3/23-24 あれはいつだった? 第 59話
直子のいなくなった大きな広間で床に置いた大きなクッションに座り
旭は窓から外を眺めた。そしてボンヤリと直子と過ごした平和な日々を
思い返していた。
ダメよ、殺すなんて 直子が言った。
ニュースで強盗に入った2人組が家人を結局殺してしまったという
のを見たときだった。
ダメよ、殺すなんて。 死んでしまったらもう治せないのよ。
直子は真剣に言った。
まあ、確かにと旭は答えたけど、直子が窓から入ってきたハエを表に出すのを
思いだした。
直ちゃんはハエも助ちゃんだからと思いだしながら言った。
ハエって人間の言葉がわかるような気がするの。
助けてやれば覚えているんじゃないかと思って。
それからどうすんだい? ハエに何かしてもらいたいの?
別に代償は求めないわ。
人間は虫よりずっと多くのものを持っているわ。
こんなところに入りこむより外のほうが長く生き延びれるわ。
直ちゃん、直子のスベスベの体を抱きしめて
優しい子ね、直ちゃんはと言いながら直子の中に入った。
直子を思い出しつつ横になろうとしたとき、
大きなハエが頭の上をよぎった。
旭はハエを見直した。
あの時のハエに似ている。
でもハエなんかどれも同じだと思ったけど
やっぱりあのハエに見えた。
旭は直子はもういなんだとハエに言った。
ハエは旭の前でホバリングしていた。
もう直子はいないんだ、死んでしまった と繰り返したとき
ハエは旭の上を大きくグルっとまわって、大広間のあちこちを飛んでから
開いた窓から飛び出して行った。
ヘ! わかった?
わかったみたいに旭には思えた。
涙が頬を流れた。
自首しようと立ち上がったとき、電話が鳴った。
社長、それは秘書の声だった。
自首はその日にはできなかった。