若者のミカタ〜ブラックバイト世代の君たちへ 第17回
大内裕和(中京大学教養教育研究院教授)
imidas連載コラム 2021/04/20
「生理の貧困」が今、大きな社会問題となっています。
きっかけとなったのは、女性の生理(月経)に関する啓発などに取り組む任意団体「#みんなの生理」が実施した「日本の若者の生理に関するアンケート調査」。国内の高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校などに在籍し、過去1年のうちに生理を経験した人を対象に、2021年2月17日からオンラインでアンケート調査を実施、3月2日までのおよそ2週間で671件の回答がありました。以下は、その調査報告からです。
過去1年で、金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがあるかとの質問に「ある」と答えた人は20.1%に上りました。全体の5分の1の女性が、生理用品の購入に困難を抱えているということになります。過去1年で、金銭的な理由からトイレットペーパーなど生理用品でないものを(代用品として)使ったことがある人は27.1%でした。そして、生理用品を交換する頻度を減らした経験のある人は37%に達しています。生理用品の入手で苦労している女性は、ごく一部ではないことが分かります。
この問題が第一に提起したのは、コロナ禍による貧困の深刻化です。
全国大学生活協同組合連合会が20年10〜11月に行った「第56回学生生活実態調査」では、学生の貧困化を詳細に明らかにしています。
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調査結果は、自宅生と下宿生に分けて発表されました。それによると、20年の自宅生の1カ月あたりの収入は6万2820円と、19年の6万7480円よりも4660円減少しています。年間では5万5920円の減少となります。収入減少をもたらしたのは主としてアルバイト収入の減少です。1カ月あたりのアルバイト収入は3万7680円と、19年の4万1230円から3550円減少、年間では4万2600円の減少となります。
また、20年の下宿生の1カ月あたりの収入は12万2250円と、19年の12万9860円よりも7610円減少しています。年間では9万1320円の減少となります。収入減少をもたらしたのは、ここでも主としてアルバイト収入の減少です。1カ月あたりのアルバイト収入は2万6360円と、19年の3万3600円から7240円減少しています。1970年以降で前年からの減少額が最も大きくなりました。年間では8万6880円の減少となります。
収入が減少したのですから、支出を減らす必要があります。支出についての調査結果を見ると、注目されるのが食費の減少です。自宅生の場合、2020年の1カ月あたりの食費は1万670円と19年の1万3850円よりも3180円減少しています。年間では3万8160円の減少となります。食費の支出構成比は17.2%と1970年以降最小となりました。
下宿生の場合、2020年の1カ月あたりの食費は2万4570円と19年の2万6390円よりも1820円減少しています。こちらも1970年以降で前年からの減少額が最も大きくなりました。年間では2万1840円の減少となります。自宅生の支出費目で最も減少し、下宿生の支出費目では2番目に減少したのが食費となっています。学生が食費を減らさなければならない状況に追い込まれているのは明らかです。
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金銭的理由から生理用品が買えないという問題に対して、「スマホは持てるのに生理用品を買えないのか」という意見をネットで見かけました。しかし今の若者にとって、スマホは友人とのコミュニケーションや情報収集、就職活動、そして生活支援を受ける場面でも必須の生活インフラです。もはや贅沢品ではなく、生理用品同様に生活必需品となっているのですから、この意見は現実を捉えていない暴論でしょう。
「買うものの優先順位を間違えているのでは」という意見もありました。「学生生活実態調査」の結果で明らかなように、食費までも削らなければならない状況がすでに広がっているのですから、その意見も的外れです。
それよりも収入の減少によって、学生がかつてないほど困窮している状況を見るべきです。東京私大教連の「私立大学新入生の家計負担調査2020年度」によれば、1カ月の仕送り額から「家賃」をのぞいた生活費は1 万 8200 円で、1日の生活費に換算すると607円という、調査開始以来最低のレベルとなりました。ピークだった 1990 年度 の1日2460 円の4分の1未満です。1日の生活費が607円ということは、1食200円に抑えても3食とれば600円となり、7円しか残りません。
しかも、この額は平均値です。平均未満の学生は数多く存在しますから、生理用品を買えずに困っている人がいるのは不思議でも何でもありません。むしろ生活必需品かつ衛生用品の費用負担が、多くの学生に重くのしかかっているという現実を、私たちは認識する必要があると思います。
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この問題が第二に提起したのは、生理についての理解不足や偏見です。「生理の貧困」というワードが大きな話題となる中で、当事者である女性たちからネット上に多くの声が上がりました。
「家計を管理している夫が生理用品の購入を許してくれない」
「初潮を迎えたけど恥ずかしくて親に言えない」
「小・中学生の頃、親に生理用品を買ってもらえなかった」
「父親に初潮があった事を知られたくない。絶対に父親に伝わるから母親にも言えない」
「母親に生理を汚いと言われた」
「生理は痛いのが当たり前と親に言われ病院受診できない」
このように多くの女性たちが、生理について苦しんでいる思いを発信しています。そこには生理に対する理解不足や、性に対するタブー視があることが見てとれます。子どもにしてみれば性のことだから言い出しにくい、相談できないという面があるし、親にしてみれば理解不足で子どもに抑圧をかけている面もあります。特に男性の理解不足は目立ちます。父子家庭で育つ女の子がこの問題で苦しむ例が多いと、さる養護教諭から聞いたこともあります。これまでの性教育のあり方も影響しているかもしれません。
こう話をすると、「生理の貧困」は若者の経済的困窮が原因なのだから「親/夫のネグレクト・虐待」や「性教育の遅れ」とは区別して考えては……といった意見も出てくるでしょう。しかし、私はこれらも含めて考えたほうがよいと思います。「貧困」とは経済的困窮のみを指す言葉ではありません。社会的関係性の希薄さや、知識・教育の未熟さをも含む広がりのある言葉です。「親/夫によるネグレクト・虐待」は「関係性の貧困」と捉えることができますし、「性教育の遅れ」は「知識・教育の貧困」と捉えることが可能です。
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そして「生理の貧困」が第三に提起したのは、隠されてきた課題の可視化です。
女性たちの声に耳を傾けると、「生理の貧困」に苦しんでいる人は、実は以前からたくさんいたことがわかります。しかし社会問題として取り上げられたことは、近年まで一度もありませんでした。生理が身体や性に関わる事柄のため、当事者である女性に「隠したい」という心理が働き、助けを求めにくいという事情が読み取れます。誰にも打ち明けられず一人で我慢する人がほとんどで、隠れた場所で強烈な不快感や痛みと闘ってきたのです。
こうして隠されてきたことが、全人口の約半分が当事者になりうるにもかかわらず、政策的対応がなされてこなかった要因です。男性中心主義社会の中で、排除の力学が働いていたとも言えるでしょう。適当なケアを受けられないことで身体に負荷をかけるだけでなく、精神的にも女性の尊厳を傷つけることにつながる点で、人権侵害であることは明白です。まさに可視化されづらい課題でした。その隠れた課題が可視化されるようになったのは、「生理の貧困」の大きな意義だったと思います。
冒頭の「日本の若者の生理に関するアンケート調査」で、過去1年に生理が原因で生活にどのような支障があるか聞いたところ、「学校を欠席や早退、遅刻したことがある」が48.7%、「アルバイトなどの仕事を休んだ」が31%、「就職活動などを諦めたことがある」が6%でした。生理が原因で、女性たちの活動が悪影響を受けていることが分かります。これらは女性の社会進出にも影を落とす深刻な人権問題です。特に「学校を欠席や早退、遅刻したことがある」が、半数近くにも達していることは重大です。女性たちから「教育を受ける権利」(憲法第26条)が奪われていることを意味するからです。
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「生理の貧困」は女性に対する重大な人権侵害であり、政府も解決に向けて動き出すべきです。すでに世界的では、大きなうねりとなっています。
20年11月、英国のスコットランド議会は、タンポンやナプキンなど生理用品を無償で提供する法案を全会一致で成立させました。21年2月、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、6月から「生理の貧困」対策としてすべての学校で生理用品を無料提供すると発表しました。またフランス政府も21年2月、生理用品を買えない「生理の貧困」を無くす国際的な動きに同調し、すべての学生に生理用品を無償提供すると発表しました。
日本でも同様の動きが始まっています。兵庫県明石市は、21年4月から市立の学校の保健室や公共施設などで1人につき1袋26個入りのナプキンを無償で配布すると発表しました。また、東京都品川区では21年4月から、区立の小中学校など46校で小学4年生以上の児童が使う女子トイレに生理用品を設置する取り組みを新たに始めました。
女性の貧困問題、性教育のあり方などを根本的に解決することが求められますが、今、早急になすべきは困っている女性に生理用品を届けることだと思います。小学校、中学校、高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校など全教育機関で、生理用品を無償配布すべきです。そのことは、女性の「教育を受ける権利」を守ることにつながります。学生以外に対しては、公共施設での無償配布が有効でしょう。
ただし「生理の貧困」は、個々人の性に関わるデリケートな問題です。生理を「恥ずかしいもの」と捉え、隠してきた社会の風潮は変えていく必要があります。しかし、女性自身が生理について話すことや生理中であることを恥ずかしいと思う気持ちも、最大限尊重されなければいけません。学校や公共施設での無償提供の際には、「今、生理中で困っている」ということを開示せずに、誰もが必要な時に手に入れられる環境をつくることが重要だと思います。
このように「生理の貧困」は若者全体にとって大きな問題です。社会は一刻も早く応える責任があると思います。
朝、目が覚めると陽が射している。予報通りだが焦る。8時前にハウスに着いたが、気温は30℃を超えていた。朝は気持ちいい天気だったが、昼近くになって怪しい雲が出てきて、風邪も強まり、体感温度は下がり始める。苗をまた3重に囲い、ストーブまで点火する始末。この状態で昼飯、そして昼寝。目が覚めると陽が射している。焦ってハウスへ行き温度計を見ると40℃を超えていた。危ない、危ない。
週間天気予報にまた氷点下の日が3日も出てきた。タイヤ交換はまだ。
水仙が咲き始めました。
ヤチブキ(エゾノリュウキンカ)
食べごろ。
きょう、「広島への誓い」を見て来ました。
とても感動し、勇気づけられました。
見られて良かったです!
「生理の貧困」も重大な問題です!
女性は「生命」を生み出すのですから、
もっと大事にされないといけません!
いいですね。