ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

NGNのIPv6ネイティブ方式が開く企業向けVPNの可能性

2011年05月28日 | ネットワーク
NTT東西がNGNを利用したIPv6エンドtoエンド通信の認可申請を行ったとのこと。それを受けてNECビッグローブはこのIPv6エンド-エンド通信を前提に、「IPv6ネイティブ」方式での提供を発表した。

NTT東西のNGN上のIPv6接続、トンネル方式が6月1日、ネイティブ方式が7月26日スタート - ニュース:ITpro

NECビッグローブ、7月26日からNGN上でネイティブ方式のIPv6接続サービスを開始予定 - ニュース:ITpro

IPv6エンド-エンド通信というのは、いわゆるNGN内の「網内折り返し機能」と呼ばれていたもの。ネイティブ方式のISPのユーザーの場合、ユーザー間の通信はインターネットに抜けることなく、NGN内での閉じた通信となることから、効率的なパケットの転送が可能になる。その機能を提供するにあたり、「県間通信」が発生する可能性が高いことから、(県内通信を基本としている)NTT東西では認可申請したとのこと。

NGNではもう1つIPv6での接続方式がある。それが「トンネリング方式」と呼ばれるもの。こちらはこれまでのフレッツ網での接続方式とイメージは近い。ユーザー側にはONUやHGWとは別に「アダプタ」を設置し、ISPとアダプタ間をPPPoEで結ぶ。IPアドレスをISPから付与し、基本的には通信は全ていったんISP網内の経由となる。

しかしそれではNGNに閉じたサービス(ex.ひかりTV)を利用することができない。そのためユーザーがNGN向けサービスを利用しようとした場合には、このアダプタがNGN向けのIPアドレスにプレフィックスをNAT変換することになる。そうすることでISPとは別のNGNネットワークに接続することになる。

何故、このように異なる方式が併存することになったかというと、単純にいえばISPとNTT東西との主導権争いといっていいだろう。ネイティブ方式では、NGNと接続できる「ネイティブ事業者(代表ISP)」が3者に制限される。そうした感情的な反発と、何よりもIPアドレスの払い出しやサービス品質などがNGN側に依存する、ISPの存在意義が薄れてしまうということに対する危機感がISP側にはあった。

そこでこれまで同様にNGNをインフラとして扱いたいISPはPPPoEを前提とした「トンネルング方式」を主張し、増大する設備投資をNGN側に転嫁させることでより身軽に・競争の軸を別に求めるISPはIPoEを前提とした「ネイティブ方式」を選択することになった。

ここでちょっとわからないのが、「ネイティブ方式」の場合にNTT東西のNGN間を網間接続がどうなっているかということ。同じNTT東日本のNGNに接続されている北海道のAさんと東京のBさんが通信する場合は「網内折り返し機能」を通じてNGN内に閉じた通信となる。しかしNTT東とNTT西のNGNは同じ仕様ではあるもののあくまで別網だ。北海道のAさんと兵庫のCさんが通信するときに網間接続が可能であればNGN内で閉じた通信となるが、そうでなければISP~インターネットを通じた通信となる。

このことはISPとNGNの接続点(POI)を東西両方にもつのか、どちらか一方でいいのかという問題に直結する。ISP側からすれば東西両方にPOIを用意するのはその分の投資が必要になる。冗長化というメリットはあるかもしれないが、できれば一箇所に集約したいというのが本音だろう。しかしそこは技術的には問題というよりは、ドミナント規制の問題や東西両会社のビジネス上の問題もあり、おそらくは網間接続は許されていないだろう。

一般コンシューマーにとっては、しかし、この問題は特に意識するものではない。NGNに閉じたサービスがそれほど普及していないし、そのサービスがインターネット上のものかNGNに閉じたものかはあまり意識しないだろう。

しかし企業向けのネットワークでは大きくあり方が変わるのかもしれない。

一般に企業のネットワークを構築する場合、信頼性やセキュリティの高い順で行くと以下のようになる。

1)専用線
2)IP-VPNや広域イーサ
3)フレッツ網に閉じたサービスやエントリー型のVPNサービス
4)インターネットVPN

4)インターネットVPNを別にすれば、いずれも通信キャリアが提供するサービスだ。しかし仮に全ての拠点がネイティブ方式のISPと接続していた場合、これまでのインターネットVPNと同様に構築した場合でもNGN内で閉じたVPNを構築できる可能性がある。エントリー型のVPNとインターネットVPNの差は限りなく近づくことになる。通信キャリアでなくてもその利用環境によって閉域型のネットワークを構築できるようになるかもしれない。

あるいはNGN網の機能として「認証」と「暗号化」を提供できるようになれば、オンデマンド型のVPNサービスを提供できるようになるかもしれない。

これまでのフレッツ網ではPPPoEのセッションをベースとしたVPNサービスだ。しかしIPv6網では必ずしもPPPoEのセッションを利用する必要はない。網とHGWとの間で認証と暗号化が行うことが可能になれば、ルーティングをベースとしたVPNサービスが提供することもできるだろう。常にセッションが張られているのではなく、その都度、不特定多数の相手にVPNを貼ることができる。

あるいはNGNのポテンシャルを考えると、こうしたVPNに対しても帯域保証のようなことも可能になるかもしれない。これまでのフレッツ網を利用したデータ通信はベストエフォード型だ。コストパフォーマンスに優れているとは、遅延やゆらぎという問題を抱えざろうえない。

NGNでは、ひかり電話やひかりTVの放送サービスなどでQOSを利用して帯域を保証している。こうした機能は常時接続型のVPNではコスト的にも利用しにくいかもしれないが、オンデマンド型のVPNであれば提供できるかもしれない。そうなればIP-VPNや広域イーサといった上位サービスとの品質差は小さくなるし、クラウドの基盤としての利用価値もでてくるだろう。

いずれにしろNGNとIPv6を前提としたネットワークの登場は、これまでのネットワークサービスのあり方も変えていくのかもしれない。


IPv6マルチプレフィックス問題で露呈するNGNの限界 - ビールを飲みながら考えてみた…

NGNIPv6接続問題、ネイティブ接続事業者(代表ISP)がIX3社になった理由 - ビールを飲みながら考えてみた…

NGNは「ガラパゴス」以前に「無人島」 - ビールを飲みながら考えてみた…




コメントを投稿