日刊ゲンダイDIGITAL2020/04/08
「時間の猶予はないとの結論に至った。国民生活に甚大な影響を及ぼすと判断した」「人と人の接触を8割削減できれば、2週間後には感染者を減少に転じさせることができる」
新型コロナウイルスの感染者急増を受け、安倍首相は7日夜、東京や神奈川、埼玉、千葉、大阪など7都府県を対象とする緊急事態宣言を発令した。宣言は改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づくもので、発令は2012年の同法成立後初めて。7都府県知事の権限が強化され、外出自粛要請などに加え、医療機関開設のための土地の強制使用など一定の私権制限が可能になる。期間は5月6日までの1カ月間だ。
宣言は①国民の生命と健康に著しく重大な被害を与える恐れ②全国的かつ急速な蔓延により国民生活・経済に甚大な影響を及ぼす恐れ――の2つが要件で、7日午前中に開かれた感染症の専門家らでつくる「基本的対処方針等諮問委員会」がこの要件を満たすと判断。これを受け、安倍は、改正特措法採決時に付帯決議で求めた衆参両院の議運委で宣言について事前報告し、質疑を行った。衆院議運委で安倍は「国民生活・経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある事態が発生したと判断した」「国民に社会機能維持のための事業継続をお願いしつつ、可能な限りの外出自粛などに全面的に協力いただきたい」と説明。立憲民主党の枝野代表や国民民主党の玉木代表らは、宣言に至った理由や自粛対象の事業者、会社員らの休業補償に対する政府の考え方をただした。
■真面目な国民が翻弄されている
特措法で首相の「必要な指示」を受ける「指定公共機関」に明記されたNHKは、昼過ぎに衆参両院の議運委で行われた質疑や夜の会見を生中継。他の民放番組も特番で「緊急事態宣言を発令」などと大騒ぎ。明日から世界が変わるような報じ方をしていたが、休業要請の対象はあくまでクラスター(感染集団)の発生が疑われるナイトクラブ、百貨店や大学、劇場など。病院やスーパーマーケット、公共交通機関、金融機関など生活に必要な施設やインフラは通常通りの営業だから、今の生活風景と大きく異なることは何もない。
それなのに安倍政権が仰々しく「緊急事態宣言」を“演出”した背景にあるのは、いつもの「やっているフリ」だろう。目的は決まっている。これまでの後手後手の対応を覆い隠すためだ。
中国・武漢を感染源とする新型コロナウイルスの存在が日本で大きく報じられ始めたのは今年1月初め。その後、都内の屋形船でも感染者が見つかり、横浜港に着岸した大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」では乗員乗客の集団感染が問題となった。それなのに安倍政権は「水際対策は万全」と繰り返し、年間を通じて訪日中国人観光客が最も多くなる春節でも入国制限しなかったのだ。もっと早い段階で、感染症の専門医らが求めていたPCR検査の体制を拡充するなどの感染防止策に取り組んでいれば、少なくとも今のような状況は避けられた可能性は高い。
不手際の連続で感染を拡大させた張本人のクセに「政策を総動員してこの戦後最大の危機を乗り越えていく決意」(安倍)なんてよくぞ言えたものだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。
「この2、3カ月間を振り返ると、新型コロナの感染防止に向けて政府ができる対策はいくつもありました。病床確保などはその例でしょう。しかし、安倍政権は国民の命よりも経済を優先させ、何もしてこなかったのです。初動の遅れ、無為無策が今の状況を招いたのに、政権側からは謝罪の言葉も何もない。それでいて真面目な国民が翻弄されているだけなんて冗談ではありませんよ」
国民に負担を強いるなら補償は当たり前
「甚大な影響のマグニチュードに見合った力強い政策パッケージをとりまとめた。前例にとらわれることなく財政・金融・税制といったあらゆる政策手段を総動員する」「世界的に見ても最大級の経済対策となった」
安倍がこう胸を張っている緊急経済対策も「やっているフリ」だ。
事業規模こそ、GDP(名目国内総生産)の約2割に当たる108兆円と巨額だが、中身をよくみると、中小企業向けに実施する納税や社会保険料の支払い猶予(26兆円)や、19年12月に閣議決定された26兆円の経済対策の未執行分も含まれているのだ。つまり、リーマン・ショック後の09年4月に実施された対策(56・8兆円)を上回る規模という数字ありき、見せかけは明らかだ。
それに支払い猶予はあくまで猶予だから、中小企業にとっては借金の先延ばしみたいなもの。対策の目玉である家計支援でも、出し渋りの姿勢がありあり。2~6月のいずれかの月間収入が半分以下になった世帯や、住民税非課税世帯などの低所得世帯を対象に1世帯当たり30万円を給付するというのだが、収入減を示す書類をそろえて申し込む自己申告制だから、どこまで効果があるか分からない。児童手当受給世帯を対象に子ども1人当たり1万円を給付するのも、支払いは6月の1回限りだ。
こんな雀の涙のようなショボイ対策のどこが世界最大級なのか。新型コロナウイルスの感染拡大で動揺が広がる国民の心理につけ込んだ陽動作戦としか思えないだろう。
■安倍政権は政治の責任を放棄
日本と同様に欧米各国も巨額の財政出動に乗り出しているが、内容はまったく異なる。多くは新型コロナウイルスで打撃を受けた企業の従業員らに対する休業補償が中心で、イギリスは影響を受けた企業の従業員の給与8割について最大月2500ポンド(約33万円)を3カ月間にわたって補償。フランスも、イベントや観光業の従業員給与を最大7割補償し、売上高が7割減少した中小企業には1500ユーロ(約17万円)の支援金を支払う。ドイツやイタリアも観光業の労働者や自営業者らに給付金を支払う対策をまとめたほか、米国は大人1人当たり1200ドル(約13万円)、17歳未満の子ども1人500ドルを4月に支給する方針だ。
いずれの国も厳しい外出制限が伴うとはいえ、これだけ手厚い補償策があれば国民も感染封じ込めの協力に理解を示すのは間違いない。それに比べて行動自粛は国民に丸投げ、ロクな補償もせず、「警察に(取り締まりの)ご協力は要請させていただくことはあるかも」(安倍)なんて言って休業要請だけ監視するような安倍政権は、政治の責任放棄も甚だしいだろう。これじゃあ、新型コロナウイルスの感染拡大は止められないし、自粛、自粛で追い込まれた中小零細企業が倒れるのは時間の問題だ。「世界的に見ても最大級の経済対策」どころか、破綻の連鎖という最悪の事態になるかもしれない。
安倍を「内乱予備罪」で最高検に刑事告発した元参院議員の平野貞夫氏がこう言う。
「新型コロナ対策をめぐって混乱を招いたのも、事態を把握、収拾できないのも安倍政権であり、揚げ句、実効性を期待できないワケの分からない数字ありきの経済対策を出してきて威張っている。全く理解できません。各国の対応をみれば分かる通り、要請であろうが強制だろうが、国民に負担を強いるのであれば補償するのが当たり前。それが政治の責任、常識ですよ。国民1人につき10万円を振り込み、高額所得者は来年の所得税から差し引けばいい。後でどうにでもなるのです。文明の危機ともいえる状況に対して何をトンチンカンなことをやっているのか」
この期に及んで「お願い」と「やっているフリ」。この男では新型コロナを退治できるはずがない。
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「しんぶん赤旗」2020年4月8日きょうの潮流
ほんとうに、まん延を防ごうとしているのか。自分を、家族を、社会を守ろうと訴えながら、本気度が疑われる。そんな不信と批判がひろがっています▼コロナ感染の症状が出ているのに検査してくれない―。ツイッターでも話題にのぼっているように、こうした悲鳴が各地であふれています。記者も都内に住む知人から、40代の息子が感染の有無がわかるPCR検査を拒まれたいきさつを耳にしました▼発熱して病院に。かぜ薬を処方されたが数日たっても下がらず。さらに共働きの妻が嗅覚を失い、一緒に仕事をしていた同僚も発熱。感染を疑い相談窓口から保健所に電話。しかし、あなたはどのケースにも当てはまらないと検査を拒否される▼日を変え本人と妻の検査を求めたが、またも対象外だと。煩雑な手続きに気力もうせ、こんどは両親が保健所に問い合わせるが、たらい回しにされたあげくつながらず。結局、自己の判断に任され、妻も疑いを抱えたまま…▼こんな事例が後を絶ちません。保健所もてんてこ舞い。この30年で300以上も減らされ、コロナ対応でパンク状態。現場はひっ迫し、疲弊しています。医療や福祉を削り続けてきた国の失政も背景に▼生活の補償や医療体制の強化をはじめ、急がれる課題は山積しています。そんななかで緊急事態宣言が出されました。安倍首相は世界をみても最大級の経済対策だと胸を張りますが、苦境の実態が改善されるのか。いま列島に渦巻く声。行政としてやるべきことをやってくれ。
やっぱり検査がなければ始まらない。これが基本だ。
国民の命を守れない首相なら、今すぐ辞めるべきだ。
どうしたわけか画像をupできない。大したものでもないので今日はやめておこう。