長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

伽羅当世檸 ベランダ床下

2022年06月06日 21時11分27秒 | 歌舞伎三昧
 その疑念がわが胸に頭をもたげたのは、実を言えば先月のことであった。
 檸檬の樹に無邪気に寄宿しているのは、どうやら常のアゲハじゃない。

 葉の影に隠れた彼の存在を知らなかった或る朝、根方に水を遣ろうとした手が小枝にぶつかって、大きく揺れた。
 突然、カーマインレッドの筋がひらひらっと閃いたのだ。
 …?? レモン花の雄蕊の散り残りかしらん、サフランじゃあるまいし、ハテ扨てこんな色だっけ??? 
 しかも今季、ビアフランカ種の二株には、花はほとんど付かなかった。
 いぶかしく思ってよくよく見たら、下葉の陰に緑くんが居て、赤い二本の角をチロチロさせていた。

 ぎょっとして言葉を失ったものの、いや待て、レモンアゲハ(ナミアゲハの当家の呼称)のツノは、こんなじゃない、綺麗なレモンイエローだったはず…(目撃者は語る)
 急いで証拠写真を撮ろうと、室内に戻ってスマフォを引っ掴み、息せき切ってベランダに取って返すも、みどり君は何ごとも無かったように、涼しい顔でちんまりと葉陰に居た。

 (ぅわぁぁぁぁ…!!!)うちにいるのはアゲハじゃない…アゲハの皮をかぶった何者かなのだ……!!
 ママが怖い…と、楳図かずお先生の怪異におびえるキャラのように、彼らがうちに来たこれまでの経緯を密かに胸の裡で検証してみた。



 思えば、彼らが葉陰に姿を顕したとき、去年までの幼虫とどことなく違って奇妙な印象を受けたので、ひょっとしたら害虫かも…と不安に感じたのだったが、数日たって白黒のクジラ幕組に変容したので、ぁぁ、やっぱり揚羽だった、と胸をなでおろしたのだが、人間の第六感、虫の知らせを侮る勿れ、









 今年のみどり君たちは健康優良児だなぁ…と、育ちっぷりの見事さに目を細めていたのだったが、蛹化のため一人減り二人居なくなって、移動中の彼らをうっかり踏み付けないよう、恐る恐るベランダに足を踏み出し、さて、皆はどこへ行ったのやら…振り返ると我が後ろのサッシのヘリに緑色のしん粉細工が…



 (ギャァァァァ……)
 普通のアゲハらしい体勢で前蛹化したので、杞憂であろうか、と思えたのだが、



 演奏会から帰った夜、あまりに気になって薄闇のなかを透かして見ると…
 ……ぁあら、怪しやなぁ



 うぬもただのアゲハじゃあるめぇ…
 ゴブラン織りの衣装をまとった、蓑虫にも似ている、どうもこの子は並の揚羽じゃない。





 あんなに緑色だったのに、どうしてこんなことに…
 居ても立ってもいられず、グーグル先生に教えを乞い、あれこれword検索をかけてみましたところ、アゲハチョウの種類と幼虫の違い、というような記事を纏めて写真まで丁寧にアップしていらっしゃる、奇特な御方のサイトに辿り着きました。
 ありがとうございます(。-人-。)

 そんなわけで、舞台は床下から河連法眼館へ、ドロドロドロ…と仁木弾正ではなく狐忠信が出て参りまして、四の切に。
 静御前は何と言っても当代福助の声が我が脳裏に浮かびます。

   さてはお主は…黒揚羽じゃな…!! (字余り)

 予てより、令和4年5月中旬から6月上旬にかけて、我がベランダには8頭のクロアゲハ(恐らく)が育っていたのでした。
 ノブナガ君ファン的に申しますれば、エイト・ヤスケーズ。
 (スリー・ディグリーズみたいに言うな!)





 さて、本日は先ず、これぎり……

※本名題『めいぼく・あづまのれもん』(当世=とうせい=東生)の檸檬、これにて一巻の読切りでございます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする