ゴールデンウィークには東京で開催されるイタリア映画祭を観に行くことが多いのですが、今年は5/1から始まりました。初日夜の上映が「潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断」という作品で、第二次大戦にあった秘話を元に描いた作品ということで、観てまいりました。
1940年、大西洋での作戦のため、イタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カペリーニが出港します。ジブラルタル海峡を苦労して通過した後、一隻の貨物船と交戦ののち、潜水艦に搭載の艦砲で撃沈します。この時、輸送船からボートで脱出した乗組員たちを見捨てるという選択肢もありましたが、潜水艦の艦長の命で乗組員を収容し、ただでさえ狭い艦内に捕虜という「招かれざる客」が現れました。水線上の司令塔まで捕虜を乗せたことから潜航が難しくなった艦はひたすら浮上したまま中立国に向かいます。浮上したままの潜水艦がいかに無力な存在かは、このブログの読者ならご存じでしょう。ところが、そこにイギリス艦隊が現れて、潜水艦の艦長はある決断をする・・・というのがストーリーです。
イタリア艦が撃沈した輸送船はベルギーの貨物船で、この時点ではベルギーは中立を保っていましたが、ほどなくして連合国側につきます。この航海もイギリスのための物資輸送でした。時に不穏な空気も流れますが、艦長と貨物船の船長ら士官クラスとは奇妙な友情がめばえます。
この映画、実物大の潜水艦のセットを用意したほか、艦内も当時の写真を元に「イタリア艦らしさ」を出す形でよく再現されています。映画祭に合わせて来日したエドゥアルド・デ・アンジェリス監督によると、安易にCGに頼らず、波しぶきなどは本物の水を使ったそうです。それ故にキャストの中には低体温症で救急搬送(幸いすぐ回復したそうですが)、ということもあったようです。また、夜のシーンが多かったので、撮影スタッフの腕の見せ所ではあるのですが、暗くなり過ぎず明るすぎずで映画として見るにはとてもリアルに撮れていました。
この映画、なんと言っても艦長役を演じたピエルフランチェスコ・ファビーノ(チラシ中央)の存在感ある演技に尽きます。小さく、狭い潜水艦ではありますが、艦長として乗組員全員の命を預かる大きな存在であるとともに、副長とのやりとりに見られる海賊船の船長のような野蛮な一面もあれば、預言者めいた部分、そして時折瞑想にふけったり、また自分たちの身を危険にさらしてまで捕虜を見捨てないという人間として大切な部分という多面的なキャラクターを演じ切りました。実際の艦長がヴェネト州で育ったことから、主役のファビーノもかなり癖のあるヴェネト地方の方言でしゃべっており、ずいぶん字幕のお世話になりました。監督曰く細部にわたって役作りをしてきたということで、名優の演技を見られるという点でもこの映画お勧めです。昨年の映画祭では「あなたのもとに走る」という映画でしょうもないプレイボーイを演じていましたが、今作では重厚なこの人らしい演技がみられます。
映画の中では食に関するシーンもずいぶん出てきます。ここも監督がこだわったところで、海中をずっと進む潜水艦では食べることがどこの国でも重要視され、また最も大きな楽しみでもあります。艦長の命令で艦の料理人がイタリア各地の料理の名前を言いながら具のほとんど入っていないスープを各自に盛り付ける場面が出てきたり、捕虜にしたベルギー人からポテトフライ(彼の地ではフリッツと言いますが)を教えてもらうシーンもあり「なんでも揚げ物にするナポリ人でさえ考えつかなかった」というセリフには観ているこちらも楽しくなります。 艦内はさまざまな地域の出身者で構成され、別の星から来た人たちのよう、と形容されるシーンもありますが、それでも乗組員は「イタリア人」としてイタリアのため、さらには艦という小さな社会のボスである艦長のために働くシーンが随所に描かれていました。
映画のラスト近く、ベルギーの船長が「なぜ私たちを見捨てなかった」と問うと、艦長から「我々がイタリア人だからだ」という言葉が返ってきます。このせりふにぐっと来ました。
この映画、今夏に全国公開だそうです。イタリア海軍が当然のように全面協力した作品、機会があればぜひ劇場でお楽しみください。
1940年、大西洋での作戦のため、イタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カペリーニが出港します。ジブラルタル海峡を苦労して通過した後、一隻の貨物船と交戦ののち、潜水艦に搭載の艦砲で撃沈します。この時、輸送船からボートで脱出した乗組員たちを見捨てるという選択肢もありましたが、潜水艦の艦長の命で乗組員を収容し、ただでさえ狭い艦内に捕虜という「招かれざる客」が現れました。水線上の司令塔まで捕虜を乗せたことから潜航が難しくなった艦はひたすら浮上したまま中立国に向かいます。浮上したままの潜水艦がいかに無力な存在かは、このブログの読者ならご存じでしょう。ところが、そこにイギリス艦隊が現れて、潜水艦の艦長はある決断をする・・・というのがストーリーです。
イタリア艦が撃沈した輸送船はベルギーの貨物船で、この時点ではベルギーは中立を保っていましたが、ほどなくして連合国側につきます。この航海もイギリスのための物資輸送でした。時に不穏な空気も流れますが、艦長と貨物船の船長ら士官クラスとは奇妙な友情がめばえます。
この映画、実物大の潜水艦のセットを用意したほか、艦内も当時の写真を元に「イタリア艦らしさ」を出す形でよく再現されています。映画祭に合わせて来日したエドゥアルド・デ・アンジェリス監督によると、安易にCGに頼らず、波しぶきなどは本物の水を使ったそうです。それ故にキャストの中には低体温症で救急搬送(幸いすぐ回復したそうですが)、ということもあったようです。また、夜のシーンが多かったので、撮影スタッフの腕の見せ所ではあるのですが、暗くなり過ぎず明るすぎずで映画として見るにはとてもリアルに撮れていました。
この映画、なんと言っても艦長役を演じたピエルフランチェスコ・ファビーノ(チラシ中央)の存在感ある演技に尽きます。小さく、狭い潜水艦ではありますが、艦長として乗組員全員の命を預かる大きな存在であるとともに、副長とのやりとりに見られる海賊船の船長のような野蛮な一面もあれば、預言者めいた部分、そして時折瞑想にふけったり、また自分たちの身を危険にさらしてまで捕虜を見捨てないという人間として大切な部分という多面的なキャラクターを演じ切りました。実際の艦長がヴェネト州で育ったことから、主役のファビーノもかなり癖のあるヴェネト地方の方言でしゃべっており、ずいぶん字幕のお世話になりました。監督曰く細部にわたって役作りをしてきたということで、名優の演技を見られるという点でもこの映画お勧めです。昨年の映画祭では「あなたのもとに走る」という映画でしょうもないプレイボーイを演じていましたが、今作では重厚なこの人らしい演技がみられます。
映画の中では食に関するシーンもずいぶん出てきます。ここも監督がこだわったところで、海中をずっと進む潜水艦では食べることがどこの国でも重要視され、また最も大きな楽しみでもあります。艦長の命令で艦の料理人がイタリア各地の料理の名前を言いながら具のほとんど入っていないスープを各自に盛り付ける場面が出てきたり、捕虜にしたベルギー人からポテトフライ(彼の地ではフリッツと言いますが)を教えてもらうシーンもあり「なんでも揚げ物にするナポリ人でさえ考えつかなかった」というセリフには観ているこちらも楽しくなります。 艦内はさまざまな地域の出身者で構成され、別の星から来た人たちのよう、と形容されるシーンもありますが、それでも乗組員は「イタリア人」としてイタリアのため、さらには艦という小さな社会のボスである艦長のために働くシーンが随所に描かれていました。
映画のラスト近く、ベルギーの船長が「なぜ私たちを見捨てなかった」と問うと、艦長から「我々がイタリア人だからだ」という言葉が返ってきます。このせりふにぐっと来ました。
この映画、今夏に全国公開だそうです。イタリア海軍が当然のように全面協力した作品、機会があればぜひ劇場でお楽しみください。