3/27-28 あれはいつだった? 第63話
直ちゃん、僕と暮らさない? 直ちゃんが他の男と会いたいときは
会っていいからサ・・・・・
暮らすってあのマンションで?
直ちゃんが決心したら、もう仕事関係は一切呼ばないから。
直子の眉がよった。
親も来ない。 来ないようにするから。
直子の迷う顔を見て、約束するよ、直子!
ちょっと考える。
ちょっとってどのくらい?
直子はため息をついて、ちょっとよと面倒くさいふうに言った。
この頃、旭はまだ直子が自分を好きか確信できなかった。
それは直子がマンションに戻ってきたとき
自分を近づけない強力な仕切りを体中から発していることがあったから。
直子も近づいて来なかった。
夜、ひとつのベッドに入って直子を抱くと抱かれてはくれたけど
心がそこにないことは明らかだった。
あげくに大粒の涙を流した。
そして信じがたいけど、xxxに会いたいとか○○がほしいとか
別な男の名前が口にのぼった。
旭は直子がxxxをとか○○を連れてきてとか自分に言うのではないか
と緊張した。
俺ってなんなんだろう?
直子を抱きながら旭は思った。
それでも旭は直子をきつく責めたり、別れると切り出す勇気はなかった。
子供のわがままと思いたかった。
それほど旭は直子が好きだった。
旭のオフィスは都会のど真ん中にあった。
その日は自社の支店に行った。
東京の本社はいかにも大企業の雰囲気だったけど
郊外の支店は零細企業風のところもあった。
やるべきことが終わって、のろのろ歩いていると、駐車場への道に雑貨屋を見つけた。
前からあった?と思いながら初めて店を見た。
小さい店先にはカゴとかタライとかいろんなものが下がっていた。
何気なく薄暗い店の中を見たとき足が止まった。
中に入るとそれを手に取った。
それは30cmくらいの細い皮を数本をまとめた鞭だった。
旭はそれを持って、レジに行った。
金を払って表にでてくると
自分のカバンの奥にそれを突っ込んで書類の下に入れた。
店主は何も言わなかった。
旭はなぜかルンルン気分だった。
勝利者になった気分だった。
旭が帰宅すると直が子犬みたいに飛びついてきた。
直は今日は何やってたのと聞くと
直子は奥さんと答えた。
家の中にはいい匂いがしていた。
ごちそうでも作ったの?
ニコニコして直子がうなづいた。
旭の着替えを手伝い、洗面所で手を洗っている間も
直子はドア前でたわいもないおしゃべりをしていた。
すごくご機嫌じゃない? 何かあった?
あとで見せるねと応えが返ってきた。
ああ、何か買ったんだと旭は思った。
直子はネットでよく買いものをした。
気に入ったときはいいのだが、気に入らないときは
旭に返品作業をやらせた。
ごちそうとは程遠いけどテーブルには2種類のチャーハンや
冷凍の餃子と見たことのないもう一皿の餃子と
直子が唯一自信をもって作れるサラダがあった。
この餃子今日ついたの。 京都のよ。
この間、アキラに教わったの。 ああ、別なアキラね。
すごくおいしいのよ。
旭は別な男の名前が直子の口から出ることにもう慣れっこだった。
同級生くらいに思うことにしている。
直子が寝室に行ってしまってから、旭は鞭を思い出した。
これをどこに置こうか? と周りを見渡した。
それからいろんな造花の生けてある大きなクリスタルの花瓶をみた。
そして正面から見えない後ろ側の花の間に入れた。
金曜日の夜まで何事もなく過ぎた。
直子は機嫌よく旭の奥さんをやっていた。
土曜日、旭は直子を連れて大きなフランスのスーパーに買い物に出た。
昼食は外で済ませ、午後は疲れたのか直子は昼寝をした。
4時ごろ直子は寝ざめた。
鞭購入日以来、直子はいい子で鞭を使う口実はなかった。
旭がアイスクリーム食べる?と聞くと寝ぼけたままの顔で
直子がうなづいた。
旭はガラスの器にバニラとストロベリーのアイスを盛って直子に渡した。
旭はチョコレートだけ盛った。
直子は食べるのに夢中だった。
旭は一サジチョコアイスをすくうと直子の口に持って行った。
おいしい と直子が言った。
直子はチョコレートのアイスはそんなに好きじゃなかった。
直子は風呂から上がると買ったばかりの白い前開きのガウンを着ていた。
すごく似合ってる、直ちゃん
旭はうれしそうに言った。
直子は前ボタンの下のほうを外して旭のひざに乗ってきた。
こうしないと足が開かないの
と直子が言った。
何も着ないでいいんだよ、直と旭がささやいた。
これ着たいんだもん。
と直子が旭の頬に口をつけたまま言った。