前鬼谷・・・ 一分で白銀の世界に!
箕面ゴルフ倶楽部の横の狭い山道を通りました。
ゴルフ場芝生は、一面土色に覆われた枯れ芝で 所々に残雪があり
冷たい風が吹いていました。
ゴルファーの方々も厚手の防寒服に思うように体が回らないのか?
キャデーさんはさかんに ファーファー・・・ と 叫んでいます。
私は先程まで大阪が一望できる所で一休みをしていましたが、気持ちの
いい快晴なのに、ふっと見ると西の空から厚い雪雲がどんどん迫って
くるのが見えたのであわてて腰をあげたのでした。
山道を北へ歩き、途中から東に折れて前鬼谷への道に入りました。
枯れ木の上に足を載せたら、ツルリン! と 思い切りすべって、大きな
仕草で尻餅をついてしまいました・・・
下が土でよかったです・・・ それに誰もみてなくて・・・(笑)。
やがて大ケヤキのほうから下りてくる前鬼谷へと合流しました・・・
みると左方の上のほうから一人、私より年配と思われる女性が、ゆっくり
とカニ歩きで下りてこられるのが見えました・・・ 大丈夫なのかな?
前鬼谷の深いV字渓谷に入ります。
左に大きな岩が迫り、右に谷川を挟んで山裾に倒木が多く、山道は岩場
で歩きにくく、昼なお暗き森の中です・・・
ここはまさに自然の野趣に富んだ所で、私の好きな森の一つです。
この東には、ひとやま超えて後鬼谷があり、ここもいい所です・・・
昔、役行者(えんのぎょうじゃ)の弟子の前鬼さんと後鬼さんが各々の
谷筋を下り、この下の谷で落ち合った(落合谷) とかで ついた名前と
か・・・?
何となく冬枯れのさびしい森の中で、静かにサラサラサラ~ と流れる
谷川の音が、優しく森を包んでくれます。
その時、急に上のほうからギーギーギー~という大きな音・・・ ドキン!
何・・・?
見上げるとそこは高さ10数メートルの杉の大木が林立する所・・・
よく見るとその杉の木立が左右に大きく揺れていて、その木と木の幹が
擦れ合う音でした・・・
まるで動物が叫んでいるようで無気味な音です・・・
上空はすごい嵐のような強風の様相です。
その時です・・・
パラパラパラ~と、白いアラレ・・・ 粒の粗い雪?
そう思って目を前方に向けたとたんに・・・
一瞬、まるでバケツで一気に横から蒔いたような、ものすごい横殴りの
雪が急に降り注いできました。
あわててリュックを下ろして中から折り傘を取り出そうとしている時に、
もうそのリュックの上にも雪が積もっていきます。
やっと傘を広げて前を見ると・・・
なんということでしょう・・・!
もう山道も山裾も谷川も岩の上も 一面真っ白 ではありませんか・・・
この間、一分も経っていません・・・
ものすごい自然の力を感じました。
前方はもう見えないぐらい降り注いでいるので歩く事ができません・・・
私は唖然としてその場にたたずんでいました。
その時ふっと、この突然の大雪に先ほどの年配の方はどうされている
かな?
とても心配になって、よっぽど引き返してみようかな? と思ったぐらい
です。
やっと前方が見えるようになって歩き始めました・・・
あっという間に森は 白銀の世界 です。
真っ白になった渓谷の新雪を踏みしめながら・・・
この思いもよらない自然の営みに驚かされると共に、その自然のもつ力
の脅威を感じたり、またその神秘さ、美しさへの畏敬の念を感じたり、
言いようのない素晴らしさに至福の念を味わったり・・・
いろんな思いで心はいっぱいになりました。
少し行くと岩と岩の間から小さな滝のように流れ落ちているきれいな光景
の所にきて、私は少し谷川に下りてみました。
一面真っ白の森の中で、岩の上に積もった雪・・・その合間から流れ
落ちる渓流の小滝・・・
何ともいえない美しい絵になる光景にしばらく見とれていました。
降り続く雪に傘が重たくなってきました・・・
どのぐらい小滝を見ていて時が経ったのか・・・
たぶん数分の事でしょうが、しばらく何も考えずに無我の境地に入ったか
のごとく、無意識の世界に居たようです・・・ 禅僧になったみたい?(笑)
我に返り、山道に戻ろうと岩場を登りますが、雪ですべって何度も転んで
しまいました・・・
さっきよりも更に斜面に雪が積もったようです。
何度目かの挑戦で勢いをつけて上がろうとした時でした・・・ 上から・・・
* 大丈夫ですか・・・?
あっ!
先ほど心配していたあの年配の方が声をかけてくださいました・・・
私は一瞬、 無事でよかった! と 安堵しました・・・
しかし、自分の今 置かれている状況から、逆にその方に案じられて
しまい、少し恥かしい思いでした。
やっとの思いで何とか脱して私が山道に戻ると・・・
* 急に雪が降り出してビックリですね・・・ お先に失礼します・・・
と、後ろから見ると私より元気な足取りで雪道を下っていかれました・・・
(呆気にとられている私でした・・・ 笑)。
最近は中高年の女性の一人歩きの方とよく出会いますが、みなさん概し
てお元気ですね・・・
若い頃に山岳部やワンゲル部だった方はともかく、そうでない方も
はるかに私よりもスイスイと上り下りされておられますのに・・・
ドンカメの私が ウサギさんのことを案ずるなんて、おこがましくて
恥かしい・・・
これからは我が身の心配を人様にかけないように参ります・・・ (笑)
やがて前鬼谷と後鬼谷と合流する落合谷に下りてきました。
落合トンネルを出て滝道にでてくると、もうそこにはあの先ほどの静かな
白銀の森がウソのように、人々の賑やかな笑いとおしゃべりの流れがあり
ました。
08-2/20 (完)