、俺が皮肉にぽーんと、ひとつ蹴(け)ってやった」


 「うめえことを言やがったな。それからどうしたい?」


 「そうすると、女の言うには、『ただいま胸に訊ねましたら、入ってもよいと申しました。では、ごめんあそばせ』ってんで、帯解きの、真っ赤な長襦袢(ながじゅばん)になってずーっと…… 」


 「畜生めっ、入(へえ)って来たのか?」


 「入(へえ)って来たとたんに、『半ちゃん、一つ食わねえか』って、起こしたのは誰だ?」


 「何?」


 「『半ちゃん、一つ食わねえか』って、起こしたのは誰だ?」


 「起こしたのは俺だ」


 「わりいところで起こしやがった」


 「なーんだ、畜生め。夢か?」


 「うん、そういう口があったら世話してくんねえ」



 「静かにしてくださいよ。あんまりこっちが賑(にぎ)やかなんだね。気を取られていたら、今の客、銭を置かずに帰っちまった」


 「性質(たち)の悪い奴だな、どんな…… 」


 「今そこで髭(ひげ)をあたってもらっていた印絆纏(しるしばんてん・江戸時代の職人が着た絆纏)を着た、痩せた男かい」


 「ああ、ありゃ、町内の畳屋の職人じゃあねえか?」


 「それで、床屋(とこ)<床畳>を踏みに来たんだ(踏み倒したと言う意味)」


 お後が、宜しいようで……


*こちらにGyaoで放映中
[古今亭志ん弥 「浮世床」 http://gyao.yahoo.co.jp/player/00291/v01038/v0103800000000525181/ ]



浮世床 (三)

2009-10-20 17:57:50 | 落語
 中には寝てしまった者いるようです。


 「おや、この最中に、誰かいびきをかいて寝てやがる…… おや、半公じゃあねえか。見なよ、こいつの寝ている様は、どうもいい面じゃあねえな…… おやおや、鼻から提灯を出しゃあがったぜ…… 
 あれッ、消しゃあがった。また、点けたよ。今度は、少し大きいや。提灯を点けたり、消したり…… 
うん、お祭りの夢なんか見てやがるんだな。おい半公、起きろよ。おいっ半公っ!」


 「おいおい、だめだよ。そんなことを言ったって起きるもんか」


 「じゃあ、どうすりゃいいんだい?」


 「何しろ、こいつは食いしん坊だ。『半ちゃん、一つ食わねえか?』と言やあ、直ぐに目を覚まさあ」


 「そうかい…… おい、半ちゃん、一つ食わねえか?」


 「ええ、ご馳走さま」


 「おやっ、寝起きがいいな。実は、今のは嘘だ」


 「おやすみなさい」


 「現金な野郎だな…… いいから、もう起きなよ」


 「あ、あ、あーあ」


 「大きなあくびだな。みっともねえ野郎だ。よく寝てるなあ。てめえは…… 」


 「ああ、眠くてしょうがねえ。何しろ、身体が疲れてるんでね」


 「そうかい、仕事が忙しいんだな」


 「いや、どういたしまして。仕事どころの話じゃねえんだ。女で疲れるのは、しんが弱ってしょうがねえ」


 「あれっ、変な野郎を起こしちゃったな。寝かしといたほうが無事だった。起きて寝言を言ってやがらあ…… 何だい、その女で疲れるのは、しんが弱るてえのは? 女でもできたのか?」


 「うふふふふ、まあな」


 「おやっ、オツに気取りやがったな。何を言ってやがるんだ。てめえなんぞに女のできる面かい」


 「なあに、人間は面で女が惚れやあしねえよ。ここに惚れるのさ」


 「おや、胃が丈夫なのかい?」


 「何を言ってんだ。胸三寸の心意気てえやつよ」


 「笑わせるんじゃねえぜ。てめえが、何が胸三寸の心意気だ。人から借りたものは、忘れるか、しらばくれるのか知らねえが、めったに返(けえ)したことはねえし、貸したものはいつまでも覚えてるし……」


 「そんなことはどうでもいいや。こう見えても、俺は、大変な色男なんだ」


 「ふーん、世の中には、よっぽど酔狂な女がいるもんだな。でなきゃあ、おめえに惚れるはずがねえや。
 器量が悪くっても、身なりがいいとか、どっか垢抜けしているとか、読み書きができるとか、遊芸ができるとか、かねがあるとか、人間には、一つぐれえ長所(とりえ)があるもんだが、おめえて奴は、面はまずいし、人間が卑しいし、身なりはみすぼらしいし、金は持ったためしがねえし、洒落は分からず、粋なことを知らず、食い意地が張って、助平で、おまけに無筆(頭が良くないということ)ときているから、一つだって長所なんぞありゃしねえ」


 「嫉(そね)むな、嫉むな。そんなに俺の悪口を並べ立てることはねえ…… 実は、今日、芝居の前を通ったんだ。別に見るつもりはなかったんだが、看板を見ているうちに、急に覘(のぞ)いて見たくなったんで、木戸番(今でいえば、受付みたいなもの)の若え衆と顔見知りの奴がいたもんだから、そいつに頼んで、立ち見でいいからってんで、一幕覘かせてもらったんだ」


 「うん」


 「俺が、東の桟敷(さじき)の四つ目辺りだったかな…… そこへ立って見てたんだ。すると、前に座っていたのが、年頃、二十二、三かなあ…… しかし、女がいいと年齢(とし)を隠すから、まあ二十五、六…… よく見ると、七、八…… そうだなあ、かれこれ三十に手が届いてやしねえかと思うが、ちょいと白粉(おしろい)をつけているから、あれを剥(は)がすと、もうあれで三十四、五…… 小皺(こじわ)の寄っている具合で四十二、三…… 声の様子では五十一、二…… かれこれ六十…… 」


 「何を言ってやがるんだ。それじゃあ、まるっきり婆(ばばあ)じゃねえか」


 「まあ、二十三、四といやあ、当たらずとも遠からずだ。持ち物といい、身装(みなり)の拵(こしら)えといい、五分の隙(すき)もねえでなあ、あれだね。五十二、三のでっぷりとした婆(ばあ)やを共に連れて、一間の桟敷を買い切ってよ、ゆったりと見物だ。どこを見たって、肩と肩と押し合っている中で贅沢(ぜいたく)なことをしてやがるなと思って見ていた。


 そのうちに、音羽屋(歌舞伎役者の屋号)のすることにオツなところがあったんで、俺が、大きな声で『音羽屋!』って褒(ほ)めたんだ。すると、女が振り向いて、俺の顔を見上げて、にっこり笑った。
向こうで笑うのに、こっちが恐え面ァしているわけにもいかねえから、何だか分からねえが、俺もにこりっと笑った。向こうでに(二)こりっ、こっちでに(二)こりっ…… 合わせてし(四)こりっ…… 」


 「何をつまらねえことを言ってるんだ」


 「『あなたは、音羽屋がご贔屓(ひいき)でいらっしゃいますか?』って女から声を掛けたから、『いいえ、贔屓というわけにはいきませんが、贔屓のひき倒しでございますよ』、『わたくしも音羽屋が贔屓でございまして、褒めたいところはいくらもございますが、殿方と違って褒めることができませんから、あなた、どうぞ褒めてくださいましな』てえから『ええ、お安いご用でございます。あっしが、褒めるほうだけは、万事お引き受けいたしやしょう』と、こう言った」


 「つまらねえことを引き受けたな」


 「ああ、銭がかかねえこったから損はねえと思ってね…… と、女が『もし、お宜しければ、どうぞお入りくださいまし』と言うから、『それじゃあ、まあ、隅のほうをちょいと貸していただきます』ってんで…… 」


 「入(へえ)っちゃったのか? 図々しい野郎だな」


 「女が、俺の膝(ひざ)を突っついて『お兄さん、ここが宜しいではございませんか?』と言うから、ここが褒めてもらいてえというきっかけだから、『音羽屋!』と褒めた。女が喜んでね、お芝居が引き立ちますから、もっと大きな声でお願いします』ってえから、うんと声を張り上げて、『音羽屋!』…… 『もっと大きな声で…… 』と言うから、『これより大きな声は出ません。これが図抜け大一番でございます』と言って…… 」


 「早桶(はやおけ・粗末な円筒の棺おけのこと)をあつらえてるんじゃあねえや」


*こちらにGyaoで放映中
[古今亭志ん弥 「浮世床」 http://gyao.yahoo.co.jp/player/00291/v01038/v0103800000000525181/ ]



Old Ones

2009-10-20 09:24:45 | クトゥルフ神話

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「人類が誕生する遥か以前の地球に飛来し、高度な文明を築き上げた樽状知的生命体。
原形質の細胞から地球上の全ての生命を生み出した」


・「Old Ones(古きもの)」は、約10億年前のカンブリア紀より、更に5億年遡った地球上に外宇宙から飛来し、現在の南極大陸に位置する場所へ、石造りの巨大都市を建設した高度な文明を持つ知的生物である。


・国家体制は、社会主義に近く、五芒星形の通貨を流通させ、世界各地に都市国家を建設していった。


・高さ6フィート、直径3フィートの樽によく似たずんぐりした胴体の上に繊毛の生えた海星型の頭部がついており、ガラス質の赤い光彩の目、白く鋭い歯に似た突起物の並ぶ鈴の形をした口がついている。


・胴体からはウミユリの触覚のような5本の腕が伸びており、扇のように折りたたむことができる膜状の翼は、広げると7フィートにも達し、これで空中や海中をかなりのスピードで移動できる。


・都市造営を始めとする地球上での労働力として、「Shoggoth(ショゴス)」をはじめとする様々な生物を造りだしたが、この「Shoggoth(ショゴス)」の生命細胞が、やがて人類に進化していったと考えられている。


・新大陸の隆起と時を同じくして、宇宙より飛来した「Great Cthulhu(大いなるクトゥルフ)」と、その眷属との間で激しい戦いを繰り広げ、一時は陸上から駆逐されたが、後に和平が結ばれて、太平洋の大陸を「Great Cthulhu(大いなるクトゥルフ)」が、海洋と以前から存在した大陸を「Old Ones(古きもの)」が、分割統治することになった。


・星々の位置が変化することにより引き起こされた地殻変動で太平洋の大陸が沈み、「Great Cthulhu(大いなるクトゥルフ)」が、「R'lyeh(ルルイエ)」で瞑(ねむ)りにつくと、再び「Old Ones(古きもの)」が地球を支配したが、ジュラ紀の頃に冥王星から飛来した「Fungus-beings of Yuggoth(ユゴスよりのもの)」との戦いの末、北半球から追いやられてしまう。


・その後、種としての限界と退廃期、氷河期の到来や「Great Race of Yith(イスの偉大なる種族)」をはじめとする多種族との戦い、度重なる「Shoggoth(ショゴス)」の叛乱を経て徐々に衰退していき、現在は南極の巨大都市の遺構に数少ない生き残りが確認できるのみである。