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石川県「能登でM8.1」試算を知りながら防災計画は「M7.0」想定 知事は「震災少ない」と企業誘致に熱

2024年01月18日 | 自然・農業・環境問題

「東京新聞」こちら特報部 2024年1月18日 

 気象庁がマグニチュード(M)7.6と発表した能登半島地震。過去をたどると不可解な点が浮かぶ。地元の石川県は2012年、今回の震源地の能登半島北方沖でM8.1の地震が生じうると試算したが、家屋倒壊などの被害想定を示さず、地震対策の議論を先送りした。当時から住宅の耐震化などを進めていれば「救えた命」がなかったか。「地震リスクが周知されず」で済ませていいか。(西田直晃、木原育子)

◆多数の家屋が倒壊して被害が拡大

 「住まいを追われたお年寄りたちは、農業用テントで身を寄せ合いながら暮らしていた。孤立した集落に行き場はどこにもない」

 そう声を落としたのは、地震発生翌日の2日夜に被災地入りしたジャーナリストの堀潤氏だ。

 今回の地震で目を見張るのが、倒壊家屋の多さだ。

 石川県によると、17日午後2時現在の判明分(全半壊、一部破損)で2万2000余の住宅に被害が出た。能登半島の先端にある珠洲市、西隣の輪島市は集計困難として除かれており、実際の数はさらに多くなる。県が17日までに氏名を公表した犠牲者59人のうち、9割が家屋倒壊で亡くなった。

 堀氏は「畜産用の牛舎の倒壊も激しく、生業を維持できない。古い木造家屋は壊滅的だ」と語る。

 耐震化の遅れは、被害の拡大を招いたとみられる。現在の耐震基準を満たす住宅の割合(耐震化率)は、全国平均の87%(2018年度)に対し、珠洲市は51%(同)、輪島市は46.1%(22年度)にとどまる。

◆「多分連動するような断層の配置」「考慮して当然」

 これらの甚大な被害は想定外と言えるのか。

 震源地は能登半島の北側辺りとされる。政府の地震調査委員会は、能登半島沖の北東から南西にある複数の活断層が連動し、大きな揺れを引き起こした可能性に言及している。

 能登半島の北方沖では、かねて複数の活断層の存在が指摘されていた。国の研究機関「産業技術総合研究所」の岡村行信氏らは10年の「能登半島北部周辺20万分の1海域地質図説明書」で四つの活断層を記載した。産総研によると、半島北岸の5〜10キロ沖で海岸と平行に逆断層が分布し、一つ当たり20キロ前後の長さで四つに区分される。

 12年3月にあった経済産業省原子力安全・保安院の「地震・津波に関する意見聴取会(活断層関係)」では、北陸電力志賀原発(志賀町)の審査に際し、岡村氏が委員として出席。四つの活断層が連動する可能性に触れた。議事録には「多分連動するような断層の配置」「考慮して当然」といった岡村氏の発言が残る。

◆石川県の資料に確かに「M8.1」と

 これを受け、北電は「約95キロ区間の連動を考慮すると、マグニチュード8.1相当になる」という試算を報告した。岡村氏は取材に「原発の安全性審査のためには、最大クラスの地震規模を想定することが必要だった」と当時を回想した。

 北電の試算と同じ月には、県が「平成23年度石川県津波浸水想定調査」の報告書をまとめ、能登半島の北方沖で活断層が95キロにわたって動く場合の地震規模を見積もった。

 翌月の12年4月の説明資料には、M8.1という試算結果が記されている。地震波の最大振れ幅を踏まえる気象庁の算出方式に基づいた値で、震源断層のずれの大きさから計算する「モーメントマグニチュード(Mw)」は7.66。同月にあった県防災会議の震災対策部会で県の試算が報告され、北陸中日新聞などで報じられた。

◆その後、地域防災計画は見直しに

 地域に合った対策を定めるのが県の役目だ。災害対策基本法によれば、住民の命や財産を災害から保護するために都道府県が取る対策は、地域防災計画に盛り込むことになっている。

 県は「能登半島北方沖でM8.1」の試算後、地域防災計画の津波災害対策編に反映させた。12年5月のことだ。各地の津波高や到達時間を出し、津波ハザードマップの作成や避難路の整備などの対策も示した。

 14年9月に政府の有識者会議「日本海における大規模地震に関する調査検討会」が報告書をまとめ、「能登半島北方沖でMw7.6」の地震を見立てると、県はこの報告書を考慮し、地域防災計画の津波災害対策編を見直した。

◆なぜか地震想定を小さく据え置いていた 

 不可解なのが、県の地震対応だ。地域防災計画の地震災害対策編では「能登半島北方沖でM8.1」を盛り込まず、1997年度公表の想定を据え置いた。記載した地震の規模は「北方沖でM7.0」。地震による被害も「ごく局地的な災害で、災害度は低い」とし、死者は7人、建物全壊は120棟、避難者数は約2780人と見積もった。

 こうした想定は備えを鈍らせなかったか。本来は多数の家屋倒壊や道路の損壊といった地震の被害を念頭に置き、耐震化の予算を付け、孤立対策などを準備すべきだったのではないか。

 科学ジャーナリストの添田孝史氏は「これだけ何もしてこなかったのは理解を超えるレベルだ。被害想定ができていなかったために初動も遅れ、正確な情報も集まらず、自衛隊の救援も含めて人手確保ができないまま全てが後手に回ったのではないか」と話す。

 金沢大の平松良浩教授(地震学)も「あんなに更新されていない地域防災計画は実効性がない。自治体は住民の命と財産を守るのが根本。喫緊の課題だったが、県の動きは鈍かったと言わざるを得ない」と語る。

◆7期28年の谷本県政 当時は北陸新幹線開通を控えた時期

 M8.1の試算は、1994年から7期28年にわたって知事を務めた谷本正憲氏の在任中に行われた。しかし谷本県政では、地域防災計画の地震災害対策編に反映されなかった。

 試算が出た2012年は東日本大震災の翌年。県議会の会議録によれば、谷本氏は「震災が少ない地域」とアピールしながら企業誘致に力を入れ、北陸新幹線の金沢開業を控えて誘客に躍起になっていた。

 そんな中、県が地震の被害想定を据え置いたのはなぜか。県危機対策課の南良一課長によれば、政府の方針が関係しているという。

 政府の地震調査委が発表する主要な活断層の「長期評価」は17年から海底活断層も加えて調査しているが、能登半島沖は検討が始まったばかり。南課長は「本県から働きかけて国に調査をしてもらった手前、それを待たずして先行するのはどうか。県としては国の調査結果をずっと待っていた」と述べる。

 現知事の馳浩氏が就任した2カ月後の22年5月、地域防災計画の地震災害対策編を見直すと決めた。ただ、早ければ25年度の公表という作業工程で、今回の地震には間に合わなかった。

◆「災害は政治的な現象がよく現れる」

 「国を待つ」姿勢だけで本当に良かったのか。

 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「国の支援に頼りきるのではなく、ある程度、県や市が幾分か自力でできる力を付け、地域にその力を持たせていく必要があった。ところが今回、状況も全容もつかめず、国の激甚災害に指定されたのも10日後だった」と述べ、こう訴える。

 「災害は政治的な現象がよく現れる。地域防災計画を早く見直し、それに合わせて被害予想を得ていれば、被害を最小限にできた。改めて地方の防災力がないことを浮き彫りにした。災害は想定外で起きることを絶対に忘れてはならない

◆デスクメモ

 文中の岡村氏は福島原発事故の2年前、869年の貞観地震を踏まえ、大津波襲来の危険性を訴えた。だが備えに至らず事故に。その同氏が問題視した能登半島北方沖の活断層群。至らぬ備えがまたあらわに。何とかしたかった。M8.1試算を12年前に報じた身として自責の念が募る。(榊)


「地方の防災力がない」のはなぜなのか?
が問われなければならない。
国の原発推進県においては顕著であろう。

雪かきのない朝を迎えた。
しかし、夕方からまたもや吹雪模様。