読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

短編小説

2006-06-08 22:38:35 | 読んだ
なぜか、小説新潮の1月号なぞを読んだ。
短編小説を読んだ。
このごろはあまり短編小説を読むことがないので、ちょいと新鮮な気分であった。

つまり、大きな仕掛けやどんでん返しもなく、小説の中で起こることは特殊ではあるが大げさなものではなく、あっさりとしていてそれでいて心に残るものであったりする。

櫻の家 曽野綾子

70代半ばの「私」が、散歩中に、一本の桜の老樹から、若い頃、東京大空襲のさなかの出来事を思い出す。

その桜のある家に住んでいた一家は、エリートの一家。特に奥さんは英国育ちで英語を話せる上品な人。
しかし、その結婚はあまり幸せではないらしい、と私は思っていたが、空襲の夜に起きたある出来事から、その夫婦の恋が始まったと気づく・・・

なんといいますか、それは空襲というという大事件ではあるのですが、その空襲と夫婦の恋とのからみが、ゆったりとしていてそれなのにスピーディーに語られていきます。

1950年のバックトス 北村薫

鮎子の息子翔太は地元の少年野球チームに入っている。
あまりスポーツが得意ではない彼だったが野球は性にあったらしく二塁手のポジションを得る。
そのチームの遊撃手は4年生ながら水際立ったプレーを見せる山城剣人である。

ある日、翔太の野球の試合の日に姑の節子がやってくる。
鮎子はお世話係なので節子の相手ができないので野球に誘う。
<家にいる>という返事だろうと思っていたら、なんとうれしそうに行く、という。
しかも、鮎子より野球に詳しい「エンタイトル・ツーベース」なんて知っていたりする。

実は、節子は戦後わずかばかりの期間であったが行われた女子プロ野球の選手だった。そして、山城剣人を見て、ある人を思い出す・・・

ひえー、というほどなんだかうれしくなる物語であった。
野球っていいんじゃない。

夕映え天使 浅田次郎

浅田次郎の小説はつくりが「どうだ!」というカンジ、けれん(外連)がありすぎるというカンジ、なのであまり好きではない。
といい続けてきた。

そうはいいながら、読んだ。この紹介に「新春に贈る感涙の名篇」とある。
嗚呼、またお涙ちょうだいかよーと三村ふうに突っ込みながら読み始める。

80歳と50歳の男やもめの親子が何とかやっている中華料理屋に、純子という40代の女がやってきて、ラーメンを食べ、そして「住み込みで働かせてくれ」という。
なんとなく成り行きで雇ったら、働き者で店の「トウがたった看板娘」になる。
ところが半年で書置きもなくいなくなった。

何故いなくなったのか?を親子で話しているうちに、思い当たるふしが・・・
と、そうこうしているうちに軽井沢の警察から電話が入り、自殺者の風体が純子らしい・・・息子の一郎が駆けつけると・・・

わりと穏やかな作品であります。別に「感涙」には及びませんでしたが、心がちょっと湿ってしまいました。


というわけで「短編」というものにあらためて感心したのでした。


コメント
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