真っ当な負け方と云うのは、下手をすると勝つよりも難しい。私が知る限り、それを首尾よく成し遂げたのは勝海舟ただ一人である。歴史を掘り起こせば後腐れなく負ける事で混乱を最小限に抑え込んだ知恵者が見つかるのかも知れないが、敗者の言い分は残らないのも歴史である。そう云う意味で、JOC会長の後任は難儀である。五輪開催を表立っては一寸も譲らず、且つ水面下では中止や延期も含めたあらゆるオプションを模索しなくてはならない。敗色濃厚となれば被害をなるべく抑える形で、総大将として首を差し出さねばならない立場である。そんな侠気ある人がJOCに居るのかは分からないし、何より負け戦を前提にすると怒られそうではある。戦局悪化の一途でも総員奮起し乾坤一擲を目指せ、と云う悲壮な覚悟も嫌いではないが、それで負け方を誤った実例なら幾つか知っている。どうせ一敗地に塗れるのなら、せめて水際立った潔さを見せられる方にお任せしたいのである。