8/26(土)、モーニング娘。主演の「
リボンの騎士 ザ・ミュージカル」夜の部を新宿コマ劇場で観る。
千秋楽前日の夜の公演ということもあり、場内は満員。
劇場の周囲には何度も行っているが、中に入るのは今回が初めて。東京のど真ん中とは思えない広い空間で、
ステージを中心にして座席が扇状に広がっている構造。昔ながらの「昭和の劇場」な雰囲気だった。
傾斜がかなり急なので、後方の座席でも見やすいし、席の前後の間隔も割合余裕がある。
こちらから見てステージ左側の上のほうにバンド(“オーケストラ”ではない)用の一角がある。
正式な編成はわからなかったが、シンセ、ギター、ベース、ドラムス、パーカッションあたりか。
俺の席からはパーカッショニストがよく見えたが、この人はタンバリンを叩いたり、ティンパニを打ったり、
ビブラフォンを鳴らしたりと大活躍。アクションが大きいのもカッコ良かった。
全体の感想をひと言で言うなら、「ああ面白かった」という満足感だ。
無駄にきらびやかで人工的でわかりやすく豪華なものが好きな人には多分たまらないはず。
宝塚がタッチしていることもあり、その影響をたっぷりと受けているのだろう。
構成は二幕。25分の休憩も含め、演目が全部終わると3時間ほどの長丁場。
ただ生の芝居特有のダイナミックなパワーが伝わってくるため、さほど長いという感じはしない。
劇のテーマにあるのは「二つの違った要素がそれぞれ協力し合うことの大切さ」。サファイアがそうであるように、
男と女だったり、隣同士の国だったり。原作やアニメを知っているほうが深く楽しめるとは思うが、
知らなくても大丈夫。チンクは出てこない。
出演者で一番すばらしいと思ったのが、主人公サファイア役の高橋愛。声の輪郭が太いのがいい。
女であり、自覚的に男でもあるサファイアを、実に凛々しく演じている。以前よく見に行ったセーラームーンミュージカルを
例に取って語るとすれば、主役セーラームーンではなく、外部太陽系戦士や、スリーライツ的な影のある演技。
彼女はどちらかというと脇のほうが光るタイプではないかと思うが、危なっかしいところがまったくなく堂々としていた。
敵対する、原作・アニメではハゲ頭のいかにも悪役然としたジュラルミンに当たるヒールの大臣役に吉澤。
「息子を溺愛するあまり何も見えなくなって悪事をしてしまうバカ親」っぷりがよく出ていた。
もうちょい憎々しげであっても良かったかも知れない。
サファイアのライバルでありパートナーとなる隣国の王子フランツに石川。彼女も高橋同様に凛としており、
ある種の傲慢さをたたえた芝居は良かったのだが、歌になった途端に場内をカオスが支配する(笑)。
実に不思議なキャラだった。今公演を最後に
モーニング娘。を卒業(ハロプロには残留)する小川は、
大臣の子分のコメディリリーフ的存在。“軽妙な演技”と評されそうな感じを出していた。
ミュージカル重鎮枠として起用されたと思われる王妃役マルシア&王様・神様役の箙(えびら)かおるは、
またもセラミュでいうとクインベリルやセーラーギャラクシアな大物感を出しまくっていた。
狂言回し的な役目の魔女ヘケート・藤本の歌唱も映えていた。
ストーリーは、若干竜頭蛇尾気味だった気がしなくもないが、手塚治虫・非殺伐路線のマンガゆえ、
「赦し」を重んじた結果ああなるのは仕方ないか。途中で突然重要なキャラになる牢番コンビ(美勇伝の
三好と岡田)の描き方は、もう少しきめ細やかにしたほうが良かった。個人的には、
「自分の息子を王位に就けるため、現在の王を謀殺した悪の大臣一味。自分たちも殺されそうになった
王子サファイアは、正義の炎を秘めた復讐のダークヒーローリボンの騎士に変身、大臣一味に孤独な戦いを挑む。
クライマックスは、城の広間で大臣一味とリボンの騎士が決戦、多勢に無勢で苦戦するリボンの騎士を助けに、
自らも大臣の陰謀で一度はとらわれの身となった隣国の王子フランツや牢番コンビが登場、大激戦の末
大臣を操っていた黒幕魔女ヘケートはみんなの合体技で倒され、我に返った大臣一味もことごとく
捕縛されてめでたしめでたし」的な流れを期待したのだが(笑)、残念ながらリボンの騎士は
ほんのちょっとしか出てこなかった。
ミュージカルという形態は、随所随所に「唐突」な表現があったりして、そういうものだという前提が頭に入っていないと
違和感があったりするかも知れないが、存分に虚構の世界を作り込むには最適だと思う。
そういう意味で、モーニング娘。にはよくマッチしていた。またいい題材を見つけて、楽しい世界をステージに構築してほしい。
セーラームーンミュージカルでこの手のものに慣れていたことがここに来て活きてくるとは思わなかった(笑)。