3/6 あれはいつだった? 第 46話
直子は旭も父親と同じだと思っていた。
比べているわけではない。
でも、旭を盲目的に信頼していたし、自分の欲しいものは
旭に頼むのが当然だと思っていた。
だから旭が拒否すると面喰い、傷ついた。
だってパパは・・・と言いかけて
旭は父ではなかったと思いだすのだった。
アホみたい話だったけど
直子は自分の”発見”にショックを受けた。
旭もあれはなんだ?と考えていた。
あいつ、だってパパはって言った。
俺のことパパだと思っていた?
そういうことが2度かあって旭はある日切り出した。
直子はパパのこと大好きなんだよね?
うんっとニコっとしてうなづいた。
どうしてそんなにパパが好き?
ちょっと考えていたけど
パパはね、直になんでもやらせてくれて
パパがノンって言ったことないの。
ママもそうだけど、パパはなんでも買ってくれた。
頼まなくても、直の好きなものや欲しいものわかったし。
直が何か悩んでいると、散歩に連れて行ってくれて
どうかしたって聞いて、
直が話しやすいようにしてくれたわ。
誰にも内緒って言うとママにも言わなかった。
しかし、実際はパパは何でもママに報告した。
ママが口が固かったのだ。
それどころか、ママはパパに直に話を聞いてきて
と、パパを直子に送った。
そんな事実を知ったら直子は怒りくるったかもしれない。
旭はそんな家庭の詳細はは知らなったけど
直子が両親に愛されていたのはよくわかった。
そんな母親に直子と町を歩いていたとき
偶然出会ったのだ。
直子はちょっとバツわすそうにしていたけど
東山さんと母親に紹介した。
直子の母は小柄でふっくらしていて
いかにも母親って感じの人だった。
旭も初めて親に紹介されて上がりまくっていた。
頭が真っ白で何を言ったか思い出せない。
何度目かに名刺を渡したかもしれないことを思いだした。
直子を殺したあとのことだ。
どの名刺だったろう?
旭に緊張が走った。
それまで以上に外出に慎重になった。
自身のマンションにもう人は呼ばなかった。
昔、実家でよくやったバーベキューパーティーもやろうとしなかった。
海外支店はないかな?
と、それとなく見たけど旭はすでに重役で海外に飛ばされる
可能性はなかった。
旭は退職することを考えた。
自営で何かやるというなら旭の父親も納得するかもしれない。
ただリスクはある。
それならうちに来て、祖父の会社を継げと言われるかもしれない。
しかし、祖父の会社に入れば将来は社長役が待っている。
メディアに顔が出る機会も増える。
話はグルグルめぐりし、再び旭の体に負担をかけていった。
その日はよく晴れていた。
客と会い、直帰には早すぎるし、会社にこのまま戻るのも
気が進まなくて、ブラブラと銀座の大通りを歩いていた。
突然、あの東山さんでは? と声をかけられた。
それは知らない年配の女性だった。
思い出した。
あの時もこの辺で会ったっけ。
はい、そうですがと見知らぬ人を見ているような顔で答えた。
あの、直子の母です
ああ、直子さんの。
実は直子が行方不明でと話し始めた。
旭は直子の母を日陰に導いて言った。
そうでしたか!
直子さんにはふられましてね、もうずっと会っていないのですよ。
まあ、あの子ったら、こんないい方を・・・・
と、娘の愚痴になっていく。