時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

プレ書評 白宗元『検証 朝鮮戦争』

2014-12-07 00:35:06 | 反共左翼
-‐追記-‐

筆者はこの「プレ」書評を書いた時点では白氏の著作を手に入れていない。
近々、古本が届くはずなので、その後、気合いを入れて一気読みして、
改めて本格的な記事を書くつもりだが、今回は朝鮮新報の白氏の投稿記事と
和田春樹氏の『これだけは知っておきたい 日本と朝鮮の100年史』を参考に、
朝鮮戦争をめぐる言説について文句を書いている。

‐‐追記終わり--


言論で見られる右翼の特徴として「現実無視」がある。

先の安倍の「雇用が増えて賃金も上がった」という戯言もそうだが、
歴史問題にしても、既に史実が実証されているのに証拠がないと言い張っている。


ただ、この「現実無視」というものは、何も右翼に限った話ではなく、
特定の問題に対する左翼の姿勢にも通じるものじゃないかと思う。


福岡弁護士会の書評コーナー
「検証 朝鮮戦争」
http://www.fben.jp/bookcolumn/2014/03/post_3908.html

------------------------------------------------------
この本は1950年6月25日、韓国軍が攻撃を開始し北進したのが
朝鮮戦争の始まりだとしています。明らかに歴史的事実に反します。

ただ、そのことを除けば、朝鮮戦争の前夜の状況を詳しく紹介していて、なるほどと思わせます。

~中略~

北朝鮮の金正恩の暴走は心配ですが、日本人も考えるべきことは多々あります。
決して他人事(ひとごと)ではありません。

------------------------------------------------------

朝鮮戦争の歴史書として有名なものとして次のものが挙げられる。

・ブルース・カミングス『朝鮮戦争の起源』

・ギャバン・マコーマック『侵略の舞台裏』

・和田春樹氏の『朝鮮戦争』


前者2冊はアメリカの戦争責任にも言及した良書なのだが、
冷戦時代に書かれた本ということもあり、古い情報をもとに書かれている。



冷戦が終結し、ほぼ全ての左翼が転向し、反共主義に陥ったのだが、
カミングスとマコーマックも例にもれず、その後の著作では
「最初の勢いはどこへやら」と思わざるを得ない論を展開している。

--追記-‐

昨日、大型書店へ行き、カミングスの最新作を買ってきたが、
今までのカミングスへの評価は改めなければならないと思った。

非常に面白く、読み応えがある。

----------


恐らく、福岡在住であろうレビュアーの方は
きちんと先行研究を読んだ上で、同書を読んでいるのだと思う。


だが、『明らかに反する』というと、やや疑問が残る。


-------------------------------------------------------
戦争勃発を伝える情報として重要なのは現地駐在大使の報告である。

南朝鮮駐在米国大使ムチオの1950年6月25日早朝の開戦に関する緊急第一報は、
「その一部が確認されているところの韓国軍報告によれば、
北朝鮮軍が今朝韓国に侵入した」というものであった。

すなわち、開戦情報は南朝鮮軍によるもので、
米国軍事顧問団も米国大使館も事態を確認したものではない。

そもそも「韓国軍の報告」自体がどの程度信頼できるものなのか問題であるが、
それすらも「一部の確認」といった極めて曖昧な内容になっている。

米国政府はこのような不確かな情報を確認する措置を何一つ取らず、
まるで待っていたかのように直ちに戦争介入の行動を取った。

ムチオの開戦第一報が国務省に届くのは、
米国東部標準時間で6月24日午後9時30分であるが、
大統領の指示で国連米国代理代表グロスが
国連事務総長トルクブ・リを訪ねるのは翌25日の早暁3時である。


草木も眠る丑三つ時という異常な時刻に事務総長を
叩き起こしたグロスは「米国の緊急要請」だとして安保理事会の招集を性急に要求した。

安保理は即刻招集され、6月25日には常任理事国のソ連の参加なしに
国連憲章に違反した不法な「北朝鮮侵略者」決議が採択された。


安保理には紛争を平和的に解決するために、
当事者双方を国連に招請して事情を聞く規定がある。

安保理は当然、朝鮮民主主義人民共和国の代表を
招請しその言い分を聞くべきである。しかし米国の反対で、
6月25日の安保理には南側代表だけが呼ばれて北側非難の演説をし、
北側代表は参加させない不公平が公然と行われた。

http://chosonsinbo.com/jp/2012/07/0705mh-3/

-------------------------------------------------------

和田春樹氏はスターリンとキム・イルソンとの電報を通して、
スターリンが開戦を許可したので戦争を起こしたと主張している。

確かに資料ではそうなっているので、キム・イルソンが
どのみち、北朝鮮が開戦に向けて準備していたのは確実だと思う。


だが、和田氏は肝心の開戦時の状況の検討が疎かになっていて、
「キム・イルソンがヤル気だったから、攻撃を仕掛けたのは北朝鮮なのだ」
というちょっと雑じゃないかなと思わせる内容になっている。


もちろん、これが今の朝鮮戦争研究の最先端だと言われれば、
「はい、そうですか」と言わざるを得ないのだが、白宋元氏が
述べるように、開戦情報は南朝鮮軍によるものであり、
また異常とも云えるほどの迅速な対応、そして安保理の原則を
破った『北朝鮮侵略説決議』(第一報の翌日に採択された)を知る限り、
最低でも今か今かと米韓が準備して待っていたのは確実だろうし、
ベトナム戦争やイラク戦争のようにアメリカは歴史的に
事件を捏造して開戦する傾向があるので、まだ決定事項と
まではいかないのではと思う。


そういうわけなので、「明らかな間違い」というよりは、
正確には「そういう説もある」程度のものだと思われる。


私としては、和田氏があの悪名高いアジア女性基金の主導者だったこと、
そして白氏が述べたような記述を自著で省略しているあたりから、
どうもこの人は政治的な理由で事実を取捨選択して記述するような気がして、
あくまで同氏の主張は「説の一つ」であり、まだ不確定事項だと思っている。


まぁ、どちらが先かというよりも、この戦争にはベトナム以前からの
アメリカ侵略主義の特徴がよく表れていることが重要で、その点の
指摘が足りないのが、一応アメリカ研究者の自分としては釈然としない。

(ナチス・ドイツによるヨーロッパ侵略の前哨戦であるスペイン戦争を
 スターリン叩きにしか意義を見出さないことにも通じる。

 特に、戦争中、英仏が共に事実上、ナチスを応援したのは、
 戦後の両国の植民地戦争を考えるに非常に重要だと思うのだが)


また、レビュアーの「北朝鮮の金正恩の暴走は心配」という記述も、
近年の北朝鮮の外交スタイルについて無知であることを伺わせる。


端的にいえば、近年の北朝鮮の外交は多極外交であり、
なるべく多くの国と友好関係を結び、経済発展を目指すというものだ。

特に、このレビュアーが書評を書いた今年の春は、
むしろ暴走していたのはアメリカと韓国のほうで、
北朝鮮は逆に対話を促していたのである。

ちなみに、日朝対談が成立したのも、この北朝鮮の軟化が大きな原因になっている。

つぶさに見れば、北朝鮮がジョンウン政権になってから、
スマートというか、前とは違う国づくりをしているのはよくわかるはずなのだが、
いつまで経っても90年代の北朝鮮、つまり国家としてボロボロだった時期を
基準にして語っている。これは非常に問題のある姿勢だと思う。


今の北朝鮮が武力でなく経済力に重きを置いていることは
誰でもわかるはずなのだが、反共左翼は気付かない。

これもまた、反共主義の弊害の一つなのではと思う。