京都洛北の地に朝鮮の美術工芸品を展示する小さな美術館があります。
在日一世の鄭詔文氏が日本で収集した1700点に及ぶ朝鮮の美術工芸
品を専門的に展示、研究する日本最初の美術館だそうです。
1・2階に展示室があり、2階の一角には蔵書コーナーもあり手にとって読む
こともできます。
今回の企画展「私のお気に入り名品展」と名付けられた展示は、2014年秋
の「あなたが選ぶ高麗美術館の美」展で観覧者から寄せられた1100通のアン
ケートを基に「私の好きな高麗美術館の美」ベスト30の発表だそうです。
京都訪問の初日12月20日には、トークギャラリーが開催されるというので
行ってみることにしました。美術館訪問は2年振り、専門的に研究している方の
お話を聞きながらの見学は、初めてで期待大でした。
人気第一位は、李朝の白磁の壺でした。いわゆるタルハンアリ(月の壺)と
呼ばれる丸い真っ白な壺で、それは創立者鄭詔文氏が美術品収集を始める
きっかけとなったもので、古美術商の店先にこれを見つけて魅かれた氏は
いつか帰る祖国への、土産の一つにしようと暖簾をくぐったのだそうです。
この日の観覧者に、何故か注目を浴びたのが民画の虎の絵でした。写実的な
ものでなく戯画化され、どこかユーモラスな印象もある虎の絵は、観覧者中の
漫画を勉強中だという男性の集中質問を受け、皆が注目するところとなりました。
普段は家の中に飾られるこの絵は、お正月には門の外に飾られ、厄除けになる
のだそうです。(ソウル会賢洞には民画ばかりを集めた小さな美術館があります
からいつかそこにも行って、又いろいろお話を聞いてみようと思います。)
また朝鮮通信使に関連した絵もありました。江戸時代、徳川幕府の将軍が
交代すると朝鮮から祝賀の使節団が送られました。その様子を描いた『朝鮮
通信使参着帰路行列図』や、行列に付いて馬の上で軽業師が曲芸を披露する
様子が描かれた『馬上才図』に多くの人々が行列を見に集まって楽しんだ
様子が、良くわかるのでした。
2階には座の文化ということで、朝鮮時代の両班家庭の女性の居間と男性の
居間がしつらえてあって、全面に刺繍が施された屏風を背面に配し彩り華麗な
女性の部屋に対し、文士然とした男性の無彩色な落ち着いた部屋の雰囲気の
違いが一目瞭然でした。
そして図書コーナーの前には座布団が用意され、自由に座って気楽にお話を
して行ってくださいということで、しばし参加者で楽しく歓談をしました。
歓談が一しきり落ち着いた後、一人じっくり見直すためにもう一回りして、意匠を
凝らした始めて見る物入れ(箪笥?)に気づきました。
鮫皮玳瑁螺鈿双龍文籠( さめがわたいまいらでんそうりゅうもんのん)という
2層の箱型収納家具です。もう一つ豪華さでは引けを取らない黄角三層チャン
もありますが、それは前にも見たことがありました。写真は不可ですが、ご紹介
したいので絵ハガキを購入して帰り、写真に撮って見ました。
真正面からの写真でなくて残念ですが・・・
龍の輪郭は細く撚った黄銅の線で、顔や鱗は鮫皮、上部中央の模様は
べっ甲、周囲の雲は螺鈿で描かれています。考え付くありとあらゆる豪華な
装飾技法が使われている、そんな気がしてくる豪華さでした。
【ついでに】
実は、今回の訪問で展示物ではなく室内のインテリアとして置かれている
らしい棚に一番に目を惹きつけられました^^
手を触れないようにとの表示があったので、ひょっとしたらそれも展示品の
一つかもしれないのですが、何の説明書きもなかったので今回の展覧会の
ためのものでは無さそうでした。
それは5月の仁寺洞で見つけ、一目で気に入ってしまった木製の棚に似た
風合いを持っていて、何の装飾もない古い木家具ですが、とても気に
入りました。
これを見つけてこの美術館がますます気に入ってしまったのでした^^