箕面の森の小さな物語 (創作ものがたり)
NO-23
箕面の森の埋蔵金 (1)
「今からもう何十年前の昔の話しやがな~
箕面大瀧までの瀧道沿いに、多くの高級料亭や旅館、それに企業の
保養所、金持ちの別邸なんかあったらしいわ~
そんでな、ある金持ちのその別邸で不思議な噂話しが
あったんや・・・ と」
高橋 杜夫は、意味深長な言い回しで、同僚の山口 裕二に話し始めた。
二人は会社の同期で、若い頃から気が合い、時々一緒に飲んでは仕事の
グチ話し、憂さ話しをしたりしていた。
金曜日の夜になると、いつもの行きつけの店、箕面の小さな居酒屋の常連
になっていた。 しかし今夜は雨のせいか、客は二人だけだった。
杜夫は早くもろれつが回らなくなってきたので、女将に水をいっぱいもらい、
自分の頬っぺたをパチンと張ると・・・
「これはとっておきの内緒の秘密の話しやねん・・・ 誰にも言うとらん
話しやけど、お前だけに教えるんやで・・・」
裕二はそれから一時間、杜夫が一方的に話す秘密と言う話しに、だんだんと
身を乗り出し引きずられていった。
「その箕面の別邸というか館にはな 富さんちゅう未亡人が住んでてな
それに昔から仕えてたオトはんちゅう女中はんと二人で住んでたんや
ダンナはんは綾小路何とか言うてな、なんでも皇室に縁のある人とかで
財界の大物やったそうな・・・
なんでも満州で大儲けしはってな 今の金にして数十億円ほどや
そうな・・・
富はんは京都の舞妓はんやったそうやが、ダンナはんに惚れられて、
後家はんとして嫁にきはったんや
そんで箕面の山深い箕面川の辺に、当時でビックリするぐらいの館を
建てはったんやと ところがな 一年もせんうちにそのダンナはんが
心臓発作で急逝しはったんやと
気の毒に富はんは、それからずっと女中はんと二人で、その館で
暮らしてきはったんやと
そんでな その噂話しちゅうのはな そのダンナはんが亡くなる前に
その館の近くにな 儲けた金をみんな金塊にして埋めたちゅう話しや
ねん しゃあさかな 何人もの男はんが、その隠し金塊を目当てに
富はんを口説きにかかったそうやけど、身持ちが固とうて誰とも
再婚もしはれへんかったんやそうな
ところが富はんには甥が一人と、姪が一人おってな・・・
そのまま富はんが亡くなって、そんでその財産が見つかったら、その
二人が相続する事になるんやがな・・・ しかし何せ その肝心の
金塊がどこに埋められてるか、誰も分からんのや・・・
そんで甥も姪もこまめに富はんの館を訪ねては、その噂話しを探ろうと
いろいろ世話をしてたんやそうな・・・
姪の涼子ちゅう娘は、顔も器量も性格も悪い我侭娘やったそうやけど、
何人もの男はんからプロポーズされてな、そんで特に西谷ちゅう
20歳以上年の離れた男から猛烈にアタックされてな 涼子もその気に
なって結婚したんやと
そんでそれからはしょっちゅう二人で富はんを訪ねて来ては、
何やらいろいろと探ぐっていたそうや
もう一方の甥の孝太郎はな よう勉強ができたようで、末は博士か
大臣か と周りから言われてな 富はんを喜ばせたそうや
孝太郎は月に一回来ては、毎回3日ほどいつも泊まってな
なにや いつも地下の書庫で一日中探しもんしとるちゅう噂
やったんや
そんな頃や・・・
急に富はんが倒れはったんや と
そんでな 昔からのかかりつけの医者が馬車に乗って急いでやって
きたんや と
姪の西谷夫婦は、その前に女中はんから連絡を受けて、
もしこれが最後やったら その前に富はんが知ってるかもしれん
金塊の隠し場所 聞いとかなあかん・・・ と 急いで駆けつけて
はったんや
甥の孝太郎も駆けつけたんやが、何やらいつもの地下の書庫で
バタバタしてはったそうな
診察した医者は・・・
「いつものこっちゃ ちょっと疲れはったんやな
富さんは昔から丈夫やから後20年は大丈夫や ハハハハハハ」
と 笑っとったそうや
ほんま言うとな この丸尾はんと言う医者はな ダンナはんが急逝
しはった時に看取った人でな 昔から富はんを取り囲む人らを、
いつも苦々しく思ってたんで、何の根拠も無いのに
「富さんは元気や問題ないで!」 と言いはったんや と
そんで姪夫婦はな 少しガッカリした様子で帰っていきはったんやが、
しかし 甥の孝太郎だけはそれから一週間も泊まって、その間
地下の書庫にこもったままやったそうな・・・
何でもその書庫にはな ダンナはんの事業のものらしい膨大な資料が
残ってて、孝太郎はそこにお宝の山があると睨んで丹念に調べてた
ようやねん
そんでその重大な目処がもうすぐつくはずやったんやな
実はな もう一人 あの女中のオトはんやがな・・・
ダンナはんとの間に、健治ちゅう男の子を一人もうけてはったんやと
ややこしい話しやな・・・
オトはんはな 子供がおらん兄夫婦へ自分の子供預けてな
育ててもろたんやそうや
その息子がもう大きなってな 植木職人やってはってな
それがいきさつはよう分からんけど、富はんの館の植木の手入れを
任されてな 富はんは知ってか知らずか ようやってくれるわ・・・ と
健治を随分と気に入って、毎月来てもろてたそうや
勿論 母親である女中のオトはんはそんな息子を見ながらも
表面上は知らん顔してたそうやけどな・・・」
「それからどうなったんや・・・」
裕二は杜夫の話しにその続きをせっついた。
杜夫はトイレから戻ってカウンターにつくと、再び続きを話し始めた。
女将も店が暇なので、先ほどから杜夫の話しに身を乗り出して聞いていた。
「そんで7月のある日のことや・・・ この月は珍しく大型台風が2つも
来てな・・・ その影響もあってか大雨が3日間も降り続いてて、
夜半にはその風雨がさらに強くなったんや。
そんな時、運悪く再び富はんが倒れはってな それが危篤状態や言うて
そんでな オトはんは関係する人みんなにオトさんは連絡しはってな
各々には目的があるさかい とにかく急いでみんな嵐の中を館に
集まってきたんや と」
その意外な展開に女将も裕二っも目をギラギラさせながら
聞き入っていた。
(2)へつづく