種苗法改正 農業崩壊にならないか
「東京新聞」社説2020年4月25日
国の登録品種から農家が種取りや株分けをすることを禁ずる改正種苗法案が、大型連休明けにも国会の審議に入る。国民の命を育む食料の問題だ。コロナ禍のどさくさ紛れの通過は、許されない。
現行の種苗法により、農産物の新しい品種を生み出した人や企業は、国に品種登録をすれば、「育成者権」が認められ、著作権同様、保護される。
ただし、農家が種取りや株分けをしながら繰り返し作物を育てる自家増殖は、「農民の権利」として例外的に容認されてきた。
それを一律禁止にするのが「改正」の趣旨である。原則容認から百八十度の大転換だ。優良なブドウやイチゴの登録品種が、海外に持ち出されにくくするためだ、と農林水産省は主張する。果たして有効な手段だろうか。
もとより現政権は、農業に市場原理を持ち込むことに熱心だ。
米や麦などの優良品種の作出を都道府県に義務付けた主要農作物種子法は一昨年、「民間の開発意欲を阻害する」という理由で廃止。軌を一にして農業競争力強化支援法が施行され、国や都道府県の試験研究機関が保有する種苗に関する知見を、海外企業も含む民間企業へ提供するよう求めている。そこへ追い打ちをかけるのが、種苗法の改正だ。
対象となる登録品種は、今のところ国内で売られている種子の5%にすぎず、農家への影響は限定的だと農水省は言う。だが、そんなことはない。
すでに種子法廃止などにより、公共種子の開発が後退し、民間種子の台頭が進んでいる。その上、自家増殖が禁止になれば、農家は許諾料を支払うか、ゲノム編集品種を含む民間の高価な種を毎年、購入せざるを得なくなる。死活問題だ。小農の離農は進み、田畑は荒れる。自給率のさらなる低下に拍車をかけることになるだろう。
在来種だと思って育てていたものが実は登録品種だったというのも、よくあることだ。在来種を育てる農家は絶えて、農産物の多様性は失われ、消費者は選択肢を奪われる。そもそも、優良品種の流出防止なら、海外でも品種登録をした方が有効なのではないか。何のための「改正」なのか。
種子法は、衆参合わせてわずか十二時間の審議で廃止になった。種苗法改正も国民の命をつなぐ食料供給の根幹にかかわる問題だ。
今度こそ、十二分に議論を尽くしてもらいたい。
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食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か。「飢餓パンデミックの瀬戸際にいる」とWFPが警鐘。
東アフリカ諸国では作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
朝日新聞社 2020年04月23日
新型コロナウイルスの感染拡大に先駆け、同国には過去70年で最大規模のバッタの大群が襲来。第2波も発生しており、その規模は前回の20倍になっているという
食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か WFPが警鐘
新型コロナウイルスの感染拡大により、最低限の食料の入手さえ困難になる人が今年は世界で倍増し、2億6500万人に上る可能性がある。国連世界食糧計画(WFP)が21日、そんな推計を発表した。ビーズリーWFP事務局長は「飢餓パンデミック(世界的大流行)の瀬戸際にいる」と警鐘を鳴らす。
WFPなどが公表した「食料危機に関するグローバル報告書」によると、2019年は、55カ国・地域の1億3500万人が深刻な食料危機に陥っていた。主な理由は紛争(7700万人)や天候(3400万人)、経済危機(2400万人)だった。地域別ではアフリカ(7300万人)、中東・アジア(4300万人)が特に多かった。
今年は新型コロナの感染拡大によって各地で経済活動が停滞しており、深刻な食料危機に苦しむ人の激増につながることが懸念されているという。
エチオピアやソマリア、ケニアなどの東アフリカ諸国では最近、サバクトビバッタの大量発生により、作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
21日に国連安全保障理事会のオンラインでの会合に出席したビーズリー氏は「我々が直面しているのは世界規模の健康被害だけでなく、人道的な大惨事だ。ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬという現実的な危険性がある」と指摘。安保理がリードする形での停戦の実現のほか、世界各地で1億人に食料や個人用防護具を配布しているWFPへの支援を訴えた。(ニューヨーク=藤原学思)
(朝日新聞デジタル 2020年04月23日 12時53分)
これが安倍政権である。目の前にある「国難」を顧みず、どさくさに紛れ不急・不要な法案を次々と提出、成立を狙っている。
だから、「安倍を倒せ」と言っている。「こんな時だからアベ批判をやめ一致団結してコロナに立ち向かおう」という意見はもっともな話である。でも、この政権を倒さなければコロナにも太刀打ちできず、国民の命が無残にも失われている現実を直視するべきである。