読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

日本橋バビロン 小林信彦 文春文庫

2011-11-17 21:05:21 | 読んだ
小林信彦は、芸能関係のものから入った。
それからエッセイを読んだ。

その感覚が素晴らしいと思った。そしてあこがれている。

その小林信彦の小説をこのごろ読み始めた。
前回は「うらなり」(2010年2月13日)だった。
そしてその前は「東京少年」(2008年8月8日)であった。
(いずれの感想も、嘉壽家堂本店に収めてあります)


本書は、その「東京少年」の続編とも言えるいえる自伝的小説である。

小林信彦は『いいとこ』の生まれで育ちであることは東京少年を読んだし数多くのエッセイから知ってはいた。
しかし、これほどの『いいとこ』の育ちだとはびっくりした。

創業享保8年、昭和まで9代続いた老舗和菓子店「立花屋」が彼の生まれた家である。
9代目小林安右衛門は小林信彦の父である。
で、世が世ならば小林信彦は10代目になるはずだった。
しかし、彼はならなかった。

何故なのか?
それは語られていない。

しかし、
「甘いものを口にしない」
というところから既に老舗和菓子屋の十代目ではないだろう、と思う。

そして何より、この本を読んで思うのは、「いいとこ」のお坊ちゃんとして育てられたゆえに、職人の技術を発揮しなければならないような、或いは、店を保つというようないわばガツガツしなければならないような経営者にはなれない、ということを著者自身がよく分かっていたんだろうと思う。

とはいうものの、お坊ちゃんとして子供の頃から演劇や映画を見て、おいしいものを食べて育った環境と、菓子職人だった祖父の職人気質を受け継いだ素質が、小林信彦独特の世界を作ったといえる。
つまり老舗菓子家の10代目とはならなかったが、老舗菓子屋の伝統は色濃く引き継いでいたと思えるのだ。

小林信彦の最大の特徴は「醒めている」のに「むきになる」ところだと思う。
それが、私には非常に好ましく思うのである。

この本を読むと、昭和の「いいとこ」育ちというのは途方もなく「いいとこ」だったんだと思う。

昭和7年生まれの著者が、子供時代に家族旅行をし、疎開前に中華料理店で本物を使った中華料理を食べる、「すごい!」としか言いようがない。
ちなみに、著者の子供世代である昭和31年生まれの私は、小さい時に家族旅行や家族で外食なんてしたことがない。

著者がこの物語を書いた理由は
「生まれた町と家について書きたいと思い立ったのは、昭和の旧日本橋区を内側から描いた書物が一冊もないからである」
ということである。

つまりこの明治から昭和前半にかけての東京の下町の老舗和菓子店というものを通した、当時の人たちの生活と考え方にを著した物語は、著者にしか描けないものなのである。

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