すちゃらかな日常 松岡美樹

積極財政などの政治経済をすちゃらかな視点で見ます。ワクチン後遺症など社会問題やメディア論、サッカー、音楽ネタも。

人生をスルーした人々

2007-08-09 07:34:00 | エッセイ
 休暇で沖縄の離島に行き、不思議な人たちと出会った。彼らは決まって20代で、本州など沖縄以外の土地から移住してきている。仕事は現地ツアーのガイドや民宿の従業員など。島での雇用はもっぱら観光産業しかないからだ。

 彼らはなぜ20代の若さでこんな南の果てへ来たのか? 興味をもち、何人かに話を聞いてみた。神戸から移住し、ホテルで働く女性は「ここなら何もないと思ったから」と言う。なんと私がこの離島へ遊びに来たのと同じ理由だった。

 だけど彼女は旅行じゃない。移住だ。「何もないから移り住んだ」というのは、ある意味ふつうじゃない。なんだか老子みたいに人生を達観したような感じなのだ。

 しばらくあれこれ話してみた。すると本人は決して触れないけれど、自分の人生でかなりヘビーな体験をしたようだった。で、突き抜けてここへ来たというのが真相らしい。

 またトレッキングツアーのガイドをやってる岐阜出身の男性に「なぜ来たのか?」と聞くと、「岐阜って海がないんすよねぇ」と笑う。

 まあ冗談なのだが、このジョークは相手を笑わせようっていうんじゃなく、明らかに言わなきゃいけなくなることを言わずにすませるために発したものだ。やはり何かがあったのだろう。

 基本的に彼は笑顔が多いのだが、ふとした瞬間にとても厳しい顔つきになる。そのときの目は、平々凡々と生きてる人の目じゃなかった。船に乗るクルージングツアーでガイドをしている移住者の女性も、そういえば同じ目をしていた。

 ほかにも何人かに話を聞いたが、似たような人はかなりいるらしい。まだ20代なのにご隠居さんみたいに人生を降りてる感じ。スルーしているのだ。島そのものが尼寺というか。大量の若い人たちがこんなふうに降りているのは、かなりショッキングだった。

 いわゆる上昇志向がなく、何かを目指したりもしない。たぶん彼らは旧来の価値観でいえば、負け組とか下流とかにカテゴライズされる人たちだろう。

 だけど果たして彼らは「負けた」のだろうか? いや、これは人生のリターンマッチだ。

 いったんは何かをなくし、あるいはなくす以前にまだ何者でもない自分を抱え、人生という名のジグソーパズルでどうしても見つからなかった最後のワンピースが「カチッ」と音を立ててハマった人たち。

 新自由主義的な政策がこのまま続けば、今後ますますアメリカみたいにリッチな層とプア層との二極化が進むはずだ。だけどいわゆる「負け組」に占める「負けたと思ってない人たち」の比率もまた高くなるんだろうな、きっと。

【関連エントリ】

『自分探しシンドロームを超えろ』

『自分探しに疲れたあなたに贈る処方箋』

『「答え」を振りかざしたオウム。そしてほりえもんさん』

(追記)クロスワードパズルをジグソーパズルにかえた(2007-8/9)

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