デビューライブで、幡山 日光(はたやま にっこう)が歌うナンバーは、売れない、がつくので、どこにでもある、「これから」と「今より先へ」がテーマな1曲と、ファンをいとおしく、そして、手離したくない者ととらえたLOVEソングが1曲で、合計2曲であった。
何れの歌も、幡山 日光(はたやま にっこう)の為に、創られた事に、表面的には、なっているが、実は、別人が歌う予定があったと言う。それを、幡山 日光(はたやま にっこう)が、聞かされたのは、今回のライヴの説明を聞かされた時だった。資源の有効活用で、どれも、格段に悪いと言うものではないので、好きなように、歌って良いという事だった。無論、それは、今回のライヴに参加するアーティスト全員で、例外はなかった。
――売れる、売れないに、翻弄されて、アーティストで、一山あてる、って言うやつなんだろうな――
曲を頂戴出来ると言う有り難さを、幡山 日光(はたやま にっこう)は、痛感しつつも、ベストな傑作の影で泣く、日の目を見なかった、御蔵入りナンバーも多数か…と、ため息をついた。
――その御蔵入りナンバーが、良かったりもする…案外――
アーティストの自己満足でやるには。それが、観客に伝わったら、それこそ奇跡で、語り草になったら、格好いい、と、幡山 日光(はたやま にっこう)は、思っていた。無論、現実の世界で、起こればの話である。
本番が近づき、歌うアーティストの順番が決まった。幡山 日光(はたやま にっこう)は、最後から1個前と言う、記憶に残るのかと言う所だった。
――記憶に残りにくいだろうから、いっか…――
自室で、何度目とも知れぬ披露ナンバーを、幡山 日光(はたやま にっこう)は、弾き始めると、早速、間違える。
――相変わらず、集中力乏しいなぁ…――
そう思いつつも、最初から最後まで、演奏を通す。曲も幡山 日光(はたやま にっこう)自身も、世に知られていないと言う、無名さ。その無名状態から、0が終わり、1にたどり着き、そして、2、3…と進み行く。それがくっきりと解るのは、物語だったり、他人だったりで、自分じゃないと、思う、幡山 日光(はたやま にっこう)と今やっているナンバーの相性は良いかな、と、幡山 日光(はたやま にっこう)思う。一方で、もう1つの持ち歌となったナンバーとの相性が、ちょっと…と思っていた。
――大事な手離したくないものを、いとおしく思う…考えてみれば、恋に縁のない自分には、どんなものなのか?――
幡山 日光(はたやま にっこう)は、キーボードの譜面台の歌詞を印刷した用紙を、眺めながら、思った。
――こっちのが、完成度、低いんだよな。――
どうしよう…と、幡山 日光(はたやま にっこう)は、頭をかかえた。
――思えば、友達も大していなくて、かけがえのない、って、綺麗事だろって、思ってた口だもんなあ――
幡山 日光(はたやま にっこう)は、重い気持ちのままに、弾き始める。間違える回数は、始めの頃よりは、減った。だが、満足行くように、どうしても、いかない面がありながらに、本番を迎える夢を、幡山 日光(はたやま にっこう)は、何回か見ているうちに、本番がやって来たのだった。
(終)