遅かりし由良之助…
さすがに早暁に起きて三日続けてアゲハの羽化につき合うのは草臥れるもので、さてこそ、当家のクロアゲハは気が利いてござる。
いつの間にやら蛹化して、消息を知らしめて家内を安心させ、また人知れず羽化して去っていったのである…
と、何となくホッとしたのが、早朝の6時26分。
朝というには強すぎる陽射しの中で、レモンアゲハの鯨組が一匹、みどり君に脱皮している。
この暑さでは檸檬たちの水加減が心配である。
そうして、外気温36℃という暑さに耐えかねて、二時間おきぐらいにベランダへ様子を見に行くたび、まだ体長15ミリ程のちびっこの鯨組が一頭また一頭と脱皮し、美登利ちゃんへと変貌しているのだった。
〽葉っぱの乱れを 水差しで 引き揚げながら アゲハ算…(「四季山姥」畳算・改)
本日、午前中だけで4頭の幼虫が終齢のミドリちゃんへとグラディエイトし、
現在、当屋敷内には檸檬アゲハのサナギが二頭、幼虫が八頭、うち青虫が五頭、ベランダに居る。
三度目だったろうか、せめてもの冷却材として、タオルケットを洗ったのを干し拡げようとベランダへ出た時のこと、我が足音に戸惑ったように、クロアゲハが一匹、ふらふらひょっこりと飛び上がった。
あれあれ、隠れサナギが今また羽化したのだろうか…とビックリしつつ見送ったのだが、
やれ待て、ひょっとすると今お発ちのあの方は、この2週間というもの、植木鉢の陰でひっそり隠れ棲んでいたノワール3号ではなかろうか…
私がもぬけの殻の脱け殻を発見したのが、こう、今朝の6時20分ごろ…
今、足元から湧き立つように飛び出してきて去っていったのが、10時20分……
明智探偵の顔をした天知茂の声が私の胸に去来して、「ちょうど4時間…」というキーワードが井上梅次監督っぽく、エコーをかけて脳内に何度も響いた。
植木鉢台の下の物陰で、翅の伸びるのを塩梅していたのだろうか…
♪しんじられない事ばかりあるが、もしかしたら、もしかしたら、そうなのかしら……
さて、摺墨三番が、待ちかねたわやぃ…と言って旅立ったかどうかは定かでない。