里の家ファーム

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もやしが消える?

2017年04月08日 | 食・レシピ

         平成29年3月9日

 お 客 様 各 位

 工業組合もやし生産者協会 理 事 長  林  正  二

 「もやし生産者の窮状について」

  拝啓 早春の候、貴社ますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。 また、平素は格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。

  当組合は、日本で最大数のもやし生産者を擁する認可団体です。 このたび、標記の件につきまして、別紙「もやし生産者の窮状にご理解を!」を送付いたします ので、ご理解とご高配を賜りますようお願い申し上げます。

  もやしは食卓になくてはならない野菜です。 私共もやし生産者は、安全・安心な商品を消費者の皆様にお届けすることが使命であります。 今後も全国の消費者様への安定供給を維持するために、別紙のとおりの非常に深刻なもやし生産 者の現実・経営環境等にご理解とご高配を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

 もやし生産者の窮状にご理解を!

 もやし生産者は、長年に渡り原料種子高騰や賃金上昇などに対応し続けたことにより体力を消耗しきっております。これ以上の経費削減への努力はすでに限界を超え、健全な経営ができていない状況です。日本の食卓に欠かせない「もやし」をこれからも安定してお届けしていくため に、もやし生産者の窮状にご理解を賜り「適正価格」でのお取引を心よりお願い申し上げます。

  現在のもやしの販売価格は約 40 年前(1977 年平均価格「総務省家計調査」より)の価格よりも安 く、一方、原料種子や人件費などの生産コストは高騰し続けています。さらに過去最悪となるこのたびの原料種子高騰は収穫期に降雨があったために品質が悪化し、日本のもやしに適した高品質な 原料種子の収穫量が激減したことによります。原料種子の品質はもやし生産に大きな影響を与え、 育成不良による歩留の悪化がより一層経営を圧迫する状況です。

  2009 年には全国で 230 社以上あった生産者は 100 社以上廃業し、現時点では 130 社を切っていま す。さらにこの状況を前に廃業やむなしと判断する生産者情報も少なくありません。 このままでは日本の食卓から「もやし」が消えてしまうかもしれません。非常に深刻なもやし生 産者の窮状にご理解とご高配を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

 ------------------------------------------------------------工業組合もやし生産者協会

 

「もやし」が一大事!悲鳴をあげる生産者

岐路に立つもやし(後篇)

2015.01.23(Fri) 漆原 次郎

  和洋中どんな料理とも相性のよい万能野菜、「もやし」の日本における歴史と現状を前後篇でたどっている。

 前篇では、江戸時代、温泉地などで局所的に作られ食べられていたもやしが、近現代の戦争を機に全国に広まっていったという歴史を紹介した。

 そもそも、もやしという食材は、どんな原料からどのように製造されているのか。食品製造工程の“清潔さ”が過度なまでに求められている昨今、どのような品質管理がなされているのか。こうしたテーマを抱きつつ、もやし・カット野菜を製造販売する旭物産(茨城県水戸市)のもやし工場を訪ねてみた。

 折しも、もやしはニュースにもなっている。2014年12月、「もやし生産者、限界」などの見出しが新聞各紙に踊った。いま、もやしに何が起きているのだろうか。

もやしの原料豆「緑豆」は中国から

 2014年末の取材日、旭物産の林正二社長らがJR友部駅で出迎えてくれた。「最近はスーパーも元旦営業。冬休みはありません」と車中で林氏が話す。

同社3拠点のうち、取材した小美玉工場(茨城県小美玉市)は、もやしの生産をメインとする工場だ。2010年に建てられ、1日60トン、30万袋のもやし生産能力をもつ。東日本大震災では停電で操業停止し、2週間ほど出荷できなくなる経験もした。

 工場長の阿部能高氏も加わり、製造工程を見せてもらう。50メートルプールの室内を一回り大きくしたほどの原料倉庫に、50キログラムの原料豆「緑豆」が入った袋がうずたかく積まれている。

 もやしの原料豆の9割を占めているのが、緑豆だ。そのほぼ100%が中国から輸入されている。林氏によると、日本のもやしとなる緑豆の主産地は吉林省または内蒙古の平原地帯。「ただし、私どもは陝西省の緑豆を輸入しています。もやしとしての日持ちがよく、しゃきしゃき感がなかなか失われないためです。1~2割ほど割高になりますが」と補足する。寒暖差があることが豆栽培に適した環境だという。

 残る原料豆のうち、「ブラックマッペ」とも呼ばれ皮の黒い「毛蔓小豆」はミャンマー、「小豆」は北海道が主産地だ。

現代のもやし製造工程を見る

 生産ラインの置かれる棟に移動する。研究施設のクリーンルーム同様、白衣に帽子を着用し、エアシャワーを浴びてから棟内に入る。

 工程のスタートは、緑豆の投入からだ。原料豆が洗浄殺菌されていく。

 その後、原料豆をぬるま湯に浸して、シートを被せてしばらく寝かせ発芽を促す。「カビが発生するのと似た温度・湿度の生育条件なので、雑菌が大敵です」(阿部氏)。

 寝かし終えた原料豆を、大きな風呂桶をさらに深くしたようなタンクに入れていく。1つのタンクに原料豆およそ100キロを入れる。これを適度に保温・保湿された「室(むろ)」と呼ばれる部屋に置き、8~9日間かけて発芽させ、もやしにしていく。室の奥には、散水用パイプがあり、これが随時、手前に移動しながら水を与えていく。

「植物ですからね。それとともに水で熱を抑制してやる必要もあります」(阿部氏)。原料豆は、発芽時の呼吸で「発芽熱」を発する。タンクに密集した原料豆に熱がこもりすぎると「煮豆状態」になり、もやしにならなくなる。そこで、強圧の水を繰り返し与えていくのだ。

 タンク1槽およそ100キロの原料豆は、水を得て育ち1トン強のもやしになる。原料豆にとってタンク内は窮屈そうにも思えるが、それでも上層と下層で背丈の違いなどは生じず育っていく。

 もやしの詰まったタンクは、室から出されて洗浄ラインへ運ばれる。「反転機」がタンクごと逆さまにして、ぎっしりのもやしをライン上に解き放つ。

その後、もやしはラインに沿って移動し、洗浄、殻取り、根取りなどの工程を経て、商品らしい姿になっていく。これら一連の工程で使われているのは「振動」だ。ラインの各所で、機械が一定量のもやしをゆっさゆっさと震わせている。これで、もやしは移動していくし、もやしに付いていた豆の殻も外れていく。

 以前は水洗いで殻を取っていたが、もやしが折れてしまいやすかった。また、水に触れさせることは日持ちにもマイナスとなる。そこで同社は振動するラインを導入。「日持ちのよさと、折れ率の低さが、私どものもやしの特徴です」と林氏は言う。

 さらに、作業者が目視で不良品が混じっていないかなどを検品。重量も測定される。その後、袋詰めされて、作業者による最終確認がなされ、トラックで出荷され関東一円のスーパーなどに届けられる。

 手作業工程もあるが、全体としてはコンピュータと機械による自動化がなされている。室温や湿度、それにもやしの温度などは随時モニタリングされ、育成制御装置で管理されている。かつては、手動による温度・湿度管理が行われていたが、腐ることとの戦いだったという。ただし、「同様のシステムを導入しているメーカーは限られている」(林氏)という。

悲鳴を上げるもやし生産者たち

 同社も組合員となっている「もやし生産者協会」は2014年12月、全国のスーパーマーケットなどに「もやし原料種子の高騰について」という文書を送付した。「もやし生産者が仕入れる2014年産の『緑豆』の価格は、 10年前と比較して約3倍、前年比では40~50%増と大幅に上昇することが予想されます」と、もやし生産者の“窮状”を訴えたのだ。

 林氏は同協会の理事長でもある。「緑豆自体は日本を含め世界中で栽培が可能です。ただし、もやしに適する緑豆となると、現状では中国に限られます」

 中国で緑豆の価格が高騰する背景に、農業の変容がある。現地の農家たちはもやし向けの緑豆より高い価格で売れる高粱(カオリャン)やとうもろこしなどを栽培するようになり、その分、緑豆の作付面積は減った。2014年は、収穫期の天候不順や円安なども、緑豆の価格高騰に追い打ちをかけた。

 つい、原料価格が高騰するなら、スーパーにもやしを高値で卸せばよいのでは思ってしまうが、そう簡単ではないようだ。

 「われわれ生産者はスーパーにもやしを売っていただいている立場です。スーパーは他店との競合から一円でも安くもやしを売り続けようとするでしょう。スーパーにもこの危機的状況をご理解いただいて適正価格での販売をお願いしているのですが、各スーパーも他店との競争の中で安く売らざるを得ないのが現実です」(林氏)

 緑豆の値上げにかかわらず、スーパーなどはむしろもやしの小売価格を下げている。客寄せの目玉商品と化しているのだろう。

 「20年前は1袋40円ほどでした。いま、平均29円ほどですが、40円にしていただければ、日本のもやし生産者はなんとか生きていけると思います。消費者のみなさんにもこの点のご理解とご支援をお願いしたいと思います」(林氏)

 同協会には、中国産のもやし向け緑豆を、栽培コストのより安いミャンマーで栽培して、同質の原料豆を収穫できるかなどを検討していく予定もあるという。生産者の窮状打開への模索が続く。

もやしの真価を見つめ直そう

 江戸時代から近現代に時代が移り、もやしは日本に広がった。さらに戦後、日本人の食の多様化が進む中で、どんな料理とも相性のよいもやしの価値は、高まっていったと言えるだろう。

 そんなもやしに訪れた危機

 旭物産では、わりと高い値で売られる、野菜ミックスもやしなどの商品に力を入れていくという。だが、もやしという食材自体の収益改善が図られるわけではない。もやしのみを製造するメーカーなどは廃業を余儀なくされていく。「もやし生産者は激減しています。この5年間でも、208社から148社まで減りました」(林氏)。

 業界の構造的問題であるため、消費者ができることはそう多くない。だが、いま、もやしの真価を見つめなおすことはできる。豆からは想像できない食感と風味。どんな料理とも調和し、栄養価も高い。そして手頃な値段。

 身近すぎる食材ゆえに見過ごされがちだったもやしへの関心が高まるとき、日本のもやしの行く末にほのかな光明が差してくるのではないだろうか。