工作台の休日

模型のこと、乗り物のこと、ときどきほかのことも。

Make TMS great again?

2019年04月21日 | 鉄道・鉄道模型
 月刊誌「鉄道模型趣味」(「TMS」)は、昭和22年以来、現存する最古の鉄道模型雑誌として機芸出版社から刊行が続けられていましたが、今月発売の2019年5月号で、機芸出版社の代表にメーカー、小売店であるIMONの井門義博氏が就任し、同誌の編集長にネコパブリッシング出身で、かつてのライバル誌の編集長だった名取紀之氏が就任したことが明らかにされ話題になっております。
 TMSは長らく日本で唯一の鉄道模型月刊誌として君臨し、後発の「とれいん」、「レイルマガジン(そこから独立したRM MODELSも含め)」が刊行されてからも鉄道模型月刊誌の一角を占める存在であり続けました。しかし、今月号の巻頭言によれば、前社長の体調不良など(経営陣の高齢化ということでもありますが)で事業の継続が難しくなり、結果としてIMONが引き継ぐことになった、とあります。
 かつては私も愛読している雑誌でしたが、近年は熱心な読者とはとても言えないような状況でした。ただ、機芸出版社の刊行物は子供の頃からお世話になっており、自分が生まれる前の車輛を体系的に知ることができた、という意味では「陸蒸気からひかりまで」はバイブルのような存在ですし、ブームやノスタルジーではない、リアルな昭和の情景を知るという意味で「シーナリィ・ガイド」は本当に役に立つ書籍と思っています。そのほかにも「明治の機関車コレクション」や「ナローゲージモデリング」など、実物、模型を問わず高い評価を受けている刊行物もあります。月刊誌としてのTMSにとどまらず、こうした書籍がこれからも刊行されるのであれば、歓迎すべきことと思います。IMONの代表である井門義博氏も編集長の名取氏も、長く続いてきたこの雑誌を止めるわけにはいかない、ということで大役を引き受けられており「もう一度TMSを偉大に」というお気持ちが巻頭言や巻末の「編集者の手帳」からもうかがえます。
 近年は中小企業の事業承継が話題になっておりますが、その観点からすれば、引き継ぐ相手が登場したということですから、悪いことではないはずです。これまでのTMSでは、長らく主筆を務められた故・山崎喜陽氏の方針とは思いますが、車輛工作も、車輛を走らせる場であるレイアウトも同じように扱い、紹介しており、私も含め多くのファンが「いつかはレイアウト」と思っていたのではないでしょうか。IMONさんはこれまでの編集方針は堅持し「お金は出すけど口は出さない」と言われておりますが、新しいTMSの誌面に今後、どのような変化が起きるのか見守りたいと思います。
 
 かつて「とれいん」誌上で、井門義博氏は自身のメーカー、小売店を興す前に、天賞堂銀座店の4階にあった「エバーグリーンショップ」でモデルワーゲン製1/87、12mmの日本型HOの製品を「魔が差して」たまたま入手したことで「日本型HO」に足を踏み入れることになった、というようなことを言われています。ご存知のとおり、日本では長らく「日本型で16.5mmの軌間の鉄道模型」では16番ゲージと呼ばれる1/80、16.5mmが幅をきかせておりました(その16番ゲージの誕生にもTMSと主筆の山崎喜陽氏が深くかかわっております)。一方、1/87、12mmは外国型と同じ縮尺、日本の在来線の狭軌感をリアルに再現できるということで一定のファンがおり、この時のことがきっかけでIMONさんもメーカーとしては1/87・12mmを中心に展開されています。IMONの名前は小売店としても、さらには「国際鉄道模型コンベンション」の運営を引き受けるなど、鉄道模型の世界で大きな存在となっています。あのとき、モデルワーゲン製の模型を他の方が買われていたら、日本の鉄道模型の世界は別の道を歩んでいたのでは、などと思うのです。

本稿は平成31年4月25日に一部加筆しました。

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