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政治家も経済界も「賃上げ」を叫ぶばかりで現実は実質マイナス、なぜなのか

2024年01月21日 | 生活

弁護士ドットコム 2024年01月21日

    厚生労働省が1月10日に発表した、2023年11月の「毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)」によると、物価を考慮した1人あたりの実質賃金は前年同月比3.0%減でした。実質賃金は、20カ月連続でマイナスになっています。

    安倍政権、菅政権、岸田政権、いずれも賃金上昇の必要性を強く訴えてきましたが、企業の反応は「暖簾に腕押し」という感じで、賃金上昇には結びつきませんでした。

    最近になって、急激な物価上昇により賃金上昇圧力も強くなり、企業でも賃上げの動きが見られるようになってきましたが、物価上昇のスピードには追いつかず、実質賃金は依然として低いままです。日本ではなぜ実質賃金が上がらないのでしょうか。(ライター・岩下爽)

  • 企業の利益剰余金は11年連続で増加

    アベノミクスでは、異次元の金融緩和によって市場にマネーを供給して、潤沢な資金を元に景気回復するシナリオを描きました。結果として投資マネーが増え、株価は上がり、低金利政策により円安が進行し、輸出企業を中心に最高益を出すなど一定の効果がありました。

    経済の理論からすると、企業の利益が増えれば賃金が上がり、消費も増え、物価が上がることになりますが、実際には企業は儲かっても従業員の賃金を上げず、内部留保を続けたため景気の好循環には至らず、デフレが続きました。

    結局、アベノミクスで恩恵が得られたのは、企業と株の保有者だけでした。企業献金を受け取り、富裕層と強い繋がりがある自民党総裁としては、十分満足の得られる結果だったのかもしれません。

    その後の菅政権は、最低賃金を全国平均で28円引き上げましたが、約1年と短期間だったため、大きな賃上げには繋がりませんでした。岸田政権は、「新しい資本主義」と題して、①構造的賃上げの実現、②国内投資の活性化、③デジタル社会への移行、の3つを掲げています。

    賃上げの具体的政策としては、リスキリングによる能力向上や成長分野への労働移動の円滑化が掲げられていますが、これもすぐに賃上げの効果が出るものではありません。

    岸田首相は、経済3団体共催の「2024年新年会」で、「この令和6年は極めて重要な1年となります」と述べ、賃上げについても後戻りさせないようあらゆる手だてを尽くすと決意を示し、経済界に対し強い賃上げへの協力を要請しました。

    これを受け、経団連の十倉雅和会長は、「日本経済がデフレからの完全脱却を果たすうえで、非常に重要な勝負の年である。実現に向けては、『成長と分配の好循環』を確かなものとする必要がある。千載一遇のチャンスを逃すことのないよう、構造的な賃金引上げの実現や、全世代型社会保障制度改革に全力で取り組んでいく」と意欲を示しています。

    政府も経団連も賃上げについて強い決意を述べているように思われますが、どこまで本気なのかはわかりません。十倉会長の年頭挨拶を遡って見ても、前年の2023年、前々年の2022年の年頭の挨拶でも賃上げの重要性について述べているからです。つまり、年頭挨拶での賃上げの決意表明は恒例行事のようになっているということです。

    実際、賃上げの決意表明にもかかわらず2022年も2023年も実質賃金は低いままです。それに対し、財務省の「法人企業統計」(令和4年度)」によると、企業が蓄えた内部留保に当たる「利益剰余金」は、前年度比7.4%増の554兆7777億円でした。利益剰余金の額は、11年連続で増加を続けており、過去最高を更新しています。

    つまり、企業経営者は、表面上は賃上げすると言いつつ、相変わらず内部留保を増やし続け、わずかばかりの名目賃金を上げて、実質賃金は依然として低いままという状態なのです。

  • 賃金が上がりにくい「非正規雇用」が4割近くを占めている

    日本の賃金を押し下げる要因として非正規労働者の賃金が低いことがあります。厚生労働省の資料「『非正規雇用』の現状と課題」によると、非正規雇用の割合は、2022年度で36.9%になっています 。約4割の人が非正規労働者ということです。この4割の人の賃金が低いため賃金の平均値が低くなっています。また、安い非正規労働者がいることで、正規労働者の賃金も上がりづらいという構造になっています。

    非正規雇用は、多様な働き方という点では良い面もあるものの、賃金に関しては極めて不利な状況におかれています。有期雇用社員の多くは1年契約で、更新されるかは企業次第なので、賃上げの交渉などできる状況にはありません。そのため、正規社員と同等の労働をしても、正規社員に比べ低い賃金に設定されています。

    現行法に「同一労働同一賃金」の規定はありますが、罰則規定がないため、法律が遵守されていないのが実態です。法律を改正し、労働基準法にも明記し、罰則を設けるなどして規制を強化していくことが必要だと思います。

     パート社員についても、「106万円の壁」や「130万円の壁」によって、収入を増やそうと思っても増やせない制度になっています。そのため、わざとシフトを減らすなどして収入を抑えている人がたくさんいます。これも賃金を押し下げている要因の一つです。

    政府は、「年収の壁・支援強化パッケージ」という措置で年収の壁の緩和を図ろうとしていますが、時限的な措置であり、一時的なものに過ぎません。この点についても、抜本的な法律の見直しが必要だと言えます。

  • ストライキをしない労働組合、消極的な労働者側の動き

    企業が賃金を上げようとするのは、賃金を上げなければ従業員が辞めてしまう、あるいは現在の賃金水準では人を採用できないという状況が発生した場合です。経営者からすれば、コストはできるだけ安い方が良いわけで、人件費というのは固定費として大きなウエイトを占めるので、経営者が給与をできるだけ低く抑えたいと考えることは当然のことです。

    「利益が出ているのに、従業員に還元しないのはけしからん」という意見を言う人もいますが、従業員から「給料を上げろ」と主張もしないで自動的に給与が上がると考える方がおかしいと言えます。もちろん、従業員から積極的な賃上げの要求がなくても従業員のモチベーションを上げるために経営戦略的に給与を上げることはあるかもしれませんが、それはレアなケースと言えます。

    アメリカは、高い給与水準 を維持していますが、賃上げのためのストライキをたくさんしています。ストライキをしても賃上げに応じなければ、従業員らは会社を辞めてしまいます。そのため、企業は賃上げに応じざるを得ないわけです。賃上げを自分たちの力で勝ち取っているわけです。

    賃上げの要求をしたり、ストライキをしたりすることは大変な労力を要します。しかし、それをやらなければ残念ながら賃金は上がりません。今の組合はストライキもせず、実効性のない組織だと思われているので、組合への加入率が年々下がっています。賃上げの機運が高まっている今こそ組合が積極的に動く時です。

    日本最大の労働組合の全国組織「連合」は、2023年春闘で「30年ぶりの高水準となる賃上げを実現した」と胸を張っていますが、実質賃金が低いままでは何の意味もありません。実質賃金が上がる水準まで強く賃上げを要求することが必要です。自民党と仲良くすることも結構ですが、それならもっと与党に働きかけをして政治を動かしていくべきです。

  • 日銀の動きに注目

現在の日本の物価上昇は、世界的な物価上昇の影響を受けており、円安によりさらに負担が増えているという状況にあります。実質賃金は物価を考慮するため、物価の上昇が抑えられれば、実質賃金は上がりやすくなります。

 日銀は、春闘での賃上げの状況を見極めた上で、金融緩和を解除するかどうかを判断するので、春闘の結果が出るまではどうなるかわかりませんが、もし金融緩和が解除されて円高になれば、コスト上昇による物価高は緩和されます。幸い、名目賃金は上昇傾向にあることから、円高が進めば、実質賃金の上昇につながるかもしれません。

  • まとめ:組合を中心として、積極的な活動を行うことが重要

 実質賃金の上昇のためには、物価という外的要因の影響があるので、それを見越して賃上げをしていく必要があります。企業経営者はなるべくコストを抑制したいと考えるのが自然であり、政府の動きも期待できません。

 結局、実質賃金を上げられるかどうかは自分たち次第であり、自分たちで動くかどうかにかかってきます。今は、急激な物価上昇があるため、賃上げを求めやすい環境になっています。この機会を逃せば、賃上げを要求することは難しくなります。

 組合が中心となって、積極的な活動を行っていくことが重要であり、各所でそのような動きが見られるようになれば、企業経営者も重い腰を上げざるを得なくなります。春闘に向け大事な時期になってきますので、実質賃金の上昇に向けて頑張ってもらいたいと思います。


 以前の労働組合は様々な分野に影響力を発揮していた。政府の政治姿勢や、個々の政策に対する闘いがあった。ニッポンをこんな国にした責任の一端、いや大きな部分で連合にある。今の「連合」は、政府に寄り添うばかり。それを構成しているのは「労働者国民」なのだが。

寒い日が続いています。
夜から-20℃ほどに、朝方の最低は-25℃。
露天風呂の湯船の外はツルッツル。
洗った髪はカチンコチン。