ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「つめたく冷えた月」と「イノセント・ワールド」

2005年03月21日 | 映画♪
正確に言うとリュック・ベッソンの作品ではないのだけれど、その名につられてビデオを借りて、で、「グランブルー完全版」よりもはまった作品。経済原則だけで調達し「映画への愛」を感じられない近所のレンタルビデオ屋で何故か「つめたく冷えた月」のDVDが…やるな、ビデオ屋。フランスの中堅俳優パトリック・ブシテーが監督、原作はチャールズ・ブコウスキー。「屍姦」をモチーフにした作品だ。

デデ(パトリック・ブシテー)は40歳になろうというのに、未だに定職にもつかず、妹夫婦の家に転がり込み、ジミヘンの音楽をかけまくっては、シモン(ジャン・フランソワ・ステヴナン)とともに刹那的な生活を送っていた。シモンは夜勤で市場の仕事についてはいるものの、昼間はテデとつるんで車を乗り回し、酔っ払ってばかり。女見ればやることばかりを考え、酔っ払いをからかい、欲しいものはかっぱらい、その日暮らしを楽しんでいる。
そんなある日、健気に暮らすシモンの母親の前でとったテデの態度に、シモンは憤りと不安を覚えるのだった。




昔はアメリカの青春小説が好きだった。「バナナフィッシュ」や「グレート・ギャツビー」「ブライト・ライツ・ビックシティ」「レス・ザン・ゼロ」、映画でいくなら「ストレンジャー・ザン・パラダイス」をはじめとしたジム・ジャームッシュの作品や「リアリティ・バイツ」など。この映画は2人の中年男が主人公なわけだけれど、同じような雰囲気というかそういったものを感じ取っていたのだと思う。

彼らはジミヘンのギターに熱狂し、おちゃらけ、酒に溺れ、その刹那を楽しんではいるが、そこには大きな希望も実現するための夢もない。彼らをまともに相手にしてくれる女などいるはずもない。だからこそシモンは美しく、しかも自分を拒むこともない「死体」に恋をしたのだろう。本来であれば「不浄」なはずの死体がその時から「神聖」な存在としてシモンには意識されたのだろう。

アメリカの青春小説のモチーフとしてとして、「無垢なる世界への郷愁」というのがある。理想通りにはいかない汚れた現実の中で、うまく適応できず、自分の中に眠る「無垢なる自分」「無垢だった頃」が呼び起こされる――例えばそれが、「ライ麦畑」だったり「トーストの匂い」だったりしながら。この映画では、美しき「死体」の中に汚れてしまう前の「無垢なる世界」をシモンは感じていたのではないか。単純に美しい「死体」に恋をしたというのではなく、そこに(汚れてしまった)彼を受け入れてくれる絶対的な存在、(守るべき)汚れなき世界を感じ取ったと見るべきだろう。

だからこそ彼はデデに任せることなく、死体を海に還したのではないか。

回想シーン。「人魚」との出会いまでは、その刹那的な行動はデデよりもシモンの方が過激であった。しかしその後のシーンではデデが相変わらず刹那的であるのに対してシモンはどこか抑制的だ。

その後もシモンはデデとつるみつつも、そこにいるのはかってのようにただ刹那を喜ぶだけのシモンではない。同じように楽しみながらも、どこかでテデへの憤りを感じ、あるいは母親の前でそうであったように1市民としての生活への憧れをもっている。馬鹿を繰り返しながらも、どこかで最後まで乗り切れていない。

「屍姦」したことを話題にすることに対しても、デデがただのネタとしてしか捉えていないのに、シモンは羞恥心からというよりは汚されたくないものとして、徹底的に避けようとする。その姿に僕はアメリカの青春小説と同じものを感じたのだろう。

失われてしまった「イノセント・ワールド」。

久々に見たこの映画に対して、あの頃のような共感や感慨を覚えることなく見てしまった。振り返る余裕もなくただ過ぎていく日常の中で、僕自身、「イノセント・ワールド」への郷愁さえも失ってしまったのかもしれない。


【評価】
総合:★★★★☆
まとまり度:★★★★★
リュック・ベッソン度:★☆☆☆☆


【お薦め】
こんな映画誰が観るんだろうと思って検索したら、こんなブログが。お薦めです。
かいじゅうたちのいるところ:『つめたく冷えた月』


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映画評「グラン・ブルー」

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「ストレンジャー・ザン・パラダイス」
ストレンジャー・ザン・パラダイス(’84米/西独)






2 コメント

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「つめたく冷えた月」 (ヨウヨウ)
2005-05-07 10:58:22
トラックバックありがとうございました~!

す、すみません。実は3月からずっとblogをお休みしていてすっかり間の空いたマヌケなコメントになってしまいまって。ゴメンナサイ。



【お薦め】なんてしていただいて恐縮デス~(テレ)

でもホント(こんな映画誰が観るんだろう)ですね。

うわっつらは確かにヒドイんですけど、おっしゃるとおりだなぁ~…と、こちらを読んでさらに感動を覚えちゃいました。



「無垢なる世界への郷愁」の考察に納得&脱帽です。



いい映画だから観て感じて欲しいですよね~

ではでは~



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初めまして (元卓球部裏部長)
2005-07-22 03:50:06
いきなりこんな古い記事にトラックバックしてすいません。

検索したら一番上に出てきたので。



「つめたい冷えた月」に対して僕なりに解釈をしてみました。

稚拙な文章で、まとまりも無いのですが、もし読んでいただけたら幸いです。
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